第28話 クラスルーム
ハルチカとエミリアは、バルセリアにあるコーデル家の家具倉庫に
新学期なので駅から
ハルチカも、エミリアも一年前の自分達を思い出していた。
「あの子達、たぶん、学校の惨状を見たら、初日から失望しちゃうわよね。」
悲しそうに呟くエミリアに、ハルチカも同じ気持ちだったので、彼女に掛ける言葉が思い付かず、
ただ、黙っているハルチカであった。
バルセリアの
ウェルド公国では、学生達が進級出来るかどうかが決まるのが、その年の二月末に行われる進級考査であり、
その時点で進級が決まった学生から春期休暇に入る。
初回の進級考査に不合格だった学生は、一週間後の再考査により、再度、進級の合否の判定が行われ、その時点で落第か進級かの最終判断が下され、
その進級、落第の決定が全ての学生に下されてから、最終判定を待って、学校に残っていた学生と教職員の一ヶ月の春期休暇が始まる。
三月の春期休暇が終わると、四月の新学期が始まり、
学生のクラスは三年間、変更する事は無いので、進級した学生はそのまま、上階に移るだけである、
だから、進級が決まっている二人は、黙ったまま、
その瞬間、
二人は奇跡の光景を目にした。
教室に入った瞬間、
二人は、
二人に優しき風が吹き、
エミリアの髪が風で舞い上がる、
えっ!
今のは!!
あれほど、
埃だらけの薄汚れた天井は、薄いパステル調の
落書きで、黒く汚れていた壁は、美しく上品な白い壁を基調に薄いパステル調の
教室が、教室が、美しく、綺麗に変わっていた。
「やっぱり、驚くよね、ハル。」
美しくなった教室に見とれていた二人に声を掛けるのは、同じ
ジェミオ・バレットス
背はハルと同じくらい、丸顔のジェミオは、嬉そうに、ハルチカ、エミリアに、
「おはよう、ハル、エミ」
と挨拶をし、
ハルチカは、
「ジェミ、此は一体、」
「あぁ、寄宿組は昨日の夕方から学校に来たんで、此の光景に昨日、ビックリした。」
エミリアは直ぐにジェミオに詰め寄りながら彼に問い掛ける。
「で、どうして、こんなに綺麗になったの!学長の魔導術?」
彼女はジェミオに聞き、彼は詰め寄る彼女を避けながら、
「違うよ、学長も一昨日、学校に来て知ったんだって。」
「じゃ、先生達が綺麗にしたのか?」
ハルチカもジェミオに尋ねた。
彼は首を振りながら答える、
「まさか、先生達も昨日の朝、知って大騒ぎしたんだって。」
「じゃ、プロの職人にやらせたの?
エミリアは信じられない、って表情をしながら呟いたが、ジェミオはにやつきながら、
「その
と得意気に、二人に話し、
二人、同時に、
「えっ!?」
彼は驚いている二人を、もっと驚かそうと、
「更に、凄い事に、その
二人は、ジェミオの思惑通り、
「一週間!」
驚いた。
更に、突っ込みのエミリアが、
「あんたの部屋はどうでも良いから!」
此も、期待通り。
ジェミオは、自分が重要な情報を知っている事を自慢気に、その事を二人に話す、
「
マーキは、別にジェミオの兄では無い、ただ、兄貴肌のマーキをジェミオが慕っているだけである、
また、慕われている事に満更でもない、マーキも、何かと、ジェミオには色々な事をよく話す間柄にはなっていた、
ただ、ジェミオの本命は、実はローラで、思春期だからローラと口を利く事が出来ないから、マーキを慕っている事を、マーキは知らなかった。
エミリアは、ちょっと呆れながら、
「異国人って、ジェミ、あんたその人と会ってないの、うちの
ジェミオは、わかって無いなあ、って顔でエミリア見ながら、彼女に言い訳をした、
