【第2話】仕事

「先輩。いつも言ってますが、俺のことをクロ君って呼ぶのやめていただけませんか?」


 開店中の暇な時間、先輩といつものように話をしていた。


「またその話~?だったら私のことは先輩って呼ばないで、もっと可愛い感じのあだ名で呼んで!じゃなきゃクロ君って言い続けるよ?私は堅苦しいのは嫌なの~」


「先輩のあだ名ですか…………ラ、ライラさんとかですか……?」


「ライラさんってそのまんまじゃん!ライちゃんとか、そういう可愛い感じのを……」


 先輩の話を遮るようにドアが音を立てながら開く。


「いらっしゃいませ~!魔導書ですね!なら彼におまかせください!」


──いやいや、俺何も言ってないんだけど……


 そこには、銀色の髪の優しそうな女性が立っていた。その顔は微笑んでいるが、その微笑みの中に恐怖心がこっそりと見えていた。


──またか……


「えぇ、今持っている魔導書の内容を見ていただけますか……?」


「わかりました。それでは、その魔導書を見せて頂けますか」


 俺は女性の持っている魔導書らしき本を指差す。


「あっ、はい。よろしくお願いします……」


 とても気まずい空気になり、しばらくの間嫌な沈黙が続く。


「その魔導書はどうして内容を確認しようと思っていたんですか??」


「実は、2年前に亡くなった母が大切にしていたものなんです。この前家族で持っていても内容がわからなかったら意味がないって話が出まして。せっかくだからみて貰うって決まったんです。」


「そうなんですね!なら、うちのクロ君に任せてください!魔導書に関する事なら右に出るものはいませんよ!まぁ、もしクロ君を抜かそうとする人がいるなら私がこうやって倒しちゃいますけどね!!」


 そう言って3回ほど空気を拳で殴る先輩。そしてその横で先輩の行動を見て、笑っている女性。


「それではこの量だと、2時間ほどかかると思うので、それまで時間を潰して頂けますか?」


「……わかりました。それでは、お願いします」


 しかし女性は俺を見た途端、その微笑みは偽りとなる。


──辛い…………


 そう思いながら俺は店の奥の部屋に入る。部屋にある机に座り、ペンを手に取る。

先程の店の方からは何やら楽しそうな話し声が聞こえている。

 俺は深呼吸をし気を落ち着かせ、本を開いた。俺のペンの音が止まらない部屋で、必死に本の内容を書き写していく。

 今回の仕事はひたすら本の内容を書き写していくだけ。これは、体力的にも精神的にも負担が大きい。それに加え俺に対する客の怯える顔。

 正直、俺は限界に近い。でも俺の取り柄はこれくらいしかないし、働かないでいるわけにもいかない。






 そして1時間ほど経過したとき、俺は思わず手を止め魔導書をじっと見つめる。


「これは…………」


 そこには俺がずっと探していた事が書かれていた────。

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