第25話 選ぶのは、君だ
「ありえません」
白殿の否定の言葉に、僕は問いかける。
「なぜ?」
「愚問です。高校生とは大学の進学を目指すものです。そのために、日々、勉学に勤しんでいるのですから」
「それは視野が狭過ぎる。大学に行くことが目的の奴なんていないだろ。本当にやりたいことがその先にあって、大学というのは単なる通過点に過ぎない。だとすれば、やりたいことの途中に大学がない、という道筋も当然ありえる」
高卒で就職する者なんて、ざらにいる。大学進学者は、よく彼らの選択を卑下するが、むしろ大学に行ってまでして、そのへんの企業に下っ端として就職している方が、卑下されるべきではないかと思う。
「どうして、あなたは、そう、そんな無責任なことを言うんですか。いいですか、進学を選ぶのか就職を選ぶのか、というのは、人生の中でも最重要な選択なのですよ。それを、他人事だからって、適当に」
「最重要というのは、ちょっと大げさに思えるけどな。今の時代、進学なんて何歳でもできるし、転職だって珍しくない。起業するという選択肢もある。少なくとも僕は進学するつもりはないしね」
「あなたのことなんてどうでもいいんです。私の友達を巻き込まないでください」
「別に巻き込んだ覚えはないんだけど。ただ、僕は選択肢を示してあげているだけだよ」
彼女達の凝り固まった思考では、やりたくもない勉強をがんばる、という選択肢しかなかった。そこに、僕は、カンニングや賄賂、就職などの選択肢を追加してあげた。
しかし、これはあくまで選択肢。
「あとは、香月。君が、何を望むかだ」
うっ、と香月は、のけ反った。
「うちが?」
「そう、君が、だ」
誰の話をしていると思っているんだ、と僕は、少しイラついたが、グッと抑えた。
「うちは、進学するつもりだったけど……」
「だったら、おとなしく塾に行くんだな。奇を衒った勉強法を試すよりも懸命だ」
「そう、かも、だけど」
「ただ、一つ言わせてもらうなら、高2になって勉強ができないなら、そいつはもう勉強に向いていない。小学校から数えて10年間、学校の勉強の仕方を教わってきて、未だにできないんだ。さっさと諦めて別の道を選んだ方が有意義だと僕は思う」
「ひどっ……」
「勘違いするなよ。君をバカだと言っているんじゃない。学校の勉強に向いていないと言っているんだ。偏差値を必要とするような仕事、いや、仕事をする資質としては何の必要もないが、資格を取るためにだけ偏差値が必要な仕事、つまり、弁護士や医者、教師などの道は諦めた方が賢明だと言っている」
「同じこと言っている気がするけど……」
「このまま、やりたくもない勉強をだらだらと続けて目的も何もない受験勉強に邁進するのか、それとも、自分のやりたいことをやりたいだけやる君の人生を送るのか」
僕は、指先を香月の鼻先に向けた。
「選ぶのは、君だ」
ことの重大さをやっと理解してきた香月は、歯噛みしてから、ぐしゃぐしゃと頭をかきまわした。
「そんなの、急に言われてもわかんないよ」
「難しく考える必要なんてないよ。やりたいことの一つや二つあるだろ」
「うーん、やっぱり、わかんない。だって、将来のこととか、まだ考えたことなし」
「将来と考えるから、わからなくなるんだ。誰だって、将来の自分が何をやりたいか、なんてわかりっこない。君がわかるのは、今の君がやりたいことだけだ」
「今の、自分」
「そう。君は、何がしたい? どこに行きたい? 何が好きで何が嫌いだ? 欲しいものは? 成りたいものは?」
つまるところ。
「君の夢は何だい?」
香月は、頭を抱えて反芻した。
「うちの、夢は……」
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