4.受け継ぐもの

 場所は変わって城上町。

 相変わらず人気はない、木の葉がざわめく音が聞こえるだけの穏やかな場所だ。それでも昔に比べれば住人は増えたのだ。

 ガロウはさみしかったのか、モモワの他に弟子を迎え入れた。その弟子が独り立ちして、養子を何人か連れて戻ってきた。ちなみにこの弟子がホテル・ミラーをシルヴィアと共に、破壊しつくしたその人である。今は関係のないはなしなので省くが、とにかく住人は少ないが増えた。


 だからといってマルーリが、王の教育で楽できたことは一度もない。

 ガロウはあれから何を言っているかよくわからなくなった。唯一理解できるのはモモワだけだったが、普通の人が考えるものではなく、空の上からこちらを、ボタン越しに作り出している奴がいるというのだ。自分のギフトである暴走がついに頭まで回ってしまったのかもしれない。王に仕事を押し付けることができた今、マルーリが次の仕事に選んだのはヤマメを見つけることだった。その前に。


「マルーリ!私が王になったらくれるものがあるんだろ!早くおくれよ!」

 スイセイとツルホが持ってきた本を空いている本棚に入れているコロがマルーリにどなった。マルーリは疲労したためかランタンの灯を浴びている。

「それが終わったらね」少しも顔を向けずにコロに指示する。

 王となったコロが命令を聞くのはマルーリぐらいなものだろう。両手にかかえた本を宙に投げてから五十音順に並べ替えて、本棚に差し込んだ。

「はい、おわりー」

 コロは両手を広げてマルーリに向き直った。式典の時の服ではなく、今は”王は愛の中にいる”という言葉が書かれた半袖の薄いシャツを浅い服を着ているが、それには不揃いに上腕まである皮の手袋が左右に添えられている。

「うん、リンも呼ぶんだ」

 大きな目で上を見てから大きく息を吸い込んだ。

「リンよ!早くここに来るんだ!だ!」

 昔、先代の寝室として使われていた部屋から茶髪のコロより一回り小さいのが出てきた。コロと目つきは同じだが、瞳は奇妙な柄だ。

「なんだって、リンまで呼び出すんだ」

「ウチは興味ないよ」

「興味なかろうとあろうと、私がお前達にわたすんだ。」


 かつては王の別荘として使われていた屋敷は何度か増築改築が行われ、広間が新たに設けられた。そこに三人はいる。

「リンには一つ。コロには七つ渡す」

 マルーリが机を四回たたく。マルーリの左右に切れ目が入り、その部分が回転する。そこに品がならんだ。

「屋敷と城から見つけ出すの、結構大変だったんだ。ひどく時間がかかった。」

 品は八つではなく九つある。

「なんで九つもあるんだ」

「もう一つはいらないだろうと思ってね。それじゃ、ひとつづつ説明してあげるよ。」


 コロとリンは、隣同士に座って、マルーリに向いた。

「これはツキヨに直通の念晶。いらないな。これはフヨウの設計図。今日開放した学校の設計図だ。完成したことでこの設計図も完成した。」

「どういうこと?」

 コロの言葉に返事をせず、懐から木の枝のようなものを取り出した。杖のようだ。

「催なる花よ、我、気高きものなり、その力を示せ」

 瞬間、ホログラムが現れた。建物の形をしており、その中も透けて見通せる。

「これを、そういうものだと言いふらさないでくれよ。盗まれたら大変だ。」

 杖を設計図から離すとホログラムは消えた。

「コロにまず一つだ。」

「うん」

「次は王族を集めるための呼び鈴。」

 王冠を指して言った。

「王族に属するものしか、認識できないような仕掛けがしてある。これは適当に飾っておくといい。これもコロに」

「次に城の杖。自由に部屋を増やせる。まだ使い時はないだろうが持っておきなさい。」

 そう言ってコロに渡す。城の杖は片手で持つには大きすぎるもので、うろこのある生き物の装飾が施されている。

「つかってもいいってことだよね」

「まあ、わたしたからな」

 普通に振ってみてもなにか起こることはなく、ただの装飾された木の棒に見える。

「これはフーゲンという楽器。リンに」

 上の方に小型のオカリナのような陶器の筒が取り付けられ、下に取り付けられた空洞に切り抜かれた木には弦が張ってある。

 リンはマルーリの顔を見返す。

「まじ?これ?」

「多分使えるようになる。そうゆう名前をカルーナに付けてもらえたんだから」

 カルーナは先代の親戚のような人物で、背が高く、目が4つ入れこまれている不気味な人物。先代と、二番目の子には自分が名付け親になるという約束をしていた。リンの名前は長く、意味をいくつかまとめると、「奏でるもの」「光を喰らいしもの」「真なる太陽」という感じだ。

 リンは不服そうに自分の前に置かれた不可思議な楽器「フーゲン」を撫でた。

 マルーリは続けて、黒い布を手に取った。

「黒のスカーフ。使い道はよくわからない。お前が好きに使えばいい。」

「そして国王の印文字。許可がうわべだけのものではなくなる。使い道はよく考えろ。」

 スカーフの上に金の判子を置いてコロに渡した。最後の二つの箱にマルーリが手を伸ばす。

「これは私がいただいたもので、二つで一セット。箱は注文して作ってもらった。ずっと欲しがっていただろ。忠実な下僕を」

 差し出された二つの、宝石で装飾された箱を親指を巧みに使い同時に開ける。

「ダイヤモンドと、ブラックスピネリ!!ミセスジュエリーボックスのものだ!!こんないいものをマルーリは使わずにいたって言うの!?」

 喜びの興奮で、下に流れている黒髪が沸き上がったように揺れた。

「ほめているのか、けなしているのか…。私には私の体だけが必要だったからな。使うことはなかった。しっかり磨きこんだりメンテナンスもしているから、正常に表れるはずだ」

 反射で輝かせた目で、宝石箱の中を見ているコロはまた大きく息を吸い込んだ。瞬間隣のリンは頭につけた耳当てを耳に着けなおした。


「宝石よ、我の力となれ!命令だ!」


 部屋の中の光を全て吸収したかのように、辺りが暗くなる。マルーリが普段使いしているランタンも光を失った。暗さが度を増していく中、それに反して二つの宝石はコロの目に光を反射する光を強めていっている。コロが椅子から立ち、後ずさると光は吐き出されるように広がった。コロだけが中心を見るが、二人は眩しさに目を閉じた。


 二人が目を開けると、コロの座っていた場所に、プリズムのような髪と、白いバレエのチュチュを着た人物と、赤さを含んだ黒髪に黒いポンチョを着た人物が立っていた。二人はコロに向かってうやうやしくお辞儀をしている。

「お呼びいただいて大変恐縮でございます。コロ王。」

 プリズム髪は見た目に似合わず、低い声で言った。

「このブラックスピネリと、ダイヤモンド、手となり足となり、王に使えることをお約束いたします」

 黒ポンチョは静かに言った。

「…じゃあ、名前つけてもいいかい?」

「なんなりと」

 声をそろえて言った。きれいなハーモニーになっている。

「ダイヤモンドはチョウメイ、ブラックスピネリはルイ。いいね?」

「ありがたき幸せ」

 マルーリは思った。そういえばコロにもリンにも友人というものを今の今まで作らせたことがなかった。と。 

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