エピローグ 夏の大三角

 星言葉、覚えてますか?

 懐かしいね

 僕と遠坂は隣り合って空を仰いだ。

 夜空を埋め尽くすほどの星々の中でも、一際輝く星が三つ。夏の大三角だった。

 僕が頂点のベガを指で示すと、遠坂は僕に左肩を少しだけ寄せて言葉を待った。

 ベガの星言葉が誠実

 右下のアルタイルは見栄

 当たってるよな 僕は自分のこれまでを思い出して笑った。

 ベガとアルタイルは織姫と彦星の関係にあるんです

 やはり僕と柊は結ばれていた。

 デネブは? と僕は訊ねた。

 そういえば知らないですね。知ってますか?

 いや、僕も知らない

 謎を謎のままにしておくのも、いいかもしれませんね

 

 らしくない言葉だと思った。謎を謎のままに。なら遠坂はなぜ柊の遺言を僕に伝えたのだろう?姉はあなたに言葉を残していましたよ、と言うだけで、柊が僕のことを好きでいてくれたらな、と僕は願い続けられただろう。遠坂がそれを想像できないはずがない。

 「お姉さんのこと、伝えてくれてありがとう。おかげで迷わずにいられる」

 「大したことはしてないですよ」


 「僕からも伝えることが一つある」

 「何でしょうか」

 「お疲れさま。いない人の真似をしてたんだ。とてもつらかったろう」

 「演技するのは慣れてます」


 「そういえば、デネブの星言葉は希望らしい」

 「嘘つき」

 「本当だよ」

 「さっきは知らないって言ってたのに」

 「思い出したんだよ」

 「嘘ばっかり」

 「信じなくてもいいよ」

 「お姉ちゃんは幸せだったと思います」



 「あなたで良かった」

 「僕も君で良かった」


 遠坂と別れた後、僕はもう一度だけ星空を見上げた。

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僕たちの幻風景 七井湊 @nanaiminato

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