背中が見える 3

「着きましたで」

 白いベンツの後ろでやっさんと2人して眠りをしていた。若頭の運転手が声をかける。いつの間にかタクシー会社の本社の門をくぐっている。やっさんは少し上品な背広を着ている。私はいっちょらのスーツにワイシャツの襟を出してチンピラだ。やっさんは社長室に入ると若頭に貰ってきた少し名の通った不動産会社の部長の名刺を出す。若頭の名前で面会を取っている。

「隣の土地はそちらの組でしたんか?売ってくれと言いはってもあきまへんで」

 後ろに屈強な京都の組らしき男が立っている。

「そうやないんです。売りたいと思ってます」

 私が鞄から区画図を出す。

「いや許て言う人が何度も売ってくれと来られるもんで。そちらに持って行きはったら?」

「それは不味いらしいんですわ」

「まあそうですな。でもなんで売はるんでしゃろ?」

 やっさんが詰まってこちらを見る。

「道路に面してない土地ですから」

「その通りでんな。でも金のなる土地やという評判ですよ」

「いえ線引きの話はいつになるのか分かりません」

「そうですな。あんたどこかで会った顔してはるな?」

 私もそんな気がしていた。

「一度検討してみまっさ。指値でよろしおすな」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る