第28話 俺が問題児達に「児ポ案件野郎」として拉致られた件



「そう、こいつは彼女らしき人物とどこかで別れたあとに道すがら見つけた幼女をバッグに詰め込み家に連れて帰った、極悪非道の大罪人なのだ!」


「最っ低……」


 見るとトッキーの隣に座ったツーサイドアップの女子が汚物でも見るかのような視線でこちらを見ていた。

 心が痛いです、とても。


「死刑!」


 正面に座る裁判長(?)がもう一度同じ文言を口にした。いやあんたは脳死で言ってるだろ。


「ちょ、ちょっと待ってください千輝先輩、それに裁判長」


 トッキーが立ち上がり、二人を制止させた。どうやら俺に救い船を出してくれるようだ。ありがとう、トッキー。


「七宮はそんなことをするやつじゃないと俺思います。何か理由がある。もしくは俺らが何か勘違いをしている、そのどちらかだと思います」


「ほう……」


 千輝がトッキーを見て目を細めた。


「ちょっと南々瀬ななせ、あんたこの変態の味方するわけ?」


 ツーサイドアップの女の子がトッキーを見てそう言った。

 トッキーの苗字は南々瀬と言うらしい。俺も特に親しくはないし南々瀬って呼ぶか。


「い、いや、ほら、逢奈あいな。さすがに有無を言わさずに有罪はまずいだろ。何かこいつも理由があるんだよ。女の子をバッグに仕舞わなきゃいけない理由がさ。な、七宮、そうなんだろ?」


 南々瀬は俺をつぶらな瞳で見つめてきた。

 くそ、胸が痛いぜ……。


「で、被告人、どうなんだ? 何か言い分はあるのか?」


 そんないきなり振られても困る。

 なんて言ったらこの絶望的状況を打開できてるのか全く分からない。

 俺はこのままだとどうなるんだろうか。

 死刑というのは流石に冗談だとしても確実に警察に突き出されるのは確定している。


 …………いや、待て。

 なんでこいつらは先に警察に突き出さずに裁判ごっこみたいなことをしているんだ?

 回りくどすぎる。先に110番すればいい話だ。

 つまり、これは俺に与えられた好機チャンス。もう一度七罪と会うためにもこの好機を逃してはダメだ。


 しかしそうは言ってもこの状況を打破できる作戦は思いつかない。

 正直に言っても〈神技スキル〉なんていう超次元的な異能力を説明することは出来ないし、それを無関係者に話すのは七罪との約束で禁じられている。


 さて、どうしたものか。

 絶体絶命な現状にも関わらず、俺の頭は青空の如く澄み渡っていた。

 七罪の顔を思い起こす。

 .........かわいい。


 妹のいない俺に妹が出来たように、不可能なんてこの世にはない。

 俺なら、できる。


千輝ちぎら先輩」


「なんだ?」


 俺は精悍な顔つきで千輝先輩を見つめた。


「その一枚目の写真って俺が女の子をバッグに詰め込む前の写真ですよね?」


「ああ、そうだが」


「その時点では何も知らない千輝先輩がなんで俺らの写真を撮っているんですか?」


「ほう……」


 千輝先輩は少し感心したように目を細めた。


「それはね、七宮君」


 口を開いたのは千輝先輩ではなく、正面に座る裁判官(?)だった。


「ちぎりんが『深淵を覗く部』の部長だからだよ」


「深淵を覗く部……? いや、その部活って確かニーチェについて調べるとかそんな部活だったような。何かこの状況と関係あるんですか?」


「ハッ。それは深淵を覗く部の世を忍ぶ仮の姿でしかない」


 千輝先輩は不敵に口角を上げながら話す。


「深淵を覗く部の真の活動内容は女子生徒の深淵を覗くことだ」


「………は?」


 あれ、俺の聞き間違いかな。この人、今なんて言ったんだ……?


「聞こえなかったか? 仕方あるまい、もう一度言ってやろう。深淵を覗く部の真の目的は女子生徒のパンツを撮ることだ」


「あんた何言ってんだ!?」


 先輩にも関わらず普通にタメ口でツッコんでしまった。

 いやこの際関係ないだろ。え、この人何言ってんの。頭おかしいんじゃないの?


