第十八話 復習
神聖術。レンラン聖教国の聖職者達が用いる術。魔法などとは違い、発動に魔力を要しない。
「さてと、そろそろ筆記の試験が近いのでこれまでの復習をしましょうか」
教壇に立つセシリア先生がプリントを配布した。彼女はレンラン聖教国から出向しているシスターだ。そして、生徒からの人気もかなり高い。
「まずは神聖術とは何か? これから始めましょうか」
配布されたプリントに目を通すと今までの授業の流れが簡潔にまとめられていた。左上に神聖術とは、から始まっている。
「では、リンフォン君」
呼び出されて僅かに背筋が伸びる。短く返事をし、立ち上がる。
「神聖術は、レンラン聖教国で聖職者のみが用いる奇跡で、あるアイテムを用いる事で神の御業を再現する術です」
細かく言えば、神聖術は人々の信仰をポイントとする。これをSPと呼ぶ。そして、このSPを消費して神聖術を発動する。システムはレンラン聖教の秘術とされ秘匿されている。東方諸国連合が結成される前は他宗教に対し、かなり攻撃的であった。
「良い回答です。座って構いませんよ」
椅子に座ると補足される。非常に聞きやすく、尚且つ綺麗な声は人々を惹き付ける。信者獲得のために遣わされているという噂にも納得である。
「聖職者のランクによって使える奇跡やSP量に差があります。そして、SPは毎朝四時に全快します」
先生の手にも奇跡を起こすためのアイテムが嵌められた指輪をしている。しかし、この神聖術の奇跡の面倒な所は聖教会が近くに無いと使えないのだ。そして、今年からレンラン聖教の簡易教会が置かれる事となった。
「では、次に魔法や魔術と神聖術の違いですが、分かる方おりますか?」
方々で「はいッ!」という小気味いい返事が発生し、ニョキニョキと挙手の手が上がる。この時は女子よりも男子の方が多いのではないかと思わせる。これは最初の授業の時から変わらぬ光景。だが、未だにその後のクラスの変な空気には心底呆れる。
「では、ドミニク君」
大きな返事が教室に響く。先生もちょっと引くほどの元気さだったが、本人は気にしてはいないようだ。
「まずは魔法との違いですが、魔法の発動には魔力を必要とし、個人差がとても大きな物です。特に扱える属性に関してですが、神聖術は聖と光の二属性が基本で、特殊な属性として奇跡があります」
奇跡属性。特殊属性と呼ばれていて、一つは噴水の水をワイン等の酒に変える物が最も有名である。他にも雨乞いなども含まれる。
「更には対魔物や魔族に効果的で、それらが相手であるならほぼ全てに対応できます。魔術は発動に対し、術者の魔力が必要ない事もありますが結局のところ、魔力が必要ですのでやはり、神聖術とは違います。蛇足になりますが、聖術というものもあります。そして、聖術の発動には聖遺物や聖水を用います。これらの物には既に魔力が込められており、そういった意味では魔術に極めて近いと言えます」
セシリア先生が頷いた。感心している様子ではあったが、碧い瞳を細めた。
「大変すばらしい回答をありがとう、ドミニク君。けど、それは授業で教えてはいないはずです。なので、少しいらなかったです」
基礎神聖術とは言っても、聖職者育成コースですら無い、この学校では当然のことながら神聖術を教えることは無い。そして、この基礎神聖術では同時にレンラン聖教についての歴史も学ぶことになっている。秘術だから仕方がない。
「レンラン聖教の開祖はレンラン上人です。彼はふらりと今のレンラン聖教国の聖都アガルタに現れて様々な奇跡を起こしたと言われています。そして、弟子の中から聖職者としての証として、この指輪を授けました。これが、奇跡を起こすために必要なアイテムです」
レンラン聖教史の授業だけは発言を許さなかった。そして、眠っている者や話を聞いていない生徒に対し容赦なく《タライ落とし》という奇跡を以って生徒を罰した。可愛らしい顔をしながら平然とやってのける。その姿に多くの生徒が畏怖をもって接している。
「そこから異教徒との長い争いがありました。精霊信仰や邪教との戦い。それはそれは長く苦しい戦いでした」
感情を込めてゆっくりと読み上げる。そんな授業が続くのだ。緊張感が半端ないので、終わる頃には精神的な疲れがどっとでるのだ。中には平気どころか、授業後に元気になる者も居たりする。
***
「もうじき筆記試験だな。ちゃんと勉強はやっておるかな?」
生徒五人に教師が一人。そう、螺旋魔法の授業である。数は少ないが、良い緊張感の中で授業を受けることが出来る。質問もしやすい環境が整い、生徒一人一人の理解度に合わせて進んでいる。
「さて、復習といこうか」
授業外で螺旋魔法を習っている身としては、満点に近い点数を取りたい。全体の成績をこの授業のテストで稼ぎたいのだ。
「リンフォン。螺旋魔法の使うための条件を」
急に当てられたが、問題は無い。日々の成果を見せるべく返事をし、立ち上がった。
「螺旋魔法自体は誰でも使う事が出来ます。ですが、ある条件を満たさなければ威力を上げる事も調節する事も出来ません」
「うむ。それでその条件とは?」
「はい。条件とは一つは使う条件に当たりますが、螺旋陣を描く事です。立体でも平面でもどちらでもよく、ただ、龍脈と繋がっている。これを満たす事が重要です」
次に必要になるのは龍脈を確認する必要がある。龍脈は何処にでもあるわけでは無く、場所によって強弱は存在する。
一つ咳払いして周囲の注目を再度集めた。
「えっと、龍脈は誰にでも見えるわけではありません。精霊を見ることが出来ないのと一緒です。なので、その時々で龍脈を見極める必要性、それから螺旋を描くための戦略が実践では必要です」
そこでラオロウ先生が手で俺を制した。必要な回答をしたという事だろう。そのまま、席に着いた。
「うむ。ちゃんとやっている様だな。まぁ、質問をしに来ているから、これくらいには答えてもらわんとな」
周りの生徒が拍手をする。クラスメイトがいない授業は、何か物足りない様な、落ち着ける時間でもあった。
机の上には先生が作ったプリントをファイルした物。そこに授業での説明や、授業外で聞いた事をメモしている。更には図書館には色んな資料が充実している。北方系の螺旋魔法、仙術、気功などの資料も少しずつ増えていた。
「さて、龍脈というのは常に一定の魔力が流れているわけではない。人間や魔族もその日のコンディションによって魔力の量は左右される。ヴァルプルギスの夜は有名だな。その日は魔法使い達にとっては魔力の満ちる夜だが、大抵の生徒には関係が無いだろう」
先生がここで言う魔法使い達とは、単に魔法を使える者では無く、悪魔と契約した者達だろう。学園内で契約した者はゼロではないだろうが、数は少ないはず。
「実地で見せるわけにはいかんが、その内見られるだろう」
意味深に先生が微笑んだ。その意味を知る者は少ないだろう。
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