24.狩れる魔法使い

翌日からの俺の一日。

・朝一狩りに出かける

・倒れたら休憩後、木登り

・水や薪の確保

・畑の手伝い


村人として生活する事で体力というものは着実についていった。

村の改良計画は止まったままだが、代わりに俺の成長計画は躍進していく。

狩りや村の生活など覚える事は多かったが、今まで触れてこなかった世界で新鮮に感じた。

水を吸うスポンジの如く、俺は村の仕事を吸収していった。


体の使い方も慣れ、力の逃がし方や切り替えし、横から縦への移動術などを会得していく。


「魔法使いとしては、間違った体つきになりましたね」


数か月後、俺の体を見たナビの感想だ。

貧弱だった手足は筋肉が付き、腹も割れた。

俺は前衛でも通じそうなくらいの体を手に入れる。

身体強化のおかげで無茶な動きをしても怪我を負わないのは、かなり大きい。

筋肉は破壊と修復の繰り返しで付いていく。

身体強化のおかげでスピードを強制的に上げ、筋肉に過度の負荷をかけると同時に修復される。

ナビの言っていた負担がないとは、即時修復するという事。

この仕様でノーリスクハイリターンな体作りを可能にした。

身体強化・風を使える体になったと言い換えてもいい。


筋肉と経験を積む事で、俺は身体強化なしでも狩りを行う事が出来るようになっていた。

それに伴い、俺の仕事も狩り主体へと変わっていく。

狩りに参加する事で、魔物達の生活範囲が変化している事にも過敏に気付けるようになった。


徐々に沙狼しゃろうが南下し、押される形で痺猿ひえんが村へと迫って来ていた。

沙狼が生活圏を広げているのではなく、北から新たな魔物が沙狼を押し出している、とシュロさんは予想していた。

生活圏を広げている沙狼の密集度が痺猿より高かったからだ。

魔物達の生息は村から東側が多く、痺猿が村寄りに接近してきた事で、遭遇を懸念して西側の狩りが多くなる。

偏りが出ると採取量も必然的に減ってくる。それは痺猿も同様だ。

そして、時は来る。


俺が狩場で採取している横で、ふいにシュロさんが顔を上げる。

つられて俺も周りを見渡したが、何も変化は感じられなかった。

時刻は昼過ぎ、まだ視界に支障の出る時間ではない。


「戻るぞ!」


シュロさんは周りに聞こえるように叫ぶと走り出した。

その先には村がある。俺は採取を切り上げ後に続く。

森から村へ続く道へと出ると、村の方が慌ただしいのが聞き取れた。

流石というべきか森を抜ける間に離され、シュロさんはだいぶ前を走っている。

村へと道を走っている間にも、散っていた狩人の面々が森から姿を現す。

ここでスキルを発動。他の狩人を振り切り、シュロさんの背中が近づいて来た。

村に着く直前、森の中からクメギが飛び出し俺の前に躍り出る。

枝を跳ね飛ばし、葉っぱが巻き付くその姿は猪を連想させた。

森を抜けて来てこの速さ。シュロさんを越えているんじゃないだろうか。


村に着くとすぐに痺猿の姿が目に入った。

シュロさんが手近の痺猿にボーラを投げつけているのが見えた。

ロープの両端に重りが付いた狩猟武器だ。

痺猿の足に絡まり体勢を崩した所へ、クメギによる槍の一突き。

流石は師弟、連携が取れている。

村にあちこちで暴れる痺猿に対抗する村人と、小さなモフモフ。

かなりの数で押し寄せてきたようだ。

身体強化のスキルで既に魔力は三減っている。

水玉一発で撃退出来るとしても残り七発と考えると、痺猿の数が多い。

下手に打って魔力切れになるのはまずい。


俺は近くの家に入って槍を探した。

各家に数本ずつ備え付けているのは知っている。

家の主はいなかった。何処かで戦っているか村長の家に避難しているのだろう。

村の中央の村長の家は、村人が集まれるように広く頑丈な作りとなっている。

何かあれば村長の家に行く事は、熟知されていると言っても過言ではない。

俺は家の隅に立て掛けていた槍を掴み外へ出た。


後ろから何かが被さって来た。痺猿だ。

俺は咄嗟に前に転び引き剥がすと、低い姿勢のまま痺猿と対峙する。

首に軽い痺れと痛みを感じた。離れる時に爪で引っ掛かれたようだ。

身体強化とはいえ、完全に攻撃を防ぎきれるものではない。

一番低い強化スキルだしな。


俺は低い姿勢のまま痺猿に突っ込み、槍を突き出す。

痺猿は軽々と躱し、ウキキと笑みを漏らしたかのような表情で空中へ。

その顔面へ水玉が炸裂した。空中に逃げたのが運の尽き。

痺猿は地面へ潰れるように落下した。


ムカついて貴重な水玉を使ってしまった。

何とか槍だけで倒すようにしなければ。

余り使い慣れてないけど……


次の痺猿を探すべく、俺は周りを見渡す。

そこへ再び何かがおぶさってきた。俺はまた痺猿かと思って転がった。


「南からたくさん来た」

「モフモフかよ! 驚かすな」

「あっちいっぱいいる」


南から来たというのに東を指す小さなモフモフ。

そっちに移動したのかと思い、先に行く小さなモフモフに続いた。

そこには痺猿と戦う四つの小さなモフモフ達がいた。

いやもっといるな。五、六……

全部いるじゃねえか。何時の間に集合してんだよ。


モフモフがいっぱいいるって言っていたのは仲間の事だった。

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