B:Buddy

 フレンチトースト苺添えを、桜蔵が幸せそうに平らげ、ミニアキのいるアキ宅へ出掛けることができたのは、珪の予想していた通り11時前だった。

桜蔵は、まるでアキに会いに行くかのように上機嫌だ。

夏のような暑さもなく、街はクリスマスの彩り。桜蔵にとっては、心を弾ませるものしかなかった。

「珪ちゃん、ミニアキって何もらうと嬉しいかな?」

桜蔵が、愉しげに微笑んだ。

「何?クリスマスプレゼント?」

「そう。何がいいんだろう?」

「あいつ、一応LABに所属してる身だからなぁ……興味なさそう」

「えー!でも、アキのDNAでしょ?絶対、こういうの好きだって!」

おもちゃ、本、お菓子、と、桜蔵は、考えを巡らせてぶつぶつ独り言を呟いている。

興味なさそう、と言いつつ、珪も桜蔵の姿に引きずられて、ミニアキへのプレゼントを考え始めていた。

お土産を買うためにBeansビルの地下食品売り場を歩く。

その時だった。

珪は、視線を感じて立ち止まった。いつもは感じることのない他人の視線。

立ち止まり、辺りを見れば、賑わう人混みの中にこちらを見つめる男が一人立っていた。

 好意的な視線ではない。それは、男の表情から分かった。

「(品定めされてる?俺が?……俺たちが?)」

「珪ちゃん?」

 数歩前で立ち止まっている桜蔵が、不思議そうにこちらを見つめていた。

「どうしたの?」

 桜蔵を振り返り、答えようと、もう一度男のいる方へ顔を向けると、男はもういなくなっていた。珪は、戸惑いのまま返した。

「……今、見られてたんだけど、いない……」

「えー、珪ちゃんが見られてることに気づくなんて、珍しー。どんな子?」

 珪からしてみれば、全く嬉しいものではなかったのだが、桜蔵は、興味津々だ。

「女じゃないぞ?」

「男?!」

 桜蔵が目を丸くして、辺りを見回した。

「背は、たぶん、俺と桜蔵の中間くらい?桜蔵の方に近いけど。で、目がクリッとしてるんだけど、お前と違って、暗い感じ」

「どこ?」

「だから、いないって」

それらしい人物がいないことを確認して、桜蔵は、悔しげな声をあげた。

「今度は、すぐに教えてね?!」

「気づいたらな?」

「あ!イチゴー!」

桜蔵の興味は、艶々した赤い輝きが目に入ったとたん、そちらに移った。嬉しそうに駆けていく。

「迷子になりますよー、」

珪が感情を込めずに言うと、桜蔵は、上機嫌に振り返った。

「珪ちゃんを目印にしてるから、大丈夫ー」

「(勝てない……)」

 イチゴを使ったスイーツをショーケースの中に見つめ、桜蔵の大きなブルーグレーの瞳が輝いている。

「珪ちゃん、選べないー」

 にこにこと、ショーケースを見つめている。時間がかかるとふんだ、珪は、ため息をついてスイーツを見渡した。

「じゃあ、一番左のヤツを3つ」

「あー!ダメ!ちゃんと選ぶ!」

 珪の選択を却下して、笑顔が真剣な顔になり、桜蔵はショーケースの中を見つめた。そして、3分後、下した決断は――――。

「…………い、いちばん左の、3つで……」

 にこやかな店員に見送られ、いつものクールな珪とそして、やや不満げな桜蔵は、Beansビルを後にした。

輝く表通りを裏路地へと入って、桜蔵が、手土産のスイーツが収まっている紙袋を、実に不服げに見つめた。

「珪ちゃんに勝てなかった……」

「何が?」

「結局、珪ちゃんの選んだヤツ買ってるしぃー」

さらに、珪はそれを一瞬で判断した、それが桜蔵の悔しさの原因だった。

「役に立ててるみたいで、よかったよ」

珪が返したこの一言に、桜蔵は、立ち止まった。

「桜蔵?」

珪が振り返ると、桜蔵は、難しい顔をしていた。

「……珪ちゃん、俺、珪ちゃんの役に立ってる?」

そう言って、珪を見る桜蔵の顔に、不安が滲んで見えた。

珪は、桜蔵との数歩の距離を縮めて、頭にポンと手を乗せた。

「言葉のあやだろ?」

「だけど……」

「お前は、俺が役に立つから相棒してんのか?」

桜蔵は、何かに気づいたように目を丸くして珪を見上げ、そして首を横に振った。

「な?」

珪が、ポンポンと再び桜蔵の頭を撫でた。桜蔵がそれを、照れ臭そうに振り払う。

「縮むからやめて」

「ハイハイ」

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