投げキャラVSダンジョン編 序曲

第11話 投げキャラVSチンピラ『仲間探し』

「町長、少しお休みになられてはいかがでしょう。ふたつの顔を維持するのは、たとえ町長の鋼の肉体であっても、荷が重いかと……」

「ふたつの顔? ハッハッハ、俺の身はここに、たったひとつさ。どこで誰が聞いているとも限らん。別人との混同は、たとえ秘書の君であろうと止してくれたまえ」


 アシッドシティの町長室、トレーニングルームの床には十字の形の落下跡が残り、潰されたサンドバッグから砂が飛び散っていた。

 汗まみれでその横に座る、アシッドシティの髭の町長。メイヤークリスチャン・シガーは、葉巻に火をつけ紫煙を吐き出す。その身を慮る秘書に対して、強がって見せるかのように。


「俺の理想は、ようやく動き始めたばかりだ……。ロザリオマスクは地下プロレスから人気を獲得し、バッドビルの幹部であるジャガンナータも姿を消した。これで教会の修道女の件も解決すれば、脚本ブック通りに事は進む」


 その時であった。町長室の扉が蹴り破られ、バッドビルの構成員たちがなだれ込んできたのは!


 ――これは、連戦に次ぐ連戦で疲弊したロザリオマスクが、倒れ伏し意識を失った数日の間に見た、在りし日の夢である。

 そう、レスラーが異世界に召喚され、ゴブリンとオーガとゴーストとドラゴンと魔法使いと戦ったあの日から、既に数日が経過していた。

 果たして我らが覆面神父は、無事なのか?

 無事である!

 現在のロザリオマスクは、復帰早々シスター・コインと酒場で語らっているところであった。


「仲間を作る? 俺が?」

「そうです。ダンジョンに挑むのであれば、仲間が必要です」


 アシッドシティの安酒場にも似たこの場所は、しかし人種も雰囲気も異世界然としていて、まるで違う。

 木製のジョッキに注がれたエールが行き交い、髭の小人や丘の小人が飲み下している。粗野な煮込み料理には、チェーン店のジャンクフードのような旨味はないが、朴訥とした味わいがあった。

 身動きが取れなくなるほどの大ダメージを受けていたロザリオマスクも、今や回復しきって体力満タン。こうした酒やつまみを、胃袋に詰め込みまくっているところである。

 火竜が倒されたと噂に聞いて盛り上がる酔客を横目に、その火竜を投げ飛ばした当人たちは気づかれることもなく(まさか大男が素手で投げ飛ばしたとは誰も思わないであろう!)、今後の方針を話し合っていた。


「仲間……というと、タッグ・パートナーか」

「タッグ・パートナー?」


 相変わらずレスラーがわけの分からぬことを言い、シスターが首をかしげる構図は変わっていない。

 しかし出会ってから日も経った。「この人の言葉にすべて疑問を呈していると話が進まない」ということを、さすがにシスターも学んでいた。自分が話したいことがあるときは、気になる部分も一旦スルーだ。

 というわけでシスター・コインは、話を進めていくことにする。


「タッグ・パートナーというのは、よくわかりませんが……。ここで言う仲間とは、ダンジョンアタックに必要な仲間のことです。冒険者、と言ったほうがわかりやすいでしょうか」

「おお、冒険者というのは俺も聞いたことがあるぞ。ファンタジーRPGに出てくるからな」

「ゲームのことはお詳しいですよね、ロザリオマスク……」

「そこそこゲーマーでな! ははははは!」


 ロザリオマスクは笑いながら、視界の端に店員を見つけ、「なんでもいいから地元の酒を」と注文をする。

 彼の持つジョッキはとうに空っぽになっていた。皿に残った煮物の汁を、飲み物代わりに口中に注ぎ込んでいる。


「しかし、仲間の冒険者か。すぐに見つかるのかねそういうのは?」

「いいえ、稀です。わたしの村にも、時折立ち寄る人がいるぐらいで……。大きな街にでも行かないと、頼れる方を見つけるのは難しいですね」

「ふうむ。人探しに時間を使うよりは、俺は一刻も早くダンジョンに行きたいんだが。君のお陰で怪我も治ったし、ノージャガーとやらにリベンジマッチをしたいのだ。やつが持っていたのが、聖遺物なんだろう?」

「おそらくは、ですが……。聖遺物のひとつ、『聖槍』かもしれません。風詠遺跡かざよみいせきに『聖貨』以外の聖遺物が眠っているという噂もありますし……」

「ならば、なおのことだ! 俺にはこの世界に呼びたい人物がいる。聖遺物は是が非でも欲しい。それに、火竜を連れ帰られたということは、火竜退治ファイヤードラゴンバスターもまだ終わっていないわけだろう。急ぐに越したことはない」


