らいばる
[石川実里&清水柊&伊藤薫子]
「……まって、私も……忘れないで!」
『……!?』
そこに現れたのは、帰ったはずの女の子。
普段、見せない、一生懸命な顔で。
普段、聞かない、一生懸命な声で。
ふと、実里は気づく。
(あぁ、そうか、私は忘れていた。柊ちゃんも、勇気を出した人の1人だったな……)
薫子は知らない。
柊が何故、文芸部に入ったのか。
柊にどんな思いがあって、文芸部に入ったのかを。
「柊ちゃん……帰ったはずじゃ……」
「柊、何でここに……って、話、聞いてたのか……?」
「全部、聞いてた……」
「……」
「……」
「……」
長い沈黙が続く。
いや、実際あんまり時間は経ってないのかもしれない。
それでも、長く感じるほど、重い空気が漂っていた。
「私は……」
「……」
「……」
「わ、私は…………私の、気持ちを……伝えたくて……」
「……」
「……」
「実里先輩は、知っていますよね……私が、文芸部に入った、理由……」
「……知ってるよ、確か、悠基くんが読んでいる本を柊ちゃんも読んでて、趣味が合いそうとかどうとか……」
「そんなことがあったのか……」
「そうですね、そう、誤魔化しました……」
「誤魔化した……」
「誤魔化し……」
「私は……私には、分からなかったんです、私の心にあった、本当の気持ちを……」
「……」
「……」
「ただ、胸が熱くなって、苦しくて、切ない気持ちになる。悠基先輩の近くにいると、安心して、心が暖かくなって……」
「……」
「……」
「私には……好き、という気持ちがわからなかったから……認める、どころか、認識すら、できてなくて……」
「……」
「……」
「でも……私は、逃げていた、だけかもしれない。私には、有り得ないものを、認めるのが、怖かった、だけかもしれない……」
「……」
「……」
「だから、先輩達の、実里先輩と薫子先輩の存在は、大きかったんです。お二人共、私とは違う、世界にいて……」
「……」
「……」
「私が、居ていい世界じゃないと、思ってました。でも、親睦会、とか、クリスマスパーティー、で分かったんです」
「……」
「……」
「私も、居ていいんだって。私自身を、認めてあげても、いいんだって……だから、分かったんです」
「……」
「……」
「私も、悠基先輩が、好き、なんです。だから、私も、ライバルに入れてもらってもいいですか……?」
「……」
「……」
「……ダメ、ですかね……」
「……いいに、決まってるよ!」
「どんとこいって、感じだね!」
「先輩……」
「柊ちゃんの気持ち、伝わったよ。あの時から、悩んでたんだね……でも、自分の気持ちに正直になれたなら、きっと柊ちゃんは1回りも2回りも成長出来たんだね……」
「あたしには詳しいことはわからないけど、柊なりに考えて、結論を出したのなら、応援するさ。でも、ライバルとして、ね?」
「先輩方……ありがとうございます……あ、それと、勝手に盗み聞きしてごめんなさい……」
「ダメだよ?盗み聞きは!もうしちゃダメだからね?」
「そうだぞ!一応、秘密の話だったんだぞ!」
「本当にごめんなさい……」
「聞かれてたってことは、私達の気持ちも分かってるってことだよね……なんか恥ずかしくなってきたぁ……」
「実里がそういうこと言うから、あたしもはずかしくなってきたじゃん……あぁぁ……」
「わ、私も打ち明けたので、おあいこって、ことで……」
「まぁそうだね、みんながみんな、打ち明けたから、隠し事なしってことで」
「あたし達は、良きライバルで、親友だ!」
「ライバル……親友……!」
「負けないよ?私は私の恋を、成功させる!」
「あたしこそ、あたしの恋を、成功させるよ?」
「わ、私こそ……!私の恋、成功させます!」
きっとここが、私達のスタートライン。
私達はもう一度、握手を交わした。
1人増えた、そのライバルとも。
その握手は、友情の握手であり、勝負の握手。
寒い日の、温かい出来事。
[佐藤悠基]
もう、3年生になるのか……
勉強、しないとな……
文芸部の活動は、秋辺りまで続く予定だ。
長いようで短い。
もっと早く出会っていればな……
意味のない後悔をし、少し笑みが零れた。
ずっと1人でいると思っていたのに、気づいたら3人の部員に囲まれて。
静かなのが当たり前の日常が、賑やかじゃないと落ち着かない日常になって。
たった1ヶ月、されど1ヶ月。
僕は、どこまで変わってしまうのか。
僕自身が気づかないうちに僕という人物が変わっていく。
きっとこれからの1年間は、大変なことが起きそうだ……
期待を胸に、自宅に帰った。
「ただいまー」
「お兄ちゃんおかえり~……って、なんでにやけてるの?」
「え?にやけてないって」
「なんか楽しいことでもあったの?」
「んー、まぁね」
「お兄ちゃんは気楽でいいな~」
「勉強頑張れー」
「はぁ……」
僕は自室に行き、コートを脱いだ。
……さて、何をしようか……
隣との距離。恋との距離。 とりけら @torikeran
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