第10話「彼らは勇者──」


 バリィィン────!


 障壁が砕け、弾丸がグラウスの胸に命中する。

 胸骨を貫き──肉にめり込んだそれにグラウスは悲鳴をあげた。


『ぐおおおおおおおお!! ば、バカなぁぁぁああ!!』


 さすがに見た目からしてタフなだけはあり、即死するにはいたらないも───無傷とはいかない。


 血を出し、

 苦痛に呻くなら死ぬ────殺せる。


 だが、

『そ、それがどうしたぁぁぁ! 一発くらいでいい気になってんじゃねぇぇぇ!』


 一発で死ぬなら苦労はない。

 それは先のベリアスでも同様だった。


「一発?」



 だから、撃つんだ───。



「本当に強いんだよ。だって、彼女は──カサンドラはね……一発で終わらせない・・・・・・・・・から」


『ま、まさか!』


 空気を切り裂き、グォォォォオ───と近づく地表。


 それまでに何秒?

 

 まさか、ザラディンは空で決着をつけようと言うのだろうか……──?


 うふふふ……。

「───さぁ、お前は何発絶えられる?」


 瓦礫から脚を乗りだし、ふわりと空に舞ったザラディン。

 自由落下に任せて無重力を楽しむと、


「さようなら、グラウス───」

『よ、よせ!!』


 バンッ!

 ───パリィーーン!


 簡単に砕ける障壁。

 驚愕するグラウスが、何故と思う間もなく激痛が走る。


 まずは武器を狙ったらしく、手を撃ち抜かれてハルバードがスッとんでいく。


『ぎゃああああ!!』


 次に聖剣。

 一瞬、早くガードしたつもりが、手の甲を打ち砕かれる。


『ぐああああああ!』


 ヒュンヒュンヒュン──と空へ消えていく聖剣を追うことも出来ずに、次は羽。

 

『よ、よせ!!』

「あはは、そういって───お前はやめてくれたかい?」


 ブシュウ! と血が吹き出し羽が折れ曲がり変形する。

 根元から撃ち抜かれてははばたくことも出来ない。

 空を舞う羽を失ったグラウスは、まっ逆さまに地上に落下するのみ。


 だが、それで終わるはずがない。


 バン、バン! と発砲音の度に急所を次々に撃ち抜かれていく。

『ぐッ?! ぐぁ!』


「ふふふ! 何発耐えられるかなぁ──!」


 バン、バンバンバン、バァン!!


 心臓、肺、腸、股間、喉────。


『ぐぼぉぉぉぉ!』


 な、なぜ障壁が貫かれる!?


 ただの鉛弾ごときに、そんなぁぁぁぁぁぁぁ?!


 驚愕に目を見開くグラウスは見た。

 美しく舞うように銃を操る少女ザラディン────。


 そして目を、目を、目を!!!

 彼女の目を──────。


「「死ねよッ! ゲスが!!」」


 あ、あれは───!


 か、カサンドラ!?


 あの日……あの日────ベリアスに責め殺されたカサンドラの姿。それが被る!!


『がああああああさぁぁぁぁぁぁんどぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁぁあ』


 バ、バァン!──バリィィン!


 ブシュ…………。

 

 あの日、カサンドラの必死の反撃によって目を撃たれたベリアスのように、グラウスも撃ち抜かれる。


 しかも、両目同時着弾。


『──────ッッ!!』

 光を失ったグラウス。

 だが、最後の光を見た瞬間悟った。

 見えた。

 見た!

 見てしまった!!


 あの、高速で飛来する銃弾を!!


 な、鉛弾じゃない。

 鉛弾じゃない!?


 鉛なものか!!


 あ、

 あれは、


 あの輝きは───……!


『お、お……────オリハルコンの銃弾だとぉぉ!?』


「見えたかい? 凄いだろ、カサンドラは」


 高価で希少なオリハルコン。

 剣に打てば城が買えるとすら言われる伝説の金属。


 ───そ、それを銃弾だと!?

 あの女───狂ってやがるッッ!!


「違うよ……。彼女は本気だったんだ。そして、勝ったんだ───魔王にもね」


『あぁぁぁああああああああ!!』


 あの女ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!


「彼女は卑怯者なんかじゃない。弱くもない──……彼女は勇者。勇者カサンドラだ!」


『だぁぁぁぁまぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ!』


「ははは。凄くしぶといね。そこだけは魔王並みかもよ」 


 あぁ、わかる。

 見えない視界の中アイツが……ザラディンが笑っている。


 少女ザラディンの姿が闇の中に見え───そして、の勇者が……青年だった頃の・・・・・・・ザラディンがそこにいた。


 こ、これは、


(俺の……幻視?)


「───さらばだ、グラウスッ」

『い、』


「僕の名前はけがしてもいい。……だけど、オーウェンとカサンドラの汚名は返上させてもらう──彼らは『卑怯者』なんかじゃない」


 魔王を討伐した偉大な戦士────無頼の剣豪オーウェンと連撃のカサンドラ。


 強靭な刀を振るう偉大な戦士オーウェン。

 鮮やかな銃捌きで敵を屠る偉大な戦士カサンドラ。


 勇者オーウェンと勇者カサンドラ。


『───いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 俺だ!

 俺だ!

 俺だ!


 俺が勇者だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 勇者なんだぁぁぁぁぁぁああ!!


「……違う。お前は卑怯者だ」


 粉々に砕けた障壁は、もはや用をなしていない。

 そこに近づいた人の気配と甘い少女の香り。グラウスは、それを間近で嗅いだ気がした……。


 そっと、頬に触れる。

 それはそれは優しい手つき。


 柔らかい体が、グラウスの顔を抱きしめていた。


 そして、


 ふー……。と、耳に息を吹きかけられ。


「お前が言ったんだろ?」

『ザラ───』



「裏切り者には死を──────」



 ババババババババババンッ!


『ぐぼぉぉ』

 

 ほとんど一発に聞こえる射撃音を聞いたあと、グラウスは何も聞こえなくなった。


 両耳に突っ込まれた銃から発射されたオリハルコンの弾丸。

 それが、至近距離での連撃により、

 両の耳を貫き、脳のど真ん中で衝突しては、パチンコ玉のようにあちこちで暴れたらしい───。


 ブシュッッ!


 何発もの弾丸が撃ち込まれて、ついにグラウスは……。


『ぶほッ……』


 ドロリと鼻から脳漿交じりの血を吹き出し、



 ──────何も考えられなくなった。



 最後に感じた衝撃は、王城の最下まで落ちた時の衝撃だろうか……。


 あぁ、視界が──意識が──暗く、なって……──。







「……これで全員」


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