8.仕事探しはルーフ

俺は再び村に来ていた。

昨日、モフモフによって潰された家が無残な姿を晒している。

どうやら飛び散った木片に火が付いただけで、他の家に燃え移る事はなかったようだが、潰れた家は建て直さなくてはいけないだろう。

後ろ手に縄で縛られた俺は奇異の目で見る村人の中を進み、一際、大きな家に連れてこられた。


村長と数人の村人が中央の焚火を中心に半円を描くように座っていた。

俺は村長の前に座らされ、後ろにクメギが立つ。

村長は老人ではなく柔和そうなおじさんだ。


「話があるというのは君か。村の周りを徘徊していたと聞いたが」

「ええ。実はこの近辺の生体に興味がりまして、調査の許可を頂きたいのです」


一人でいるのを怪しまれたが、不慮の事故で仲間と逸れたと嘘を交えて説明した。

仲間を見つける間、この村に置いてくれるよう頼みこんだ。

村にいる間、仕事を手伝うことも付け加える。

これでも魔物の意識を他に向ける術があるのだと、昨日、モフモフを村の外へ連れ出したのを利用して、それらしく言っておいた。

当然モフモフと俺は一切関係がなく、村から十分離れた場所まで連れて行ったことにした。


俺の説明に村人たちが騒めき立つ。

俺をどう扱うかで揉めている様だ。

俺をほっぽり出した所で、この村の周りを嗅ぎ回り、いらぬことをするとも言えない。

この村にいさせるには不明な点が多すぎる。

魔物を退けたと考えるなら、昨日の魔物と同等の力があるんじゃないか。

そんな力を向けられたら村は無傷ではいられない。

口々に言う村人の意見は否定的なものが多かった。


「困っている時はお互いさまだ。仲間が見つかるまで村にいるといい」


そう言い村長はクメギに合図する。

俺は縛りが解けるを感じた。


この村で信用されるには、村人に力を貸していく必要がる。

村が発展し俺も魔法の使い方を学べた暁には、村人達からの信頼の眼差しを向けられる展開になっているはず。


「この家で寝泊まりしなさい。それと、君の世話役としてルーフを付けよう。まだ子供だが、村の事は君より知っている」


隅から一人の男の子が歩み出た。この子がルーフなのだろう。

座っている俺よりちょっと背が高いくらいの子供だが、やけに落ち着いた感じの子だった。


「よろしくお願いします。早速、村を案内しますか」

「そうだな、村を見せてもらおう」

「わかりました。では付いて来てください」


俺は村長とざわつく村人に軽く会釈をしてルーフに続いた。

何故あんな奴をという声を聴きながら家を出る。


家を出てすぐ目の前には大きな焚火があった。

この焚火が村の中心になる。

ルーフは焚火から焼け残った枝を取り出し、地面に何やら書きながら説明してくれた。


「この焚火の脇にあるのが今出て来た家です。北、南東、南西にそれぞれ三つずつ家があります。昨日壊れたのは北の家。後、北西に畑があります。村は柵で囲われていて東西に出入り口があります。実際に、見て回りますか?」

「いや、それより先に村の仕事で俺が出来そうなこと知りたい」

「得意な仕事ってありますか」


俺は会社のデスクワークを思い出す。

この世界では役に立たない事ばかりだ。

もっと役に立つことを思い出せと頭を悩ます事二十分、何も出る事はなった。


「それでは村を回って、どれが自分にあってるか体験してみるのはどうでしょう」


見かねてルーフが提案してくると同時に閃いた。


「得意な事あったわ、水汲み」


見た所、この村には井戸がない。

ならば村の外へ水を汲み取りに行っているはずだ。

村の外に出るなら魔物に襲われる危険も増し、運搬にも複数の人材がいるだろう。

その点俺は水を作り出せる。

生きていく上で必要不可欠な水の確保を一人で出来るならば、村にとってもだいぶ助かるはずだ。


村の外に出る危険な作業だというルーフに俺は水玉を見せる。

魔法に興味を見せたルーフと共に、俺は家を回ることになった。

水は各家の水瓶に溜めているらしく、満した状態で五日持つ。

家の数から毎日二軒ずつ水瓶を満たせばいい。

一件目のほぼ空になった水瓶の前に立ち、水玉を落としていく。

ちょうど十個落とした時点で満タンになった。


魔力回復のために休憩がてら中央の焚火へ戻った。


「魔法が使えるなんて、すごいですね! 僕、初めて見ました」


急に子供のように燥ぐルーフを見ながら俺は余裕の笑みをみせる。

誰だって煽てられるのは嫌いじゃない。

ルーフのような実直な顔で言われたら木にでも登れそうだ。


「僕は村の事を広く知っているだけで深く知っている訳じゃありません。村の配置だって父や村の大人達が考え作ってるのを僕は見ているだけでした。狩りにしてもクメギ姉ちゃんにも敵わないし、畑の知識だってログおじさんに敵いません。村を纏める事だって父のようには……」


さっきのが嘘のように落ち込むルーフを軽く肩で小付く。


「そうやって一人で抱え込むのは良くないし、焦るのも良くないぞ。ルーフが言うクメギだってログさんだって、いろいろ失敗しながら今に至った訳だろ。自分に足りない物は他の人に頼っても良いんだ。その代わり、頼られて自分の出来る事なら返す。ルーフの父さんだってお前を頼って俺の世話を任せたんだろ? ルーフが目指すものに少しずつ近づいていけば良いと思うぞ」

「そうかな?」

「自信持てよ。当てにしてるぞ、ルーフ」


俺は少し強く背中を叩いてやった。

びっくりした顔で俺を見上げていたルーフは、笑顔を見せ力強く頷いた。

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