第43話 イルミアの実力

 目の前で剣を構えるイルミアからは少しの隙も感じない。


 イルミアの実力を把握しておく為に訓練場に集まっていた。

 と言っても取れる選択肢など限られていて、結局俺の時のように模擬戦をすることに決まったのだ。

 イルミアの相手だが、お互い全く知らないということでアロマになるかと思ったのだが、イルミアが俺としっかり戦ってみたいと言い出して俺が相手をすることになった。

 初めて会ったときは戦ったとは言えない程のものだったので、俺としても直接見れるのはありがたい。


 調査班にいる以上かなり強いと思うので気を引き締めて剣を構える。

 お互い手札は何も知らない。

 フィオンのことだ、知らない方が面白いとか言ってイルミアに俺のことは話していないと思う。

 離れた位置からこちらを眺めているフィオンは楽しそうな表情をしている。


 どちらが勝つと予想しているだろうか。表情からは読み取ることが出来ない。


 まあそれはいいだろう。

 余計なことを考えるのは辞めてイルミアだけに集中する。


「では・・・・・・始め!!」


 ミシェの開始の合図と共にイルミアに接近する。

 俺の接近に対してイルミアはその場での迎撃を選択したようで動かない。

 見たところフィオンと同じようにスピードで相手を翻弄する戦い方をしてくると思っていたので意外だった。


 初撃。俺の横からの斬り払いに対してイルミアは何でもないように剣で受け止める。

 そこそこ力を込めて放ったのだが、身体の使い方が上手いのか衝撃を下に受け流したようだ。


 直ぐに切り替えして攻撃を行う。

 剣術ではほぼ互角だが、流石に肉体のスペックでは俺が上回っているので徐々にイルミアは辛そうになっていく。

 このままでは危ないとイルミアは判断したようで、剣を受ける衝撃を生かしてイルミアが後ろに跳ぶ。


 しかし伊達に反射神経がやばいは言われていない。

 イルミアが下がったのに即座に反応して追撃に入る。


 そこへ魔法による攻撃が飛んできた。

 風属性のエアカッターが広範囲で飛んでくる。

 威力はそこまでない為多少食らっても致命傷にはならないが、無理に攻めれば流石に隙が出来てしまう。そこに攻めてこられたら厳しい展開になるだろう。


 ここは追撃を諦めるしかない。

 相手に攻めさせない為の最適解を即座に選択出来るのは高い状況判断能力があってこそだろう。


 一旦の仕切り直し。


 イルミアには全く息が切れた様子がない。


「思った通り、ラクリィは強い。だから・・・・・・本気で行くね」


 突然イルミアの雰囲気が変わる。

 ここまで感じなかった大きなプレッシャーが全身を伝い自然と警戒を強めることになった。


 今度はイルミアから動く。

 素早い動きで詰めてくるタイミングが中々計れない。


 いくつものフェイントを織り交ぜた後、遂に本命が来た。

 見てから即座に反応する。予測が無くとも間に合わせることが出来る俺の強みが強みを最大限に生かされる戦いの流れだ。


 俺の初撃と同じく横からの斬り払い。

 だが謎の違和感を感じた。

 本気でいくといった手前受けやすい攻撃を選択したこと。更にこの至近距離で攻撃に殺気を一切感じない。

 何かあってもまだ反応できる段階だと割り切り一応はそのままガードの体制に入る。


 だが予想は当たっていた。

 イルミアは攻撃の踏み込みを軽くしていた為に動くことが出来た。

 更に懐に潜られる。

 あまりの近さ。この距離では剣を振るのは難しい距離だった。

 攻め手はイルミアなのだが自ら不利な距離に踏み込んできたことに驚きを隠せない。


 しかしそれだけではなかった。


「な!?」


 左からの斬り払いは変わってないが剣を持つ手が左手一本になっていた。

 無駄に大振りになるだけではなく力も満足に入らないだろう。

 筋力で劣っている相手にやることではない。しかしそれゆえに何かあるのかと視線が吸い寄せられてしまった。


 胸のあたりに軽い衝撃、目を向けるとイルミアが俺の胸を右手で叩いていた。

 それ自体にダメージは無かったが――――――


「ぐっ・・・・・・」


 まるで地面に吸い寄せられるように倒れる。

 イルミアに触れられたところを中心に、上半身がとてつもなく重たかった。


 立ち上がることが出来ない。

 混乱していると上からイルミアの声が届く。


「私の異能ウェイトチェンジ。触れた物の質量を変化させる能力」

「・・・・・・なるほど、俺の服を重くしたのか」

「正解。さあ負けを認めて」


 まさかイルミアも異能持だったとは予想外だった。

 触れられた時点でほぼ相手を無力化出来るこの異能は確かに脅威だ。


「だが簡単に負けるわけにはいかないな」


 全身霧化を発動する。

 上半身の服だけを残すように霧化し拘束状態を脱す。

 俺が突然消えたことに驚いているイルミアの背後に霧化のまま回り、実体化した後首元に剣を突き付けた。


「・・・・・・油断した。そんなことが出来るなんて」

「俺の勝ちだな」

「降参。ラクリィ強かった」


 そうして無事模擬戦を勝ちで終えることが出来た。


 終わったのを確認してフィオン達がこちらにやってくる。

 何故かアロマが顔を赤くしていてフィオンとミシェはニヤニヤしている。

 トアンに関しては顔を引きつらせていた。


「なんだ? 皆してそんな顔をして」

「あ、あのねらっくん・・・・・・」

「上半身裸で女の背後から剣を突き付けてるのは絵面がやばいぞ。私でも恐怖を感じるな」


 フィオンに言われて服を残して霧化したのを思い出した。

 その後主にフィオンに散々からかわれたのは言うまでもない。








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