「ちなみにニーチェのことも愛しているぞ」


「ニーチェに謝れ!」


「盗撮部なんて言われることもあるが、本当に心外だ。俺らは女子の深淵を覗きたいだけなのに」


「あんたもう黙っとけ!!」


 するとツーサイドアップの少女が口を開いた。


「千輝先輩」


「どうした空閑」


「気持ち悪いんで帰ってもらっていいですか?」


「はっはっはっ。お前のパンツを撮ったら帰ってやろう」


「ほんときもいんですけど……」


 空閑と呼ばれた少女はかなり引いていた。

 俺のことを見る視線よりもきついやつだ、あれ。


「千輝先輩……俺のこと言えた身ですか?」


「ロリコン犯罪者に言われたくないな」


「あんたにこそ言われたくないわ!」


 つまり、この人は七罪を盗撮する過程で俺のやったことを見つけてしまったと。

 ……ふむふむ。

 普通に犯罪者だわこの人。おまわりさんこいつです。とっ捕まえてください。

 千輝先輩は裁判長(?)に向かって口を開いた。


「裁判官、こいつは有罪でいいだろう」


「そうだね。じゃあ死刑! ついでにちぎりんも死刑!」


「な、なにィ!?」


「ふーかちゃん頼んだ!」


「承知しました」


 そう裁判官(?)が叫ぶと天井裏からガタッと音がした。

 その方向をみると天井の一部が取り外されているのが分かった。

 そこから、人影が音もなく落ちて、シュタッと何かが着地する。


「お、お前は……!」


 そいつは俺を気絶させたスクール水着を着たポニーテールの女の子だった。

 天井裏にいるとかこの身のこなしとか何者だよこの人……。

 スク水女は千輝先輩に一瞬で近付いて、


「や、やめろォ!! うぐっ………!」


 あっという間に俺の隣に俺と同じように椅子に縛り付けられてしまった。


「どうしてこの俺まで……ッ」


「いや当然ですから」


 千輝先輩は不服な様子で呟いたが、それを空閑が一蹴する。

 それにしても、このスク水女は───


「お前は、俺を手紙で呼んだ痴女だよな?」


「痴女じゃありません。これは軽装特殊防水戦闘着です」


「戦闘着………?」


「ふーかちゃんはね、忍者の一族なの。で、一番軽い服であるスクール水着を選んでいつも着てるってわけなのだ〜」


「は、はぁ」


 俺は曖昧に頷いた。こんな超人的な動きを見せられたら忍者と言われても信じるしかないけど、それにしてもスクール水着って……。

 俺はその見た目に苦言を呈すことにした。


「あの、すみません……もうちょっと着込んで貰っていいですか? ちょっと目のやり場に困るっていうか」


「そうですよ、風弥かざみ先輩。ちゃんと着た方がいいですって」


 俺の言葉に続いたのは意外にも空閑だった。

 ていうかこのスク水女、先輩だったのか。


「そんなこと言わずにもっと見てもらっていいですよ。ほらほら」


 そいつは身動きが出来ない俺の前に来て、凄い近距離で身体を見せつけてきた。

 目と鼻の先にスク水を着たやつが立っている。

 俺の視界いっぱいにスク水が広がり、頭の中もスク水で埋め尽くされる。

 うっ……なんだこれ、なにを見せられてんだ………。


「説明しよう!」


 そこで裁判長(?)が大きく声を上げた。


「ふーかちゃんは忍者の一族であるという理由を盾にスク水を着て校内を歩き回る露出狂なのだぁ!」


「やっぱり痴女じゃねぇか!」


「失礼な、私は痴女じゃありません。水着で露出された身体を人に見て欲しいだけなのです」


「それを痴女って言うんだよ!」


 ていうかずっとこの格好で過ごしてるのかよ、頭おかしいな。

 すると、隣に縛り付けられている千輝先輩がこちらに顔を向けて言う。


「七宮、ちなみにあの手紙書いたの俺」


「あれあんたかよ!」


 ハートマークとか丸文字とか書いたの千輝先輩かよ! ちょっと、……いや相当気持ち悪いな!