 急がば回れとはよく言うが、よく回るこの男ロザリオマスク、目的に関しては脇目も振らずまっしぐらであった。

 そんな彼をなだめつつ、コインは語る。


「はやる気持ちもわかりますが、あなた一人では無理ですよ、ロザリオマスク」

「君は来ないのか、シスター・コイン? 二人いればタッグが組めるぞ」

「もちろんわたしも付いていきます。でも、二人いればそれでいいとか、そういうことではないのです」


 何度も撤退の申し出をしたのにそれを振り切って、ドラゴンを投げ倒した男だ。

 その自信と実力には一定の信頼はあるが、それでも今回は、譲れない条件がある。


「火竜が住まうダンジョンは、この辺りではよく知られた場所で、風詠遺跡かざよみいせきと呼ばれています。このダンジョンは……三人でないと入れないんですよ」

「三人でないと入れない? どうして?」

「入り口に魔法がかかっていて、三人組でないと入れない仕掛けになっているんです。このダンジョンは火竜の根城でもあるので、軍勢による侵攻を阻止するのが目的でしょうが……」

「なかなか臆病なやつだな。戦ってみた印象そのままだ」

「もともとは、この風詠遺跡かざよみいせきの奥地でじっとしていた火竜なんですよね。それが突然暴れだしたので、あなたを呼ぶことになったわけです」

「その一連の火竜騒動の裏で糸を引いているのが、あの幼子の魔術師ノージャガーというところか? やはり早いところ投げ飛ばしたいものだが……」

「そのためにも仲間が必要なんです。しかし、大勢で入れないようにしているダンジョンの制限に、定員割れで入れないなんて」


 話の途中、慌てた様子の店員が、なみなみ注がれた木製のジョッキをレスラーの前に置いて去っていく。

 シスターの話を聞きながらロザリオマスクは、これをぐびぐび一気に飲み干して空のジョッキをドンとテーブルに置き、一声上げた。


「ミルクだこれ!!」

「あーっ! それお前のじゃねえからな、デカブツ! 一曲終わったら弁償しろよ!」


 酔客の群れの向こうから、ロザリオマスクに対して抗議の声が飛ぶ。

 細く背が高い一本柱のようなシルエットに、短く刈ってツンと立てた髪から伸びる、長い耳。丸メガネを載せた高い鼻。特徴からして、エルフであることは間違いなさそうだ。

 のっぽのエルフはギターを爪弾き、待ってましたとばかりの周囲の声を受けながら、「それじゃあ、英雄譚やるよ」と宣言。

 じゃっじゃかじゃっかとギターを掻き鳴らし、美しきハイトーンボイスで酒場を一気に支配する!


「むうっ? この風景は……?」


 驚いて周囲を見渡すロザリオマスク。

 ギター弾きのエルフが演奏を開始すると、酒場に染み出すように異国の景色が広がり、別世界に移動させられたかのような錯覚を受けたのである。

 柔らかな光に包まれた森、流れる河川、そこに立ち寄った白馬の上には甲冑の騎士が一人。

 かと思えば場面はくるりと入れ替わり、その騎士が王宮に足を運ぶシーンに移る。


吟遊詩人バードの魔法の一種ですよ。呪歌と言うもので、音に乗せて物語の風景を見せる、幻覚魔法です」


 耳元で囁くコインの解説を聞きながら、ロザリオマスクはエルフの歌に関心を寄せた。


「ほう……! 魔法というのはやはり面白いな! 俺の入場曲もこれでやってもらえないものか」


 歌詞と幻覚魔法で物語を伝えるという吟遊詩人バードの技も見ごたえがあったが、エルフ自身のライブも実に見ごたえがあった!

 情熱的なギター演奏と張り上げる声には、幻の風景が伴わなくとも一級の実力があるように思われる。

 ところがそこに、一人の酔っぱらいの苦情が放り込まれるのである。


「うるっせーな、酒の邪魔なんだよドサ回りが!」


 この声を受けてエルフは、丸メガネ越しに睨みを効かせて酔っ払いを威嚇するも、演奏を止める気配はない。

 すると今度は、食い残しの料理がエルフの元に投げ込まれ、演奏に聞き入っていた客の興が冷めそうになる。それでもエルフは歌をやめることなく、甲冑の騎士が姫を救う冒険譚を、立ち上がってより一層に披露し続けた。

 この態度に更にカチンと来た泥酔男は、フォーク片手にライブに乱入しようとしたのだが、とんでもない大男が立ちふさがるのである。


「なんだぁ? 音痴のエルフの連れか? 誰だこの野郎!」

「ロザリオマスクだが?」


 この異世界において、彼の名を聞いておののく奴など別にほとんどいないのだが、あえて名乗った。そう、ロザリオマスクだ!

 あわれチンピラはこの覆面神父の正体も知らぬまま、投げ間合いに入っていた。両手をがっしりとつかまれて人十字のポーズ。そのままダンスにエスコートするが如く、上昇を続け……。

 スクリュー・プリースト・ドライバー!

 にはならなかった。上昇中に酒場の天井にぶつかり、ロザリオマスクとチンピラが両方落下したからだ。

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