第34話 VSアロマ決着

 回避は不可能だった。土壇場で見せた異能の変化、恐らくアロマの強い意志が起こした奇跡のようなものだろう。

 そして、振り返り見えたアロマの瞳には涙が浮かんでいる。

 アロマ、そこまで・・・・・・。

 あふれ出てくる未練をグッと飲み込む。

 譲れないのは俺も同じだ。

 全身霧化。今日までは回避不可能だったかもしれないが、あくまでも今日までだ。

 アロマの剣が当たる寸前、俺は消える。勿論霧となってしまえば斬られることはない。

 そのままアロマの背後に回り、実体化してアロマの首に剣を添える。


「俺の勝ちだ」

「驚いた、本当に強くなったんだねらっくん」


 不思議なくらいアロマの声色は落ち着いたものだった。


「アロマ? ――――――!?」


 振り返ったアロマの顔は涙に染まっていた。

 俺は思わず戸惑ってしまう。俺の記憶にある限り、アロマはほんの少しの、それこそ1雫程度の涙を流すことはあっても、ここまではっきり泣いているのは見たことが無かった。


「ふふ、驚いた? わたしって実は泣き虫なんだよ? らっくんが谷底に落ちたあの日以降は、毎日自室でこんな感じ。ほんと、弱いよねわたしって」


 口調は軽いが、あふれ出す涙は止まっていない。その様子が今しがた断ち切ったはずの未練を蘇らせてくる。


「らっくん聞かせて? あの日、らっくんが落ちていった後にあったこと。フィオンさんからどんな話を聞いたのかを」

「それは・・・・・・」


 話してしまおうかは、既に1度悩んだ。ただこの話は1度聞いてしまえばもう後には戻れない。本当に命懸けだ。

 それにフィオンは何と言うんだろう。俺の一存で話してしまってもいいものか。


「話してやれラクリィ」


 何も言えずに悩んでいるとフィオンがやってきた。その身体には傷1つ付いていない。精々服の端が切れている程度だ。


「フィオン! あの2人は?」

「なんだラクリィ、私達の心配までしてくれるのか?」


 フィオンに続いてレイラ中佐とサレンさんもやってくる。2人は多少の傷があり、髪も乱れていた。

 戦いはどうなったのだろう、既にそんな雰囲気は漂ってはいないが。


「どうなっているんだ?」

「まあ、それは後でだ。――――――アロマ王女、ラクリィにその話を聞くのであれば命を懸けろ。それでもと言うならば、話してやれラクリィ」

「もう、命なんて惜しくない。らっくんだけを危険な世界に入れるなんて、わたしは自分を許せなくなるから」

「そうか、なら私達は少し席を外そう。ゆっくり話すといいさ」


 アロマの覚悟にフィオンは満足そうに去って行った。レイラ中佐とサレンさんも邪魔をする気はないらしい、フィオンについていく。

 俺だが、事が進むのが早すぎて状況についていけていなかった。

 アロマは話を聞く気満々だった。俺としてはあまり乗り気ではなかった。アロマはこのことに関しては非常に難しい立場だ。最悪自分の親と敵対することになる。

 この話を聞くということは、ミストライフに入ることを意味するからだ。納得できなくて、ミストライフに入ることを拒絶すれば、フィオンがどういった行動を取るか。仮に生きて帰らせてもらえたとしても、この情報を知ってしまったことを王達が知ってしまったらどうなるか。命を懸けるというのはそういうことだろう。


「アロマ、出来れば俺はお前にこの話を聞かせたくない。危険なことなんだ」

「また、そんなこと言って!!」


 顔に衝撃が走る。アロマに思いっきり叩かれたのだと理解出来た。


「危険なこと? わたしにとって? 違うでしょ! らっくん自身に危険はないの!?」

「それは・・・・・・」

「そうやって何も知らずにらっくん全てを任せて送る平和な生活を、わたしは望んでる訳じゃない! 背負わせてよわたしにも! わたしはらっくんの過去になりたくない!!」


 泣きながらも、その真剣な気持ちは伝わってきた。

 思えばシノレフの兵士に囲まれた時にも、同じような顔をしていた。

 あの時の教訓を何も生かせていない自分に腹が立つ。


「そうだな。ごめん、俺が間違っていた。一緒に背負ってくれるか?」


 俺の言葉にアロマはようやく微笑んで――――――


「うん、喜んで。わたしはどこまでもらっくんの味方だよ」


 そう言ってくれた。






 ――――――――――






「話は終わったか?」

「ああ、すまない待たせたな」


 頃合いを見てフィオンたちが戻ってきた。

 もしかしたらどこかで聞いていたのかもしれない。そう考えるとなんだか恥ずかしかった。

 アロマに話した結果としては、まあ俺の時と反応は然程変わらなかった。もちろんミストライフにも入ると決めてくれた。


「これからよろしくお願いします、フィオンさん」

「うむ、よろしく頼む。それと敬語はいらんぞ


 フィオンの奴さっきまではアロマ王女なんて呼んでいたのに、やはり挑発してただけか。

 それにしても――――――


「なあ、最初からこうなることを予想していたのか?」

「まさか、出会ってしまったのは本当に偶然だよ。まあ、会ってからはこうなるよう誘導したりはしたが」


 そもそもフィオンが挑発したりしなければこんなことにはならなず、もう少し会話でなんとか出来た気もしなくはないが、アロマの力が見たかったとかか?

 本当に恐ろしくも頼もしいとも思える奴だと思った。

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