【第4話】心の支え
「すみません。今日は早めに帰らせていただきます」
「……わかった。片付けは私1人で大丈夫だから。待ってると思うから早く行ってあげてね」
「ありがとうございます、先輩。では、失礼します」
そう言って店を出て、あいつが待っている所へ向かう。
外は春にしては、まだ少し肌寒い。
──すこしでも早くあいつの所へ行かないと。
俺はあいつのことを考え、足を速める。ようやく目的地に着き、勢いよくドアを開ける。
「セシリア!!」
中にいる彼女は窓の外を見ていたが、突然入ってきた俺の言葉に少しビクッと肩を震わせ、こっちを見た。
「お兄様……。びっくりしてしまいましたよ。でも、来てくれてありがとう……」
そう言ってセシリアは微笑む。その顔はとても優しく、仕事の際などに向けられる冷たい視線を忘れさせてくれる。
「セシリア、体の調子はどうだ?どこか痛いとか……」
「いえ、私は大丈夫です。お兄様がわざわざ来てくれるだけで元気になれますので」
「それならよかった。セシリア、お前が元気なら俺も仕事を頑張れるからな」
そう言って俺は優しくセシリアの髪に触れる。胸のあたりまで下ろしている髪の色は俺と同じ黒だが、俺より色が薄い。入院しているとは思えないほど、丁寧に手入れされている。
「……きれいにしてるんだな」
「ありがとうございます、お兄様。でも……」
そう言ってセシリアは俺の頭を触る。
「私はお兄様の髪が大好きです」
「……今日は忙しくてお土産がないんだ。いつも楽しみにしてるのにごめんな」
「いえ、セシリアにとってお兄様が来てくれることが一番嬉しいです」
そしてセシリアと意味もなく現実から逃げ出すかのようにただただ話す。
「ごめんな、もうそろそろ帰らないと……」
「いえ、お兄様も忙しいのは分かっていますから」
「じゃあ……またな。セシリア」
「はい、お兄様」
俺はそう言って立ち去り、食材が底をついていたのを思い出して、走って買いに行った。
家に帰り、俺は頂いた魔導書を机に置く。そしてあのページを探す。
「……あった」
そこには小さな花の絵が描いてあった。
『どんな病にも効くが、この花はあまりにも珍しいため、ほとんどの人は見ることができない。』
──俺がもっと金を持っていたら、この花を探しに行けたのに
「俺が勇者なら冒険と一緒に探せたのかな……」
でも俺は、剣を扱うことはできないし、こんな生活をしているやつが勇者なんてなれるはずがない。
「せめて知り合いに勇者がいればなぁ……」
とは思いつつも、こんな生活を長年しているものだから知り合いなんてほとんどいない。だから俺に何もできることはない。
──こうして明日もいつものようにこんな日々を過ごすはずだった。
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