第36話 一段落

「それじゃあ帰るとしよう」


 一連のごたごたも片付き、外に長居する必要もないので取り合えず帰ることになった。


「帰ることには賛成だが、レイラ中佐とサレンさんはそのまま帰してもいいのか?」


 俺としては、あの2人をどうにかしてしまうよりも、何もなく帰してくれるのならそれに越したことはないのだが、ミストライフとしてはどうなのだろうと思ってしまう。

 フィオンは話をつけると言っていたが、その内容を俺は知らない。だとしたら、その話したことで、何かミストライフの不利益になることはないとなったのだろうか。


「お前が心配するようなことは何もないから安心しろ。私が任せろと言ったのだ、信頼してくれているのだろう?」

「それはそうだが・・・・・・」


 どうやら話してはくれないらしい。

 釈然とはしないが、フィオンがこう言っている以上は聞かなくても問題はないのだろう。


「・・・・・・分かった、とりあえず帰るか。流石に少し疲れたしな。アロマもそれで大丈夫だな?」

「うん。もう決めたから迷わないよ」


 アロマは俺の言葉の意図を正確に理解して返事をする。


「レイラ中佐、サレンさん。俺達は行きますね。もう・・・・・・帰れないと思いますが、また会えることを祈っています」

「ふっ、自分の選んだ道を精一杯歩んでみろ。何が正しいか間違っているか、迷うこともあるかもしれないが、国という庇護から外れた以上それは己で考えるしかない」


 レイラ中佐は厳しい表情で言葉を放つ。

 しかし、それは敵としてというよりは、こちらを心配してくれて言っているような、まるで親が旅立つ子供に大切なことを言い聞かせているような感じがした。

 そして一通り言い終えると穏やかな表情になる。


「もし私達の助けが必要になればいつでも帰ってこい、ある程度は何とかしてやろう。――――――さて私からはこんなもんだ。世話になったのは私よりもサレンだろう。しっかり挨拶してやれ」

「ありがとうございますレイラ中佐」

「このご恩は忘れません!」


 俺とアロマの礼を聞くとレイラ中佐は下がっていった。


「サレンさん・・・・・・」


 次いで前に出たサレンさんは、若干辛そうな表情をしている。

 この人とは、長い時間を共にした。俺だって別れるのは辛い。アロマだって・・・・・・


「2人とも強くなりましたね。嬉しいという気持ちと、なんだか寂しいという気持ちで何と言っていいのかわかりません」


 サレンさんは俺達の目を真っすぐ見据える。


「私はずっと自分のあるべき場所を見つけられずにいました。一線を退いたのもそれが理由です。そんな私にも、居場所と言えるかは分かりませんが、やりがいのあることを見つけました。あなた達と出会って」


 耐えきれずといった様子で涙を流しながら、サレンさんは俺達を抱きしめた。


「あなた達に色々なことを教える日々は私を心の底から満たしてくれた。慕って付いてきてくれるあなた達が可愛くてしょうがなかった。まるで弟と妹が出来たようで。

 同時に、教えたことをすんなりと吸収していくあなた達に期待していた。将来国を背負っていく子達になるのだと。それまでは私が何としても守ろうと考えていました」


 サレンさんの抱きしめる力が強くなる。ただ苦しくはなくて、とても安心感のあるものだった。

 俺の隣にいるアロマまで泣き出してしまう。


「でも・・・・・・、あなた達も自分のあるべき場所を見つけたのですね。まだ、子供だと思っていたのにいつの間にかこんなにも大きくなって」

「サレンさぁん!!」

「ありがとうアロマ、そしてラクリィ。あなた達は自分の進むべき道を進みなさい。ただ忘れないで、私はいつまでもあなた達の味方ですよ。・・・・・・たとえ世界が敵になろうとも、それが正しくある限りいつでも力になります、間違っているのなら叱ってあげます。だから――――――」


 サレンさんは俺達から離れもう一度真っすぐこちらを見つめる。


「いつかまた帰ってきて、私にその顔を見せてください。いつまでも待っています」


 サレンさんはそれ以上何も言わず、踵を返して去って行く。

 名残惜しくても引き止めることはしない、その代わりに俺とアロマは自然と頭を下げた。


「「今までありがとうございました」」


 気付けば俺の頬にも涙が流れていた。

 サレンさんには返しきれないほどの恩がある、その恩んに報いるべく何が何でも世界を平和にしようと思った。

 涙を拭い顔をあげる。


「それでは帰ろうか」

「ああ」


 それまで黙って待っていてくれたフィオンの言葉と共に俺達は帰路に着く。

 今回のことで、未練は全て断ち切りようやく一段落というところだった。ここからはひたすら前を向いて進んでいくだけ、止まることは許されない。

 さらに腕を磨き、世界に蔓延る不を全て払拭したその時は、足を止めゆっくりとあの人の共にまた過ごそうと思った。

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