第四十三話 訪問者
寮に戻ると座椅子に腰を下ろす。体力にはそれなりに自信はあったが、流石に疲れた。
火傷は体の左側が特に酷かった。それは肝心な右手を守るために左側を犠牲にした。だから、それ自体に後悔はない。
氷の精霊の力を使った冷蔵庫から冷えたお茶を取り出す。左手が若干使いづらいために僅かに苦戦するが、何とか開けるとコップに注ぎ入れる。
コンコン。
飲み干すのと同時に部屋の戸を叩く音がした。
「リンフォン君、帰って来てますよね」
この声はシャオだ。けれど、一人で来たのだろうか。
「あぁ、帰って来ているが。どうした?」
ドアに掛けていた鍵を開けて、扉を開くとシャオが一人で立っている。長く青い髪を束ねて、可愛らしい部屋着を着ている。
「えっとね。リンフォン君が帰って来たって聞いたからこっそりね」
俺を部屋に軽く押すように部屋に入ると扉に鍵を掛けた。
「あのな。こんな事するとシャオの立場が悪くなるぞ?」
シャオの置かれている状況はあまり変わっていない。一応はローラント学園長に許可を取ってニヴル寮にそのまま居ても良い事になっている。ただ、魔族と人間のハーフという事で、その事をあまり良く思わない人も結構いるらしい。
「自分の事よりも私の事を心配してくれるんだね」
にっこりと微笑むシャオの顔は可愛らしかった。
部屋に通したと言うよりは通られたのは俺の落ち度だ。だから、言葉を選ぶ。
「心配で見に来てくれたんだろう? ありがとうな」
シャオの透き通るような白い顔がぶわっと赤く染まる。俺も恥ずかしくなって顔を逸らす。
「次来るときはウィリアム達と来てくれるとこっちも助かる。要らぬ誤解を受けて、退学なんて望んでないし」
手を伸ばしかけて一瞬戸惑ったが、両肩を掴んで回すと肩甲骨辺りを軽く押してやる。すると少し突っかかる様に前のめりになったシャオを支える。それから鍵に手を回して、開けるとシャオを部屋の外に送り出す。
「むーっ」
シャオは僅かに頬を膨らませて俺を睨む。同時に心に何か感情が湧いてくる。徐々に思考が鈍っていく。
「シャ、シャオ。暁蓮……」
必死に続く言葉を発さない様に口を押えるが、口から手が離れてゆく。
「リンフォン君……」
目の前にはとびっきりの可愛い子が居る。そして、彼女は求めてくる。
「あ……」
急に目の前の女の子が頭を振る。何かを振り払うように全力で、だ。
「ご、ごめんなさい。意識してないのに能力使っちゃってた。駄目だって分かっているのに」
やっと頭の靄が消えていくのと同時にシャオは駆けだしていた。
「シャ、シャオ」
既にシャオは階段を駆け下りていた。追いかけようにも精神的な疲れがどっと出てしまっているし、何て声を掛ければいいのかも分からなかった。
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