 なんだここの人たち……。

 南々瀬と空閑を除いた三人の頭が相当おかしい。何だか頭が痛くなってきた。なんだこの空間は。

 スク水女の風弥先輩は裁判長の隣に立った。


「裁判長、話を戻しましょうよ」


「そうだねトッキー」


 もう裁判の設定少し飽きてるじゃねぇか。

 正面に座る少女はいつの間にか口ひげも取られていた。

 めちゃくちゃ可愛い顔をしているが、言動が残念過ぎるし容姿がロリすぎる。


「じゃあ被告人何か言い残すことは?」


「ま、待ってくれ!」


「そうだ! 俺は無実だ!!」


「アンタは黙っててくれませんかね!?」


 千輝先輩はがたがたと縛り付けられている椅子の上で動いていたが、この人はすでに有罪が確定している。無駄な抵抗である。

 しかし、俺の場合は違う。何も悪いことはしていない。絶対に無実を勝ち取ってみせる。


「裁判長、俺が見ず知らずの女の子をバッグに入れて家に持ち込んだっていうのは誤解なんだ」


「ほほう?」


 裁判長(?)は所謂いわゆるゲンドウポーズをとる。


「この小さい女の子は俺の妹なんだ」


「それをどうしてバッグに詰める必要があるんだい?」


 そう、その問いに俺は答えることが出来ない。

 いや、答えると嘲笑されて言い訳だなんだと言われる、そんな予想がつく。

 しかし周りのこの変人たちを見ていたら何だか自分がひどく普通に思えてきて、俺はそれを声に出すことにした。


「俺は、妹が大好きなんだ。愛しているんだ」


 その瞬間、その部屋を一瞬だけ静寂が支配したのがわかる。

 その空気に負けじと俺は言葉を紡ぐ。


「そして俺には他に兄と弟がいる。兄と弟は性欲の悪魔だ。妹を隠して家に行かないと妹の身体が危ない。だから、他のやつに独占されないように妹を隠して家に入ることにした」


 俺は正直に言うことにした。疑問点はたくさんあるだろうけど、これが最前の答えだと胸を張って言える。


「それがこの写真の状況だ」


「えっと、つまり」


 最初に口を開いたのは南々瀬だった。


「妹さんとお互い了承して、それをやってたってこと?」


「そういうことだ」


立花たちばな会長、この人絶対嘘ついてますよ」


 裁判長は立花会長と言うらしい。なんの会長だろうか。変人の集いとかそんなのか?

 空閑にそう言われた立花会長は俺の前へとすたすたと歩いてきて、鼻と鼻が擦れ合うくらい顔を近づけてきた。

 そして、俺の双眸をただ見つめる。

 俺も目を逸らさずにジッと見つめ返した。

 ここで目を逸らしたら負けな気がする。

 見つめあいが十秒続いたところで立花会長は目を逸らして両手を両頬に当てた。


「………ぽっ」


「………は?」


「そんな見つめてきたら惚れちゃうでしょ………」


「あんたが近付いて見てきたんだろ!」


 やっぱりこの人おかしいよ。

 立花会長は自分の持ち場へと戻りよいしょと椅子に座る。


「うん、七宮君は何一つ嘘をついてないみたいだね〜」


『なっ……!?』


 この場にいる俺以外の全員が目を見開いて驚いていた。俺はその反応に逆に驚いてしまう。

 な、なんで俺と顔を合わせただけなのにそんな核心を得たように結論を出せるんだ......?


