【第6話】勇者
ついていくと、長い廊下の中の1つの部屋に姫は入った。俺は少し戸惑ったが、姫は目で入って来るように訴えてくる。
「おじゃまします……」
置いてあるどの家具も置き物も高い値打ちがつきそうなその部屋に入った。
「……ここならきっと大丈夫でしょう」
そう言って彼女は俺の目を見つめて、こう言った。
「……クロノ様は本当は勇者になりたくないのですね」
「いえいえ、そんなことはございません。むしろ誇らしい限……」
「嘘はつかなくていいのですよ。妹さんが心配なのでしょう」
否定できなかった。実際に俺はセシリアの事が心配で、セシリアを一人にさせるわけにはいかないと思っていた。それに、剣もまともに振ったことのない俺に勇者が勤まるとも思えない。
「……はい。その通りでございます」
そう言って頭を下げる俺を彼女はじっと見つめる。
「……セシリアさんの事なら私が看病します。セシリアさんの医療費は国が負担します」
──!?
「そんな……!!だってセシリアの病気は治らないって……!!」
驚きを隠せない俺を見て、彼女はゆっくりと落ちつきながら言った。
「もし本当に治らないとしても、防ぐ事ならできます。それに、国のお金で国民の命が守れるのならばいくらでも使いますので。」
「私ができる事なら、代わりに国やこの世界を守りたい。しかしこのペンダントは、いいえ、神は貴方を選びました。だからこそ、私は貴方の手助けをして、貴方に偽りのない誇りを持ち、世界を救ってほしいのです」
彼女のその言葉の意味はとても重いものであった。しかし、俺は大事な忘れていたものを思い出したような気がした。
「……わかりました。僕にしか出来ないこの勇者という職業をやり遂げる事を誓います」
「ありがとうございます。そこで……」
そう言って彼女は、部屋にある棚を開け、中のものを、袋に入れた。
「これをお使いください」
そう言って、俺に袋を差しだす。
その中には、昨日のとは比べ物にならないくらいの大金が入っていた。
「先程も言いましたが、この国、この世界の危機を防げるのならお金はいくらでも出します。父が国の税金をすぐにお祝いに使ってしまうので、私のところからになってしまいますが」
そう言って彼女は苦笑いをする。
「ありがとうございます。成果を残し、この恩を必ず返します」
その言葉を聞き、彼女は喜んだ表情を見せるが、真剣な表情になった。
「それでは、勇者クロノ様」
そして彼女は微笑んで、優しくこう言った。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
俺もその言葉に答えるようにそっと言い、今までの平穏な日常に別れを告げた。
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