「エミ、僕が此の学校に来たのは昨日の夕方だぜ、其に今朝だって、皆で北の森に、その人に会いに行ったんだけど、その人の宿舎が見付からなかったんだよ。」
ハルチカとエミリアは、また同時に驚いて、
「?宿舎が見付からない?」
「あぁ、なんでも、マーキの兄貴が言うには、その人、魔導機の発明家らしくて、彼が発明した魔導機をあの有名なロートス社から狙われているから、仕事の無い時は隠れてるらしいんだ。」
ハルチカは、うちの
「魔導機の発明家!」
と大声を出してしまった。
一方、エミリアは呆れながら、
「何、その嘘臭い設定、あんた、そんな話、信じたの!だいたい、なんでそんな凄い人がうちの
ジェミオは、その指摘に答える事が出来ず、
「確かに、普通だったら、うちの
とエミリアに同意した。
話を聞けば聞くほどエミリアは疑って、
「その人、怪しくない、学校を綺麗にして姿隠すなんて、何か裏が有る見たいじゃない。」
その指摘にジェミオは頭を掻きながら、
「でもさぁ、エミ、そんな凄い魔導機だったら六日で学校を綺麗に出来るし、工学科の奴等は大騒ぎしてるし、宿舎は消えてるし、なんやかんや説得力あるんじゃないのかなぁ。」
エミリアは、ジェミオを小馬鹿にした表情を浮かべながら、
「ジェミオ、その、怪しい
と彼にその
「エミ、その人、じいさんじゃないよ、マーキさんが言うには、二十才半ばの男性でエルさんがメロメロだって言ってた、確か、名前は、・・・ス・・・ス?」
ハルチカも色恋沙汰が既に有る事に興味が沸いてきて彼にその部分を詳しく聞こうと思い、
「うん、そんな若い人がうちのような
ハルチカがエルデシィアの事を美人と言った事に、ちょっとムカついたエミリアは、
「良いんじゃない、エルさんだって年頃だし、彼氏いないって有名だし、で、名前、思い出した、ジェミ。」
「あぁ、思い出した、確か、スグル、『スグル・オオエ』さんだよ。」
二人は、同時に、
「えっ!スグルさん!!!」
「?、なんだ、二人はその人知ってたんだ、どんな人、そのスグルって言う人。」
ジェミオは、ハルチカとエミリアが既に、
二人は顔を見合わせた後、ハルチカが、
「別に、知ってる分けじゃないんだけど、春休みに二人でシャーリン先生の宿題、『魔導術による氷菓子の作成』の為の材料集めにハウエルさんの牧場に行った時に、ちょっと会っただけで、詳しい事は知らない。」
「えっ、二人共、あの宿題やったの!確か、今日だったよな、発表、ヤバイ、俺、まだ、あれ、上手く出来ないんだよ。」
「ジェミ、あんた、熱交換の魔導術、練習してこなかったの、あたし達、結構、練習したわよ。」
と、得意気に自慢する、エミリアにハルチカは、
その代わり、嫌って程、不味い氷菓子、食わされた、特にエミのは不味かった。
「ハル、何か、今、変な事考えなかった!」
「べ、別に。」
焦るハルチカ、そんな二人を無視して、ジェミオは、
「良いなぁ、熱交換の魔導術、二人共、マスターしたんだ、噂じゃ、ルーナ殿下が視察するのは、シャーリン先生の授業だって話だし。」
また二人同時に、
「えっ!ルーナ殿下が視察!!」
その二人の反応に、逆にビックリしたジェミオは、
「?二人共、知らなかったの、中庭の掲示板に書いて有るよ、見なかったの?」
「そんなの見ないわよ、中庭は新入生でごった返しているから、あたし達、外階段を使って教室に入って来たんだから!」
ハルチカも、頷きながら考えていた。
もしも、
スグルさんが、追い掛けられているのは、あの世界的大会社の
ルーナ殿下、
ウェルド公家じゃないのか?
