27.準備運動
俺の仕事は土を作り出す事。
土を一定量作り終えたら、後はログさん任せだ。
俺が世話をしたら、芽が出ることもなく枯れるのは間違いないからな。
ここは専門家に任せ、経過を見るとしよう。
「上から目線で、偉そうな事を言っていますぜ。ログの旦那」
ナビが俺の思考を読み取ってログさんに耳打ちするが、どうせ聞こえない。
ここは敢えて無視だ。
俺は補充し終えたとログさんに伝え、次にやるべき事を考える。
家の修復も考えていたが、ルートヴィヒが動いているので辞めた。
俺が色々やるより、村人が主体となってやった方が良いだろう。
どういう物が出来るか見てみたいってのもある。
村の暮らしを改善し、持続できると分かれば俺は満足だ。
後は水の確保が安定して出来ればいいのだが、俺には水脈を探し当てる力もなければ、川までの道程を魔物の心配なく行き来できる案も浮かばない。
川は村の北から東へと斜めに流れていて、川までの道がある東が一番安全に水を汲みに行けるのだと言う事は、シュロさんに会った当初に聞いていた。
雨水を貯めて生活用水として使ってはいるが、それほど雨が降る地域でもない。
今は良い案が浮かばないから後回しだ。
そういう事で、結局、俺に出来る事は塀作りとなる。
以前、クメギに村付近の木を伐るのを注意された時は挫折したが、今の俺はあの時とは違う。
今こそリベンジだ。
何時も話すときは夕飯後だなと思いながら、シュロさんの家を訪ねる。
俺は頓挫した以前の話を切り出した。
狩猟道具の整備をしながら、シュロさんは俺の話に耳を傾けた。
「確かに今の君なら北側の森でも大丈夫だろう。北から迫る魔物も気になるし、明日にでも行ってみるか」
そういえば、
沙狼の脅威となってるとすれば、それは村の脅威になると言っても過言ではない。
今、村が大丈夫だとしても何れは……
そうならない事を願うばかりだ。
明日の段取りを少し話し合い、俺は家を出た。
最近は狩りから遠のいて体が鈍っているかもしれない。軽い運動でもしておくか。
久しぶりに身体強化を使って村の端をぐるっと回ってみる。
村周りの様子見も兼ねて回ってみたが、暗闇が広がる森の中を見渡せる程、観察眼はない。
スピードを上げる事で相手の動きが多少は遅くなるけど、異変を見抜くとかそういう事ではないのだろう。
闇を見る魔法でもないしな。
そう言えば、身体強化って持続時間あんまり気にしてなかったな。
「身体強化が魔力を三つ消費するのは以前お話した通りです。持続時間は解かない限り永続的に続きます」
「永続的に出来るなら、解かないで良いんじゃないか?」
「効果時間が魔力の回復量と同じと言った方が解りやすいでしょうか。使用中は魔力の最大値が三つ減った状態になります」
「という事は、身体強化中に使用できる魔法の回数が減るのか」
「当然そうなりますね」
もし俺が四属性の身体強化を全部取っていたとしたら、使った時点で何も出来なくなる。
「殻に篭った変態ですね」
「誰が変態だ!」
俺は身体強化でスピードの上がった張り手を、ナビに食らわした。
戦闘系の技なので、気を抜いた時間が続く事で自動的に解除されるという。
そういえば、今まで解除した記憶がないな。
狩人として使ってた時もあったけど、あの時は気を回してる余裕なかったしな。
今までぎりぎりの戦いをしてこなかったから良かったが、次から万が一の事を考えて魔法やスキルを取ったらよく聞いておくべきだな。
「詰めが甘いと、この世界で生きていけませんよ」
「お前が説明不足なんだろうが!」
「過剰に説明したとしても理解できるとも思えません」
「それは何か? 俺が、馬鹿だとでも言いたいのか?」
「違います。頭の回転が悪いと言いたいのです」
「同じ事じゃねえか!」
俺はナビに振りかぶった張り手をお見舞いした。
その時、鋭い視線を感じた。
背筋が一瞬にして冷える。
「どうしました?」
「今、何かに睨まれてる感じしなかったか?」
「マスコット愛護団体の方ですかね」
「違うわ!」
急に闇が深く感じられ、身震いした俺の上から声が降ってきた。
「そんな所で踊ってないで、早く家に帰りなさい!」
びっくりして見上げると、手を振り上げて怒る見張り人がいた。
あんな感じで怒られるのは学校の先生以来だなと思いつつも、素直に従う。
「見張り人の視線に身を震わすとはまだまだですね」
「いや、あの人そんな殺気込めてなかっただろ」
「という事は、やはり愛護団体の方ですね」
「どうして、そうなる!」
俺はまた見張り人に、張り手と言う名の踊りを披露した。
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