橋宮 南菜 (はしみや みな) 大学三年生 21歳
煙草が嫌いでした。煙たいから、嫌いでした。私と彼が食事を食べ終えると、吸って良い?と聞いてくるのです。嫌だ。とは言えませんでした。
コンビニやスーパーに行ったときもそうです。私がお会計をしている時に、すっとその場から消えるのです。荷物を持って外にでると、喫煙場所に彼は立っています。そして、荷物を持ってくれました。
彼の部屋に遊びに行けば、ほんのりと煙草の匂いが香ります。でも、それはもう染みついたものなので、煙たくはありません。逆に私の部屋に彼が来たときは、彼から匂いが漂ってくるのです。これも煙たくはありませんが、私の部屋に染みつくのかなと考えてしまいます。でも、私の部屋で彼は煙草を吸わないので、そんなことはないのでしょう。
私の周りには、彼以外に煙草を吸っている人はいません。なので、彼と会わない時は気を使い、使われることはありません。食事に行くときも、カラオケでだって、喫煙可かどうか気にしないで良いのです。
お金も問題です。まあ、私が払うわけではありませんが。たった一箱で五百円ほどもします。それを二日に一個は買っているのです。一ヵ月で一万五千円です。そんなお金があれば、もっと色んなことが出来ると思うのです。数か月我慢すれば、旅行にだって行けます。といっても、それを理由に旅行に行かなかった訳ではないのですけど。
彼はストレス発散だとか、落ち着くだとか、空気感が美味しいだとか言っていました。でも、そういった事は煙草以外で代用できると思うのです。私からすれば、暖かい紅茶一杯飲むだけで、落ち着き、香りが美味しく、ストレスが和らぎます。でも、彼にとってはそうではなかったようです。
色々と言葉を零していますが、もうそんなことを心配する必要はなくなりました。今私は、自分の部屋で一人静かに紅茶を飲んでいます。やはり落ち着きます。でも、少しだけ物足りないような気もしています。
机の上には彼の最後の忘れ物がありました。数本だけ残っている煙草です。律儀にライターまでが、中の空いた空間に入っています。
私は初めて煙草を吸ってみました。
むせ返るような煙たさに、私の肺は拒否反応を示し、ほんの少し涙目になってしまいます。
これのどこに美味しさがあるのか、結局わかりませんでした。無理矢理に一本を最後まで吸って、火を消しました。残った数本はごみ箱に直行です。
煙草が嫌いです。匂いが香るから、嫌いです。
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