考えられるのは、
スグルさんが発明した、魔導機の軍事利用!
だから、ルーナ殿下はスグルさんの事をあんなに、しっこく聞いてきたんだ、
此なら、全てに説明が付く、
僕達に、此の事件を黙っとくように言ったのも、スグルさんに知られたくないからだ。
殿下は、もしかして、スグルさんが此の学校にいる事を知っているんじゃないのか!
それで、視察と言う名目で、此の学校に乗り込んで来て、魔導機の発明家のスグルさんを拉致する気なんだ!
「どうしたの、ハル、顔色が青いよ。」
エミリアはハルチカの様子が変わった事に、心配して彼に声を掛けた。
しかしハルチカには、そのエミリアの声が届かなかった。
ハルチカは更に考える。
スグルさんは、僕達の恩人だ!!
その恩人のスグルさんは、公家から逃げている!
スグルさんは、公家の牢屋に何年間も閉じ込められていて、だから、あんな髪ぼうぼうの髭伸び放題、服はボロボロの格好だったんだ!!
そして、逃げたスグルさんに僕達は偶然出くわし、スグルさんに助けられた。
ルーナ殿下は、逃げたスグルさんを追い掛けている時、船が故障して牧場に不時着して、僕達と出会った。
その時は、僕達はスグルさんの事情を知らなかったから、
喋ってしまった!!
恩人で有る、スグルさんの事を!!
そして、その情報の対価があの高額な
スグルさんの、スグルさんの情報は、公家には其だけの価値があったんだ!!
僕は、恩人を売ってしまった!
大変な事をしてしまった!!
どうする、どうしたら良いんだ!!
知らせるんだ!
スグルさんに、追ってが来る事を!
ルーナ殿下が来る事を!!
直ぐに、直ぐにスグルさんにその事を知らせなくちゃ駄目だ!!!
バーン!!!
ハルチカは駆け出し、教室から外廊下に飛び出した!
「ハル!!!」
エミリアもハルチカを追い掛けて、教室から外に飛び出した!
「ハル!エミ!もうすぐ入学式が始まるんだよ!」
一人、残されたジェミオは、呆れながら、窓から二人に向かって大声で注意するのだが、二人は既に外階段から地上に降りて、西の庭園から北の森の方向に走り去っていた。
「遅刻しても、知らないぞ。」
何が起こったのか理解が出来ず、只一人、小さな声で呟くジェミオだった。
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ハルチカは、ジェミオの話を聞いて、直ぐに、
心配して、その後を追うエミリア。
北の森の
あの廃墟じゃ、人は住めない、あの廃墟にスグルさんが要るんだろか?
もしかして、スグルさんは、どっか別の処に部屋を借りて、学校には仕事として通ってるとか。
エミリアもハルチカと同じ考えで、
「ねぇ、ハル、此処に、スグルさんはいないんじゃないかなぁ。」
とハルチカに声を掛ける。
「でも、もし、スグルさんが、此の森にいたら、僕は、僕達はスグルさんに謝らなくちゃいけない!」
「謝るって、どうゆう事、ハル?」
エミリアには、ハルチカの考えが理解出来なかった。
「僕達は、僕は、スグルさんの事を、喋ってしまった!だから、ルーナ殿下はスグルさんが、此の学校にいる事を知ってしまったんだ!」
「ハル?何、可笑しな事、言ってんのよ、確かに、ルーナ殿下はスグルさんの事を色々聞いていたけど、其がどうかしたの?」
「そうだよ、ハル君、君達が俺の事をルーナちゃんに喋ったとして、其がどうしたって言うんだい。」
後ろから、爽やかな声がして、
二人が、後ろを振り向いた時、
其処にいる人は、
歳は二十前半、背は百八十を越えて高く、蒼みがかった短い黒髪は清潔感のある緩いパーマに、固めていないサラサラとした艶の有る髪、無精髭、瞳は濃い群青色の男性、
スグル・オオエ
その人だった。
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