第10話かなしい願いを小さな手に
「ご、ごめんなさい...」
三十分ほど寝ていたらしい
謝ってばかりのこの子に責任など何もない
頬にあざを作った本人が謝るべきではないのだろうか
「なんだ、その目はぶつぞ」
「もがみ!!」
言葉にあまり覇気がない
(ははーん。ニーアに怒られたな...)
少女の目はジッと見開かれている
(まぁモガミに悪気がないのはわかる。この子を溺愛しているのだからしょうがない。)
はっ、と閃きそっぽを向くモガミに声をかける。
「ごめんなモガミ、勘違いさせて...」
できるだけ悪意を消し申し訳なさそうにする
(喧嘩はなァ!!謝ったほうの勝ちなんだよ!!)
「うっ...まぁ、わ、私のにも、た、多少の落ち度はあったな...」
詫びよう。と控えめな一言を残しモガミは歩き始めドアノブに手をかける
「どこにいくんだ?」
「話していたのだろう。邪魔者は少し消えるとするさ。」
「え、あ、...」
言葉をなくすニーアと反対にモガミはスタスタと出て行ってしまった。
彼女なりの気遣いの言葉と行動なのだろう。
ニーアの事となると冷静さを失うけど
「あ、あの...」
彼女は自信なさげにつぶやく
「私のせいで怪我ばっかりで...ごめんなさい」
完全に泣きかけてる!!
「うん。そうだね。」とでも冗談で言っても絶対に泣いてしまう。
そして俺は三度目の就寝することになる
「いや、まぁ...ごめんね?」
最悪の返答をした。
「....」
キョトンとしている。
「えーっと...」
「あなたは本当に変ですね...」
うーん。と考え込んでいる
彼女なりに思うところがあるのだろう
異世界からきたのだ少しくらい変なほうが現実味があるというか、わくわくするというか
「なぜ、あなたは私にこんなにも優しいのでしょう...一周回って罠のような...」
ガタンッ
(おいおい、勘弁してくれよ...なんでいるのさ...)
「で、でも、罠にしては巧妙すぎるというか。もはや目的がわからないというか...」
「わ、罠なわけないだろ!!」
「うっ..でも利益がなさすぎるといいますか...」
ハッ!!
「モガミがねらいですか!?」
ガタンッゴトンッ!!!!??
「いやいや 「も、モガミはあげられません!!」
「わ、私の初めての...でも、モガミが幸せなら...わたし...」
「まったまった!ニーアも可愛いじゃないか!!それに見返りなんていらないよ。ただ旅に同行するだけだよ」
「モガミはいい子なので!!私なんかにも優しくて!!」
「おい!!話し聞いて!!」
「ひっ...」
少女は聞く耳を持たない
人の優しさに疎い少女は、無条件を受け取ることができないのだ
優しさも笑顔も裏がある
そう育ってきたのかもしれない
単に自信が無いのと人を信じられないのには大きな溝がある。後者には自身の意思が無い
あたりまえだと、それが普通だと。
常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう
そんな言葉があるように少女にとっては常識になってしまっているのだ
「...」
「ニーアよく聞いてくれ。君は仲間だ、君を他の奴らと同じ目では見ない。」
「...」
「信じられなくてもいい、でも知っておいてくれ」
「...ぅう」
「じゃ、じゃあ、あなたはいなくならない...?」
振り絞って出てきた言葉は問いだった
「利用されてもいい、してほしいことはなんでもする。」
”だから、目の前からいなくならないで”
そんな願いさえ口にできない環境だった
そう聞こえた
「俺はいなくならないよ、君がそう願うなら。」
「...ぁ、うう///」
自然と手を取っていた
伝えるにはそうするのが最善だと思ったのだ
小さく握られた手は少し湿っていて問いの重さを物語っている
「ごっ!!ごめん!!」
「...い、いやぁ だ、大丈夫」
「下心はない!!自然と!!」
「...はい」
気恥ずかしさで声が大きくなる
鼓動が聞こえる
コンコン、ドアが鳴る
「は、入っていいか??」
「あ!!うん!!!」
「い、いいぜ!」
こほん、と咳払いをしてモガミが入ってくる
顔は少し赤く手を腰に当てている
「いやー、外はいい天気だったぞ。散歩は良いな!!」
「あ、え、そうなんだ...!」
えへえへと擬音が聞こえそうなほど、ぎこちない会話が繰り広げられている
明らかに聞いてたよな。
疑いの目を向ける
「なっなんだぁ!!」
「いや、なんでも?」
くすくす
「キサマァ!」
「おいおい!!」
切りかかってくる刃先にニーアが立ちふさがる
目はまっすぐモガミを見つめ、しっかりとした声色で告げる
「モガミ...ツカサは仲間だよ。乱暴はよくない。」
当然、刃はピタリと止まりすばやく引かれる
「にーあ...」
「モガミ優しいから。じょ、冗談なのはわかるけど...やりすぎは、かわいそうなので...」
「す、すまん!!!この通りだ!!!!!」
元の性格からは考えられないような速度でモガミが謝罪をする
「い。、いやいいよ!じゃ、じゃれ合いみたいなもんだし...はは」
「そ、そうかぁ!!いやーすまんすまん...」
同時にニーアの顔色を横目で伺う
「あ、えと///...冗談冗談なので...」
(えぇー。無理があるよニーアさん...)
自分でも予想外の行動に戸惑うニーアと共にモガミは驚きを隠せないようだ
まるで、この小さな少女に怯えているようにも受け取れた
「あ、えと!トイレに...」
慌てて部屋を出て行く
横顔は少し赤く見えた
「ニーアがあんなに自己主張をするとは...」
「てか、お前さっきの会話聞いてただろ」
「なんのことかな。」
「とぼけんな」
「二ーアを対等に扱ってくれてありがとう。彼女はつらい経験をしすぎた。」
閉められたドアを見つめ低い声で話す
顔は真剣味を帯び引き込まれてしまう
「私と出会ってから少しずつ彼女は変わり始めて感情を表に出すようになってきていたんだ。」
「...」
「もともと、おしゃべりな子ではないようだが私と出会った頃はひどいものだった。
感情などなく、生きることに執着が無いように見えた。」
「うん」
「自分の感情さえあやふやなあの子が人のために動くなんてな...」
「聞いていいか?」
澄んだ声で静かに短く「構わん。」と言われた
「お前とニーアの出会いはなんだったんだ?とても親族には見えない、耳ふつうだし。」
「私は今、休暇を取りに田舎に帰っている帝国騎士だ。」
「うん?」
「女だが少しばかり良い役職を与えて頂いている。」
「?」
「帝国第一等騎士団 副団長 が私の肩書きだ。」
「マジかよ、お前お偉いさんだったのか」
「今は休暇中だがな。」
「どう見ても休暇中の騎士様には見えないな」
「あぁ、私は反逆者になるつもりだからな。」
物騒な言葉は静寂の中に融けていく
覚悟は当の昔に決まっていて迷いなど無い。そんな瞳だ。
「なぁツカサ。正義とは何だと思う。」
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