第38話 E級冒険者パーティー魔王DEATH
システアがギルドマスターに大声を上げると周囲の視線は全てシステアへと集まっていた。
だが、そんなことはどうでもいい。
どうせこの後、ちょっとした演説をするつもりだったので、ちょっと早くなっただけの話である。
「システア様、ちょっと大げさすぎませんか? 確かに彼らはE級冒険者ですが、悪気があったわけではないようですし」
ギルドマスターは自分に対してではなく、黒髪の少年たちに向かって大声を上げたと勘違いしているようだ。
黒髪の少年たちは少年たちで「やっぱまずかったか?」「失礼な女だ。もう帰りましょう」などとギルドマスターには聞こえない声で呟いている。
「ギルドマスター、お主に言ったんじゃ! 彼らは貴重な戦力じゃ。なんとしてでもご協力いただけ!」
「えっ、ですが彼らはE級冒険者——」
「ワシはC級冒険者相当の実力を持つ者と言ったんじゃ。彼らは問題なくその枠に収まっておるわ!」
ギルドマスターは彼らの心配をして、帰りを促した事は分かっている。これから始まる戦いではE級など戦力の足しどころか足手まといにしかならない。
だが、システアの見立てでは彼らの実力は明らかにA級冒険者に達していることは間違いない。
それどころかシステアにも本当の所、見ただけでは彼らの実力を把握しきれていないのだ。
特に黒髪と金髪の少年。この2人の底が本当に知れない。
魔力をかなり抑えているらしく、本人たち的には抑え切っているつもりなのだろうが、システアから見ればダダ漏れである。
それでもシステアはこの2人が未熟だとは思わない。
普通の人間の魔力ならば完璧に抑え切れているほどの制御力である。だがそれでも体の隅々からにじみ出ている魔力の濃さと圧力が凄まじい。
まるで上位クラスの魔人の魔力をそのまま人間の体に無理やり押し込んだ。——そんな印象をシステアは受けた。
システアはギルドマスターを無視して黒髪の少年の方に向き直った。
「君達のパーティー名は?」
システアはリーダーと思しき黒髪の少年に尋ねると、少年は一瞬言いたくなさそうな表情をしたが、観念したのか素直に答えた。
「『魔王』です」
「『魔王DEATH』か、……余程魔王を倒したかったのか?」
既に魔王は無く、この少年の願いは叶うことはないだろう。いや、叶ったと言うべきか。
システアの失笑を誘うネーミングセンスだが、黒髪の少年は慌てて訂正する。
「いや、違います。『魔王』がパーティー名です。DEATHはつかないです」
「……それはそれでなかなか思い切った名じゃの」
まさか人類の敵と言われる名をそのままつけるとはこの少年もかなり思い切ったことをすると流石のシステアもあきれ顔で言った。
「あ、いえ、横の馬鹿が勝手に」
黒髪の少年が言うと金髪の少年がなぜか誇らしそうに笑みを浮かべている。
強いが頭が弱いタイプの剣士か。弱いというかおかしいという正しい気もするがシステアは気にしない事にした。
「そういえば名を聞いていなかったの。教えてはもらえんか?」
「俺はクドウ、金髪の奴がアール、女の方がメイヤです」
E級という事は初心者冒険者のはずなので当たり前と言えば当たり前だが、システアは聞いたことがない名だ。
それにしてもこんな田舎とは言わないまでも中規模の町の冒険者協会にこれほど規格外な新人が3人も集まるものだろうか。
「クドウ達はシラルークで出会ったのかの?」
「いえ、俺たち村から出てきた幼馴染で……」
システアでも心までは読めない。
だが、明らかに嘘である。
こんな規格外というか化け物みたいな新人が3人も同じ村出身などということは絶対にありえない。
絶対に絶対である。クドウの言い淀み方といい、間違いないだろう。
だが、システアはここで「どこの村かの?」などと聞くことはしなかった。
クドウの明らかに嘘と分かっている嘘だが、それを聞いてしまっては少年の言葉は完全に破綻してしまう。
そんなことで今回の作戦にクドウ達が参加しなくなるという事はないと思うが、絶対はないし、そもそもクドウ達の心証を悪くすることすらシステアは避けたかった。
それほどまでにクドウ達の存在は今作戦において大きいとシステアは確信している。
「そうか、ギルドマスターが失礼したが、ここに来てくれたという事はクドウ達は今回の作戦に参加してくれるという事でいいのじゃな?」
そもそもシステアは強制参加と言って呼び出したわけだが、ここでクドウが「E級なのでお断りします」といえばそれまでだ。
「ええ、帰れと言われれば帰るつもりでしたけど、必要とされているならもちろん参加しますよ。まぁそもそもその作戦っていうのもまだ何か聞いていないんですけどね」
「あぁ、そういえばそうじゃったな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます