第39話 フィオンの気持ち

 ミストライフもかなり力がついてきた。

 その最たるきっかけになったのは確実にラクリィだろう。

 仲間に引き入れた私自身、ここまでいい流れになるとは思ってもいなかった。


 偶然ラクリィとアロマの会話をメリユース国内で聞いたときはどうにか仲間に出来ないかと考えた。

 アロマの方が色々と考え違和感も持っているようだったが、その心に危うさを感じたので仲間にするならラクリィが好ましいとは元々思っていた。


 ラクリィからは何か強い意志のようなものを感じた。

 こいつは私と同じだと直感的に思ったのだ。


 結果的にはどちらも仲間になってくれてよかった。


 2人とも強いのは分かっていたが、正直な話をすると私には及ばないとも見ていた。

 事実ラクリィと模擬戦をした時も、そこまで余裕があったわけではなかったが、いくらやっても負ける気はしなかった。


 物を霧化する力。

 確かにどんなガードも無視して相手に攻撃出来るのは脅威だが、1対1で王達と渡り合えるかと聞かれれば否だ。

 実際私にすら決定打を与えられなかったのだから。


 だがリレンザの話を聞いて新たな可能性が浮上してきた。

 リレンザが言っていたラクリィと似た霧化の力を持った男の話。

 リレンザとは長い付き合いになるがそのような話は初めて聞いた。


 その話によればそいつは自信の肉体すらも霧化させ戦ったらしい。

 ラクリィの異能と酷似した力だ。

 ならばラクリィも同じことが出来る可能性がある。

 だが過去に同じ異能が出現した例はない。記録が残っていないだけの可能性も大いにあるが。

 今までの常識手に考えるのであれば出来ない可能性の方が高い。

 出来て欲しいとは思うが、私はそこまで期待してはいなかった。


 結果からしてみれば、ラクリィはやってくれた。

 自身の目で見たが、あれは王達に対抗出来ると断言していいほどに強力な力だった。

 諸々の制限はやはりあるようだが、使いこなせれば私よりも強くなるかもしれない。

 頼もしいことだ。


 こうしてふと思ったが、ラクリィの力は何なのだろう。

 異能と言われているが、もしかしたら全く別の何かではないのかと何故か思ってしまった。

 その理由はやはり霧という一点に限る。

 今のこの世界と無関係だとはとても思えないようなその力。ただの異能にしては出来すぎている。

 もしかしたら何か指名的なものを背負っているのではないかという予感がした。


 どちらにせよラクリィは何らかの形でこの世界に確変をもたらすと確信した。


 改めて考えていると本当に不思議な奴だ。


 私はラクリィのことをどう思っているのだろう・・・・・・。


 まだ出会ったばかりなのにどうしてか心を許してしまっている気がする。

 実力があって頼もしいのはもちろんのことだが、それだけでここまでの信頼を持てるものだろうか。


 先のヨルムンガンド戦では危ない場面があった。

 あれは確実に気が抜けていたからだろう。

 戦闘中に私が気を抜くなど今まではなかったことだ。


 どうにもラクリィと話していると気が抜ける。

 別に常にふざけた話をしているわけではないので、これは確実に私自身の気持ちの問題だろう。


 仲間に感じているような感覚とは少し違う。

 恋愛感情なのだろうか、そう思い考えてみる。

 ラクリィの容姿はまあ悪くないと思う。性格の面で考えてもむしろ好ましい部類に入る。

 志も私に限りなく高いものがある。


 しかしと否定する。

 自分が誰かにそういった感情を抱くことが想像できなかった。


 もやもやするがアロマがラクリィに抱いている感情が今の私のものと同じものだとは、とても思えなかった。


「これ以上は考えても仕方がないか・・・・・・」


 これからも長い付き合いになるのだ、答えはそのうち出るだろうということにして考えるのはやめた。


「さて、そろそろ次の動きを考えるか」


 もうじきイルミアが帰ってきて調査班メンバーが全員揃う。

 そうなれば戦力的にもかなり安定する、であれば多少危険を冒しての回収を行ってもいいだろう。


「さてさて・・・・・・ふふっ」


 これからのことを考えると思わず笑みが零れてしまった。

 少し前までのこそこそと動くばかりではなく、もう少し直接的に動けると考えると楽しみになってきた。

 ようやく忌々しい奴らに痛手を与えることが出来るかもしれない。

 楽観視は出来ないが、少しくらいは思ってもいいだろう。


 この後遅くまで作戦立案をしていて次の日寝不足できつかったのだが、フィオンがどうしてそうなったのかは誰にも分からなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る