「つまりこいつは......」


 隣に縛り付けられている千輝先輩がこちらを横目に見て言う。


「本当にただのシスコンってことか?」


「うん、それも重度のね」


「七宮お前……」


 南々瀬がこちらを哀れむような目で見る。


「ただの妹思いのお兄さんだったってことね。疑って損した〜」


 空閑はいい方向に捉えてるようだ。

 だが、ここまでこのロリ高校生の立花会長の言うことを信じるなんて、違和感を感じざるを得ない。


「まぁということで……無罪!」


 立花会長は思い出したかのように裁判要素を持ってきた。

 スク水女の風弥先輩が俺を椅子から解放する。

 や、やっと解放された……。

 南々瀬は申し訳なさそうにこちらを見る。


「ごめんなー七宮。変な勘違いしちまって」


「ああ、まぁ大丈夫。俺もあんな写真見せられたら勘違いするよ」


 空閑がこちらを見て微笑む。


「あんた、妹ちゃんを大切にね」


「お、おう」


 だが、それにしても不可解なことがひとつある。


「お前らって一体何者なんだ……?」


 俺がそう口にした瞬間、皆の視線が俺に集中するのが分かった。みんな口をぽかんと開いて唖然としている。


 あれ、俺何かやっちゃいました……?


 俺が俺TUEEEE系の主人公みたいなセリフを心の中で思った瞬間、一斉に他の奴らが全員笑いだした。


「……え?」


 状況が全く理解できない。


「ひーーっひーーっ。笑いすぎてお腹痛い」


 立花会長がお腹を抑えて笑っている。いやそこまで?なんだこれ、どういうことだ。


「いやぁ七宮俺達のこと知らないでここまで付き合ってくれたんだな」


 南々瀬が目頭を抑えながらこちらを見た。


「教えてしんぜよう!」


 立花会長が大きく声を上げた。


「私達は瑆桜学園生徒会なのだぁ!」


 そこで俺の頭の中の噛み合わなかったパズルがようやく噛み合った。

 そういう事だったのか。妹しか興味のない俺は生徒会の人達すら知らなかったのだ。


「私は瑆桜学園生徒会会長の立花たちばな蕾果らいかだよ」


 こんな見た目も頭もお子様な人が生徒会長って大丈夫か、この学校。


「で、俺が副会長の千輝ちぎら村正むらまさだ」


 盗撮部部長が副会長って大丈夫か、この学校。


「私が書記の風弥かざみ楓佳ふうかです」


 スク水露出狂が生徒会書記って大丈夫か、この学校。


「私が会計の空閑くが逢奈あいなで、こっちが会計監査の南々瀬ななせ時宗ときむね


「ちょっ逢奈、勝手に俺のまで言うなよ」


「別にいいじゃん。手間が減ったことに感謝してよね〜」


「俺には俺のペースがあってだなぁ」


 この二人は普通だ。めちゃくちゃ普通だ。なんか凄く安心した。


「にしてもこの学園で私達のこと知らない人がいるなんてねー」


 立花会長が俺を見て言った。


「いや俺、妹以外興味ないので」


「お前、変態だな」


「アンタに言われたくねぇよ!」


 千輝先輩は先輩ではあるが、敬意を表す必要性がないことはもう俺の中で確定していた。

 だってこと人、七罪のパンツを撮ろうとしたんだからさ、仕方ないよな。

 ぶん殴りたいところだが、それでさらに面倒なことになったら大変だしな。


「疑問なんですけどなんで俺をあんな方法で呼んだんですか? 普通に生徒会室に呼べば良かったのでは」


「それじゃつまんないと思ってさ。面白い方が何事も楽しいよ〜」


 この生徒会長、タガが外れてやがる……。

 自分が楽しむために人をあんな呼び方して拉致するとか……。


「まぁ、この人は楽しいこと第一だからさ。許してやってくれ〜」


「まぁ、そんなに怒ってはないけど……」


 南々瀬の言葉に俺は曖昧に答えた。


「じゃあ七宮君! これからちぎりんの裁判を続けるから君は去ってくれたまえい!」


「わ、分かりました」


「ではまた会おう!」


 立花会長は満面の笑顔でこちらに手を振ってくれた。ほかのメンバーもみんな微笑んでいる。俺もそれにつられて頬が緩んでしまう。

 拉致されて冤罪かけられた身としてはおかしな話だけど、なんだかんだ楽しかったかもしれない。


「はい、ではまた」


 生徒会室から俺はやっとの思いで脱出した。

 扉を閉められた生徒会室の中からは千輝先輩の断末魔が聞こえてきた。

 何をされてるのか予想もつかないが同情の余地もない。

 あの人はほんとどうにかした方がいいな。

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