糸口 4

 初めてボンの親父の本店を覗いてみようと言う気なった。夜はサエも仕事だし外で食事を済ますことにしている。大半はボンの女将の店のカウンターでビールを飲みながら9時頃に戻って風呂に入って寝てしまう。サエは12時前に戻ってきて風呂に入って1時頃に寝るようだ。朝は10時頃まで寝ているようだ。

 暖簾を思い切ってくぐる。入る席がないくらい混んでいる。しばらく呆然と立っていると、ボンを強面にしたような親父が隙間に入れと言うような仕草をする。ボンの姿を探すが、カウンターの中には見たことのない顔しかない。

 造りをあてにゆっくりと飲みながら新聞を追って目を通す。いつの間にか8時になるとあっという間に客が引いていく。そのうちに親父もカウンターを出て板前も調理場の整理も始めている。

「始めてやな」

 肩をポンとたたいて入れ替わりにボンがカウンターに入ってくる。

「親父は8時に帰る。ここからは2人で10時まで店じまいをするんだ。客は本当の常連しか来ない」

 ボンは要領よく皿とグラスを洗っていく。

「あのやくざの話を調べてみたんだ」

 新聞を広げて見せる。

「どうもITM事件として特集にもなっている。ここに出ている伊藤と言う男が絡んでいる」

「そう言えばこの週刊誌も特集している。明日でも集めてみるよ」

「もちろんどんな役回りで絡んでいるか分からないので慎重に調べてみる」

「サエにも詳しく話してやれよ。心配しているから」

「でもないよ。口をきいてもくれないんだ」

「あれは焼きもちだ」










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