第16話 ミストライフ加入

 3日間大いに悩んだ。

 食事などはフィオンが運んできてくれていたのだが、その料理はとても4国から逃げている組織だとは思えないほどしっかりしたものだった。

 材料などどうしているのか聞いてみたが、流石に答えてくれなかった。


 ただ、フィオンとは少しは仲良くなれたと思う。

 空いた時間に話したりしたが、フィオンの人柄自体はかなりいい。歳も驚いたがフィオンが俺の1つ上で1歳だという。

 フィオンにも話せることと話せないことだ当然あるので会話の内容はくだらないものばかりだったが、いい気分転換にはなった。


 そして1つわかった、というか感じたことがある。

 フィオンは俺にミストライフに入るのを、脅しなどして強制はしなかったが、本心としてはどうしても入ってほしいと思っているように感じた。

 初日に聞いた王達の組織はかなり力を持っていると言っていた。

 そして、俺に入ってほしい理由は戦力の増強だろう。

 現状知っている奴だけでよくてギリギリ勝てるかどうかと言っていたが、言い方からしてフィオンが知っている情報が全てではないと考えているんだろう。

 他に相手に戦力がいた場合を考えて、フィオンとしてもなるべく戦力を増強しておきたいのだろう。


「ラクリィ、失礼するぞ」


 声がしたと思ったらフィオンが入ってきた。


「さて、急かすようで悪いがそろそろ答えを聞かせてくれ。うちのメンバー達も不安に思う者も出てきている」

「わかった、そういう約束だしな。ただ最後にいくつか聞きたいことがあるがいいか?」

「今更そんなこと聞かなくても答えられることならなんでも答えるさ」


 フィオンがそう言うのは分かっていたが、自分の中にある何かを切り替えるために聞いたのかもしれない。

 俺は痛む体を無理やり起こし姿勢を整えた。


「まず初めに、正直疑ってはいないが初日に話してくれたことは真実か?」

「真実だ。霧のこと、戦争のこと、それから王達のことも」


 俺の問いに間入れず真剣な表情でフィオンは答えた。


「次に、ミストライフと王達の戦いで関係のない一般人が巻き込まれ、必要にない命が失われたりしないな?」

「それに関しては絶対とは言い切れない。相手にその考えがあれば例えこちらにその意思が無くとも被害が出る可能性はある。――だが誓って言うが、わたし達はこれまでもその辺のことに関しては出来る限り慎重にやってきたし、これからもそうするつもりだ」


 確かにフィオンの言う通り絶対はないのだ。だがこれまでもミストライフの名が出た国内での争いごとはなかったのだ。かなり気を使って今まで行動してきたのだろう。


「最後だ。フィオン、俺が目指す――いや、俺達が目指している平和は戦争で人が死に悲しみや恨みが生まれず、国が違くともお互いが手を取り仲良くなれる世界だ」


 これは俺とアロマが目指す理想論だ。俺自身もう戦場で人を斬るのはうんざりだ。それが歪んだ意思のもとにやらされていると聞いてしまったらなおさらだ。


「ミストライフは俺達の目指す世界を作れるか? 俺の力が加わればそれに近づけるか?」

「ラクリィ、わたし達が目指しているところはそんなところではない。無意味な戦争は勿論終わらせるさ。――だがな、それだけじゃ足りない! 霧も排除し今の人間が住む場所を限定された世界を終わらせる。世界のどこであっても人間が自由に生きていける世界を作ってやるさ! その為にはラクリィの力が必要だ。わたし達と一緒に理想を掴もう!!」


 フィオンは立ち上がり高らかに理想を語った。

 ミストライフに入っても人はどこかで必ず斬ることになるだろう。

 だが、目的も不明瞭な中国が違うというだけで相手を斬るのとは違う。その一歩は必ず理想に近づくとフィオンは感じさせてくれた。

 ならばもう迷うことはない。自分の信じる道を進もう。


「はは、随分と大きな理想だな。その言葉に二言はないな?」

「もちろんだとも」

「なら俺もその理想を目指す1人になろう! 俺の全てを使ってくれ!」


 アロマのことなど気になることもあるにはあるが、明確に自分の生きる理由が見つかった気がした。

 俺が握手の為に手を差し出すと安心したようにフィオンはその手を握った。


「よかった・・・・・・」


 フィオンがぼそりと呟いたが聞こえていないフリをする。

 きっとこいつも大きなものを抱えて生きているんだ。少しでも支えになれるように頑張ろう。


「とりあえず俺はこれからどうしたらいいんだ?」

「そうだな・・・・・・色々とあるがまずは怪我を直すところからだな」

「それもそうか」


 すっかり忘れてたことを思い出し2人で笑いあう。

 この3日間でも2人で話すときに笑うことはあったが、ようやく仲間として笑えて謎の安堵感がある。


 その後詳しい話は後日に回すことに決めゆっくり休むことになった。

 横になると体に取りついたものが色々と抜け落ちたように感じ、久しぶりにすぐに夢の世界へと落ちることが出来た。

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