天然のキス

私の幼馴染は天然だ。


家が隣同士で母親達が仲が良かったので、私達は幼い頃から一緒にいた。


一つ年下の男の子。


可愛くて、ふわふわした感じがとても好き…だった。


過去形の理由は、学校に入ってからだ。


小学校に上がって中々一緒にいられなくなったせいか、アイツはしょっちゅう行方不明になった。


そのたびに周りは大騒ぎ。


だから私は出来るだけアイツと一緒にいることを、周りから言われた。


仕方なく一緒にいて…私はもう高校一年、アイツは中学三年になっていた。


「ウチの高校に? 何で?」


「だってキミと一緒にいられるから」


アイツがへらっと笑えば、周囲にお花が見えそう。


…けれど十年の付き合いになる私には効果無い。


「アンタねぇ…。ウチの高校って結構レベル高いのよ? 今から頑張っても厳しいんだから、他のにしなさいよ」


私の部屋で、二人っきり。


会話はアイツの高校受験のこと。


テーブルに高校の資料を広げて見せる。


「あっ、この高校、男子校だけどウチから近いじゃん。レベルもアンタなら平気みたいだし、ここに…」


「ヤダ」


「じっじゃあ、ここは? ちょっと離れてるけど、私立だし悪くないわよ?」


「ヤダ」


ぶちっ★


「じゃあどこがいいのよ!」


「だからぁ、キミの通っている高校」


そう言ってどこからかウチの学校のパンフを取り出した。


「ココにしか行きたくない。だから勉強教えて?」


にっこり笑顔で無茶なことを…!


「だったら塾にでも行きなさいよ。そして家庭教師もつけてもらいなさい。そうすれば、一緒に通えるから」


「えっ? じゃあ合格したら、一緒に学校に通ってくれるの?」


うっ…。しまった…。


「まっまあ合格したら、ね」


「うん! それじゃ頑張る!」


頑張るって言っても…コイツの偏差値と、ウチの偏差値は3倍の差がある。


まあムリだってことを実感すればいいんだ。


………そう思っていたのに。

「何でぇ!」


春。アイツはウチの男子制服を着て、ニコニコとウチの玄関先に立っていた。


「えっ、だって合格したし?」


しかも首席合格だって言うし!


私はがっくり項垂れながらも、アイツと学校へ行くことにした。


「嬉しいなぁ。またキミと一緒に学校に通えるなんて」


「…中学時代も一緒だったじゃない」


「うん。でも一年ぶりだから、余計にかな」


そう言って一年前と同じく手を繋いでくる。


「ちょっちょっと!」


「良いでしょ? そういう約束だもん」


うぐぐっ…!


振り解きたかったケド、一年ぶりのアイツの手が予想より大きくて、何となく離れたがった。


「…でも良く頑張ったわね。そこは褒めてあげる」


「ありがと。そりゃ努力したもの。キミとまた一緒にいる為に」


「……いい加減、幼馴染離れしたら? アンタ、もてるんだし、そろそろ彼女の一人でも…」


「えっ? ボク達、付き合ってるんじゃないの?」


………。


「はい?」


突然何を言い出すんだ、このお坊ちゃんは。


「だっていっつも一緒だしぃ。一緒にいるとドキドキするし」


「…私は別の意味でドキドキするけどね」


いろんな意味で心臓に悪いんだ、コイツ。


「じゃ、改めまして」


ぐいっと手を引かれ、顔が間近に迫る。


そしてそのまま、軽くキスされる。


「~~~っ!」


「―キミのことが好きだよ。未来永劫、ずっと一緒にいたい」


「なっなぁっ!」


言うこととやることが逆だろっ!


言いたくても頭に血が上って、うまく口が回らない。


「キミだってボクと一緒で、そう悪くは無いと思ってるデショ?」


…そりゃイヤだったら、とっくに見捨ててるケド。


「それって愛情があるって証拠だよね?」


そりゃキライではないケド。


「じゃあボクとずっと一緒にいても、良いよね?」


………人が黙っているのをいいことに、言いたい放題言いやがって。


でも何一つ否定できない自分がいる。


それってやっぱり…。


「…でも私、アンタの面倒見続ける人生なんてイヤよ」


精一杯の強がりで言ってみた。


「うん、もちろん身の回りの世話はボクがするよ」


うん? それって…。


「だからキミは外で好きなだけ働いて良いよ。ボクはずっと家でキミを待つから」


専業主夫宣言!?


「アンタっ! 私に養ってもらう気なの?」


「だってキミの方が出世しそうだし、ボクは働く気無いし」


ハッキリ言いやがったぁ!


「キミだってその方が良いでしょ? 家でボクが待っていると思えば、頑張って働けるよね」


確かに…。


「キミって身の回りのことはズボラだし、ボクは家事のことが得意だし。相性ピッタリ♪」


「ケンカ売っているようにしか聞こえないわ!」


「え~心外だなぁ」


天使のような笑顔で、悪魔の毒舌を言いやがって!


「でも、絶対にボクはキミを離さないから」


握る手に力が込められた。


「ボクから離れようとしても、絶対に追いかける」


「…まるでストーカーね」


「愛の成せることだよ。勉強も、ね」


反論できないのが、悲しい。


「だから、ね」


急に早く歩き出したので、慌てて私も付いて行く。


「ボクとずっと一緒にいよう?」


輝く笑顔。


ああ、眩しい。


現実的な私には出来ない笑み。


この笑顔、今まで十年以上も見てきたんだ。


これからも見ていたいと思える。


私も手に力を込めた。


「じゃあちゃんと私に付いてきなさいよ!」


…多少、苦労はしそうだけど、


「うん! 大好きだよ!」


この笑顔が側にあるのなら、それで良い。



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