第5話 大型霧魔獣

 周りの状況を見るに、事の大きさを理解しているのは半々といったところだった。そのほとんどが対災害部隊の者達で、人戦部隊の者は反応が薄い。

 俺自身も、事の重大さを理解出来ずにいた。


「人戦部隊の者は大型の霧魔獣と言われても想像できないと思う。私ですら見たことは無い。今から説明することは偵察に行った者からの報告書が元となる」


 レイラですら見たことがないという大型の霧魔獣、アロマは見たことがあるのだろうか。

 気になったので小声で聞いてみると、「わたしも見たことは無いよ、話に聞いてだけ」と返事が返ってきた。

 話に聞いただけであの反応をするということは、その内容がとんでもないのだろう。俺は手ににじみ出てきた汗を拭き、報告書を取り出したレイラの方に向き直した。


「大型の霧魔獣とは、その名の通り普通の霧魔獣とは大きさの規模が違う。今回出現した奴はその全長が約50メートルに及ぶ蛇型の霧魔獣だ」


 50メートル!? 俺も霧魔獣とは何回も遭遇してきたが、大きくても精々5メートル程だったぞ。

 そんな奴どうやって倒すんだと周りからも聞こえてくる、俺もその意見には同意だ。


「静まれ! 確かに50メートルの化け物を倒すなんて不可能に思うだろう。だが霧魔獣には致命的な弱点があることを忘れるな」

「魔力官ですか」


 アロマがレイラの言葉に対する答えを口にする。

 霧魔獣は多かれ少なかれ魔力を持っている。それは人間も同じことだが、霧魔獣はその魔力官と呼ばれる器官で魔力を生成している。

 一説によれば、この魔力官のお陰で霧の中という過酷な環境でも生きていけているとされている。

 霧魔獣にとって魔力官はとても重要な器官らしく、石のように結晶化したこれを破壊すると霧魔獣は絶命してしまう。


「流石アロマ姫だ、よく勉強していらっしゃる」

「いえ、そんなことはありませんよ」

「アロマ姫の言うとおり霧魔獣には魔力官という弱点がある、それは奴も例外ではないはずだ。それを見つけ出して叩く」

「しかし全長50メートルの巨体から見つけ出すのは相当苦労しますよ」


 おそらく災害部隊の者が言ったであろう言葉は確かにその通りだろう。

 よく見かけるウルフ辺りの霧魔獣であれば、兵士ならば誰でも魔力官の場所を知っているが、今回は見つけるところからだ。


「それでもやるしかない。放置しておけば甚大な被害が及ぶ、戦争の勝敗にも直結してくるだろう。考えうる限り最善の策も用意している、今からそれの説明に入るぞ」


 レイラから告げられた作戦は以下の通りだ。

 まず、大地の裂け目から最も近い農村に拠点を構える。

 部隊編成はここに集められた部隊長30からそれぞれ2人が組み、その下に30名の一般兵の編成で部隊を組む。その際、災害部隊と人戦部隊の混合部隊になるように組むこと。

 こうして作られた計15部隊でローテーションで戦っていく。これは相手に休む時間を与えないためだ。


 作戦としては最善であり無難なところだろう。

 しかし疑問がある。

 俺とアロマは部隊長ではない。レイラが何も言ってこないということは、間違いで呼ばれた訳ではないだろうが。

 仮にもし指揮を任されるのだとしたらそれこそ無理だ。俺もアロマも指揮経験なんて無い、こんな大掛かりな作戦にぶっつけ本番でなんて正直やりたくない。

 アロマも同じようなことを思っているのだろう、困惑した表情だ。


「作戦についてはこんなところだ。最後にアロマ姫とラクリィ、君達の役割についてだ」


 レイラの言い方からして俺達が呼ばれた理由にはやはり訳があるらしい。

 突然名前を呼ばれ、レイラに名前を憶えられていると思っていなかった俺は若干驚いてしまった。


「君達には私と共に特別部隊を組んでもらう。部隊とは言っても私達3人に加えてあと1人だけだが」

「レイラ中佐自ら戦線に立つのですか!?」

「今回は流石に私も指揮を執っているだけではいられないさ。戦況の把握には他の優秀な者が着くから大丈夫だ」

「質問よろしいですか?」

「かまわないぞ」

「何故俺達2人が選ばれたのでしょう」

「簡単な理由だ、強さだよ。この国に君達と殺し合いをして勝てるものが何人いる? 私ですら勝てる自信が無いぞ」

「それは・・・・・・」


 そんなことはありませんとは言えなかった。

 俺にはと呼ばれる魔法とは違う特殊な力がある。

 そしてそれはアロマにも。

 この力があれば1体1であれば俺は自分が負ける姿を想像することが出来ない。勿論使わずともそこら辺の相手に簡単に負けるつもりはないが。

 確かに俺は強い、口には出してこなかったが間違ってはいないはずだ。


「わかりました。自分に出来ることを全力でやらせていただきます」

「わたしも、お役に立てるのならば頑張らせていただきます」


 俺達の言葉にレイラは満足そうに頷くと、俺達にこの後残るよう告げてこの場の解散を指示した。


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