18.薪木

ここまで俺が知った事を纏めておこう。

この村の東西には道が伸びている。

伸びていると言っても、曲がりくねった舗装もされていない道だ。

西に行けば村の人達が元住んでいた村があり、東に行けば川がある。

村にある十軒の家には、単身、家族それぞれ住んでるが、村長以外の家は雨風を凌げるだけといった具合の簡素な作りの家だ。

モフモフがピンボール並みに跳ねれば、簡単に壊せるくらいの代物である。


畑では白髪混じりのログさんの元で、数人が入れ替わりながら働いていた。

クメギがこの村の狩人の長と思っていたが、クメギには師匠がいた。

師匠のシュロさんは気さくなお兄さんと言う感じの人だ。

村の外ではシュロさんが指揮を執ることが多いが、中ではクメギに指揮を任せているようだ。

狩りはシュロさんクメギを軸に、男女関係なく数人で行動を共にする。


何をするにしてもメインの人がいて、それに付く人は入れ替わりながら手伝う。

色々な事をやりながら素質があれば、クメギのように師弟となっていくのだろう。

他にも薬剤、保存食、見張り、薪割りなど仕事は多い。


そんな中、俺は肩の怪我を治しつつ、水玉を出し続けるだけの簡単なお仕事だ。

俺にとっては簡単だが、村にとっては有難いらしく、多めに水を貯めるようにしている。


俺の当面の目的は肩を治す事。

そして、この村を打たれても平気なくらい頑丈にする事。

北側に生息する沙狼しゃろうと、敵対する南側の痺猿ひえん

この魔物を倒す自信もないし、倒した所で他の魔物に取って代わるだけだ。

今の所、村が襲われても身を削りながら、撃退は出来ている。

村が強い訳ではなく、魔物が弱い訳でもない。

魔物にとって今の村は脅威ではなく、これ以上縄張りに近づくなと言う牽制なのか。

深追いしてくる事もないという。

それでも柵を壊され、撃退に時間を割く割合が増えれば、生活も苦しくなる。

この先、村に魔物の目が向けば、簡単に潰れてしまうだろう。


そこで、村を守るために必要なのは塀。塀を作る材料は木。木を伐る道具が風玉だ。

便宜上、玉とは付くが、円盤状の風である。切れ味の良い丸鋸と思えばいい。

大きさは手を広げた状態と同じくらいだろうか。

手と平行に浮いた風玉を投げれば、木を両断してくれるだろう。

そう思った俺が甘かった。

細い枝葉は貫通しても、幹は一回で貫通せず、二回目も同じ角度で投げる程、俺に技術がある訳でもない。

試し切りにと村付近の木に何度も風玉を投げつけ、歪な形で倒れた木を見下ろしながら俺は溜息をついた。


「鋸を作り出せるスキルを取れば解決です」

「悩む気ゼロか!」


悩む俺の横で、ナビがおかしな事を言いだした。

確かにたくさんの鋸を作り出せれば、この村の道具の一つとして使われるだろう。

だが、俺は大工になりたい訳じゃないし、風玉より切れ味が悪くなるだろう物にポイントを使いたくはない。

そもそも、ポイント一つしかないから取れないしな。


固定した所に投げれれば良いのだが、何年かかるのだろうか。

固定、固定と繰り返しながら、風玉を浮かばせては、同じ所を狙って投げつける。

そこで気が付いた。風玉を投げる前は、掌の数センチ上で固定されていると。

風玉が対象に当たると回転の勢いが弱まり掻き消えるのは、何度も使って分かっていた。

その性質は投げる前でも変わらない。

これが分かれば、あとは木の倒れる方向に気を付けながら伐るだけだ。

俺は斜めに切れ込みを入れながら、見事、綺麗な切り口で木を倒す事に成功した。

この方法でやれば、角材を作り出す事も出来る。

俺が高笑いする横で、ナビは呆れたように呟いた。


「また変な事を思いつきましたね。少しはまともに使ってください」

「まともにって言われても、俺は何かと戦いたいと思う事がないんだが」

「わかりました。理由があれば良いんですね」

「まあ、ちゃんとした理由があればな」

「今まで隠してましたが、私はあなたの敵です。私を倒す事が出来なければ、元の世界には戻れませんよ。さあ、どうします?」


ゆるキャラなのにこうも悪い顔が出来るのか、と思える表情でナビが不敵に笑う。


「前やったけど、お前に俺の攻撃効いてないんじゃないの」

「今だけ特別に効きます。大特価です」

「何の安売りだよ!」


思わずナビを叩いてしまったが、ナビは平然と浮いていた。


「ぐふっ! やるな……」

「大根の育ち過ぎた役者か! 素手でダメージ受けてるし」

「この程度で、私を倒せるとでも?」

「キャラがぶれすぎてやる気にもなれん」

「恐れをなして逃げる気ですか」

「いや、もし仮に倒せたらどうなるんだよ」

「私は向こうとこちらの世界を繋ぐ者。私を倒すことで向こうに戻れなくなります」

「どうやっても、戻れないんじゃねえか!」


俺は思いっきりナビを叩き落とし村へ帰った。

何本か倒した木はちゃんと薪として使われるのだ。

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