39.魔法とスキル

森の草木の間を素早く跳ねる角兎がいた。

低木へ潜り、辺りを警戒しては次の藪へと移動していく。

俺はその行動を目で追いながらタイミングを計っていた。

そして、角兎が巣穴に飛び込む寸前、土の玉が斜め後方から突き刺さる。

固い玉による撲殺。これが持ち運ぶのに都合がいい。

俺は兎を掴み、目と鼻の先にある村へと戻る。

捌き方は慣れていないので村人に教わってる最中だ。

お礼に捕れた獲物はその人にあげる事にしている。


俺の目的は身体強化を使わずに得物を取る事だ。

ついでに捌き方も教わっているが、獲物が欲しい訳ではない。

無駄な殺生と思うかもしれないが、村は裕福でもないし俺も熟練ではない。

この取れた角兎も三日ぶりだ。


獲物がいそうな場所で身を潜め、行動を先読みして土の玉を放つ。

これが今の俺に出来る事だ。

あれから数日経ち体調は良くなったが、足の傷は治っていなかった。

走る事はおろか歩くのも覚束無い。


足を治す事は簡単だが、戒めの為に自然回復を待つ事にした。

簡単というのはスキルで回復を取れば簡単という事。

四属性魔法に回復はないから、二ポイントを使って回復スキルを取る事になる。

そこで問題になるポイントだが、沙狼しゃろうに襲われた日にナビが言おうとしていたのが、ポイントが増えたという事だった。


きっと食肉植物から助けた彼のポイントだろう。

あれから精神的にも立ち直り、だいぶ回復していると聞いている。

有難いという気持ちと嬉しさがポイントの重みを感じさせた。


これで手持ちのポイントは二つになった。


ポイントを使って回復スキルを取れば良いと思うかもしれないが、重要な事がある。

その他で取ったスキルは全て使用すると魔力が半減する。

ゲームなら初期に取れるか、所持しているような回復が魔力半減では、コストが掛かり過ぎる。


もう一つ。

四属性魔法の画面では起点の玉から、単体、複数、身体強化、壁の四つに枝分かれしている。

属性ごとに四つだから計十六個。それが五段階で八十となる。

表示されているのが全てという条件付きでだ。

もし表示されていない物が何かの条件をクリアする事で現れるとするなら、それを先に確認しておいた方が良い。

貴重なポイントは一つも無駄にしたくない。


「そういう事で、ナビ。ここに表示されてる魔法が全てと考えていいのか?」

「あなたは戦闘に特化したタイプなので、新たに表示されたとしても戦闘系の魔法になります。あなたは戦闘以外に使いそうですが……」

「なんで戦闘に特化したタイプなんだ? 別に好戦的でもないんだが」

「それは、あなたと異世界を照らし合わせた結果でしょう。あなたは異世界へ行けばボスを探し、死に至らしめる事が好きな人ですから」

「それはゲームの話だろ!」


確かにゲームなら生産より戦闘を優先していたが、普段の生活で争いを好むかと聞かれれば否定するだろう。

輪の中心的な存在ではなかったが、輪を乱す存在でもなかった。

それはこの世界に来ても変わらない。変わった事と言えば好奇心。

この世界を見て回りたい、この力で何が出来るのか試してみたい。

そんな子供の頃、抱いていた思いがある。

その為にも下手に怪我をして、中途半端な所でリタイアなんて事にはなりたくない。


「回復はスキルでしか取れない事は分かったけど、敵を探知する魔法とかもあったりするの?」

「そういう魔法が取れるかで言うと取れません。そもそも敵とはどういう存在ですか?」

「そりゃあ、俺を殺そうとする存在だろ」

「一瞬の気の迷いで、あなたに殺意を抱けばその人は敵という事ですね」

「そこら辺は、前後のやり取りでって……わかってるよ! 曖昧だって言いたいんだろ! 急に襲って来られるのが怖いんだよ」

「襲われるより、襲いたい。そんなあなたの今日のラッキーアイテムは傘です」

「何占いか分からないし、この世界に傘あるんかよ」

「それこそ傘を作り出せるスキルを取れば解決です」

「取んねえよ!」


急に話が逸れたが、相手より先に気付ければ良い。

探知といっても一つに絞りたくはない。

魔物に絞ったとして襲ってくるのが人かもしれないし、他の種族かもしれない。

生き物として考えると植物、襲って来ない小さな魔物や草木なども含まれる。

何かに絞ると他が見えなくなるというのは、使い勝手が悪い気がしてきた。

敵の条件を入力し検索を掛けたとしても、そんな曖昧な条件いくらでもすり抜けられてしまいそうだ。

他に何かないか。見つかる。見つける。見つけ難い。見つかり難い……

そうか、いくら俺でも敵が近くにいれば分かる。

その時、俺が相手に気付かれていなければ良いのだ。


俺の思いついた事が実行できるなら、相手がどうであろうと、こちらが先手を取れるに違いない。

俺は口元が緩むのを感じた。

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