第10話 民間人
軍医のオリフィア・カーネルセンは、私に忠告をした、
「良いですか!ルナリィア殿下!連戦で隊の士気も下がってます!健康面でも不安が有ります!ちゃんと、本当の休暇も取ってくだい!」
耳の痛い忠告だった。
私は、大事な事を忘れていた、部下達に、北方紛争の処理が終わったら、休暇をやると言った約束を、
部隊が、今まで、連戦連勝であったのも、私が、防魔省の
私は、ちょっと自分の事だけを考えすぎた。
「そうだなぁ、もともと、北方紛争が終わった時、皆に一週間の休暇を約束していたのを、無理して此処まで来たんだ、分かった、街で全員、一週間の休暇が先だ。」
私は決めた、焦ってもしょうがない、休暇が先だ、やれる事は私だけで何とかなる事を先に進めよう。
皆には、街でゆっくりと休んで貰をう、
リナ副将が、私に気を使って、
「まぁ、何かありゃ、休暇なんか切り上げりゃ良いいし、兎に角、皆、街で一杯やりたくて、ウズウズしてる状態だから、良いいんじゃね、ロンゲルなんか、ドンチャン騒ぎする店を予約したようだし。」
えっ、ドンチャン騒ぎ!
私は、ちょっと不安になった。
ただでさえ、街を破壊しそうになったのに、
羽目外した彼等が、また別の物を壊したら、
あんまり、派手な事しないでくれぇ、と私は願ったのだが、
そんな私の不安をよそに、リナは私に一枚の紙を差し出した、
「大将、此の店で、此の内容、」
と私に、宴会の案内状を見せてくれた。
もう案内状まで用意していたのか!
此の宴会を企画しているのが、ロンゲル・ドルサン中将、二メータ近い巨漢で妻子持ち、更に部隊一の力持ちだが、凄く良く気が利く、だから部隊のムードメーカーで、赴任当時の私を随分助けてくれた。
彼が企画した内容は、
私は、リナに聞いた、
「此の宴会の費用は幾らなんだ?」
リナは?ってな顔して、
「確か、ロンゲルが百万
私は驚いた、
「百万
リナは、笑いながら、
「大丈夫だろ、大将、確か部隊には防魔省から依頼の海賊退治報奨金があった筈だし。」
・・・其は、既に船の修理代に消えた。
まったく、
私は、魔導通信で家の執事長を呼び出した、
「カール、私だ、バルセリアの街の、ラ・セルセンと
リナは、嬉しそうに、
「ごっつぁんです!大将!」
と言って私に頭を下げ、横で、オリフィアが笑っていた。
更に、案内状には気になる一文が書いてあった、
「此の、特別参加、民間人一名って何だ?」
リナは、あぁ、と
「ロンゲルが
・・・
心配する事が無いって、
・・・
・・・
また、民間人が係わるのか?
今日は、此で二度目だ、
偶然なのか?
リナが、民間人を気にしている私に気を使って、
「まぁ、大将のお陰で、俺達の『
私のファン?
そっ、そうなのか、
まぁ、いい。
私は、話題を切り替える事にした、
「其で、リナ副将、街に行く小型魔導船だが、先の高校生二人と、私、其にオリフィア先生と怪我人、女性を優先したいんだが。」
リナは、頷きながら、
「いいっすよ、まぁ、ロンゲル以下の突貫部隊は、訓練を兼ねて、走って街迄行きますよ。」
走るって、
副将は休暇の意味を知っているのか?
まぁ、此処は副将に任そう。
こうして、私と、オリフィア軍医と二人の高校生は、小型魔導船で先にバルセリアの街に向かった。
「残念ですね、ルナリィア殿下、是非、殿下にお薦めのお店がありまして、私は、今日、其処に殿下を招待しようと思っていたんですけど。」
「申し訳ない、招待は、また今度と言う事で、ボレン局長。」
「そうですね、では、次回は是非、」
ふぅ、此で、五人目だ、
私は、今後の現地との連携を打ち合わせする為に、第一便の小型魔導船でバルセリアの街に向かった。
第一便には、私達が保護したエミリアとハルチカの二人の高校生とオリフィア軍医が一緒だ。
小型魔導船は街の端に有る、魔導船発着場に着陸すると、
高校生達とは、今回の事故で壊れた
オリフィア軍医は怪我人を収容する病院に、発着場から怪我人達と一緒に向かい、
私は、一人、魔導省バルセリア支局に向かった。
支局の担当部署で、担当官と打ち合わせする
最後に挨拶に行った、此の支局の最高責任者、ボレン・ダーァレス支局長の接待も断った。
魔導省は、建国の初期に暗躍していた、違法魔導士を取り締まる為に出来た組織だ。
建国当初は、魔導士が起こす事故や犯罪、災害が絶えず、魔導省も忙しかった、だが、時が立ち、教育と法が整備されて来ると、違法魔導士の数も減少し、
今では、魔導省が大きく絡む仕事も殆ど無くなり、
その為、魔導省で出世するには、違法魔導士の検挙数より、上司の接待の数と売り込みが重要な組織に、成ってしまった。
其処が、防魔省と対立する原因で、国境警備、国境紛争の対処、諸外国との戦争への介入等、防魔省は今でも忙しい。
だから、魔導省解体論が何時も起こる、だが、違法魔導士はゼロでは無いので、魔導省を無くす事は出来ない、
其に、魔導省が防魔省の軍備の払い下げを引き受けないと、議会が
そして、接待と売り込みが上手な魔導省が、議会の政治家達をホテルのような魔導軍艦で接待する事により、軍艦の有効利用を理解した議会は、軍備の予算案を可決する、
更に、その中古の魔導軍艦も、暫く観光、研修、広告等に使って、防魔省からまた古い軍艦が来ると、
残りの砲塔も外して、民間に売却し、魔導省は売却利益を手にする。
だから、魔導省は少ない予算でも、副業で莫大な利益を上げているので、解体論がいつの間にか自然と消えていくのであり、
お互い持ちつ持たれつの関係が出来上がっていた。
そんな組織だから、私やガチンコの
実際、私が来る迄は、
下心で引き受けた、隊長は必ず、リナ副将とトラブった。
配属が
但し、彼等は本当に
私が手柄を立てると直ぐに魔導省の宣伝に利用して、国民にアピールする当たりは、決して防魔省では出来ない芸当だ。
支局との打ち合わせが、終わり、待ち合わせの駅の中央広場に行くと、既に皆も来ていて、軍医のオリフィアも来ていた。
リナ副将と星翔部隊の面々は、私達が壊した、広場の鐘突塔の残骸を片付ける手伝いをしていた。
私に気が付いたリナは、額の汗を手で拭いながら、
「遅かったすね、大将、どうでした、支局は、」
と私に声を掛けてきて、私が笑いながら、
「接待の嵐だった、だから次回はリナ副将にお願いしたい。」
と冗談で
「大将、冗談でも支局に行けとは言わないで下さい!」
と半分本気で怒った、リナ副将の、事務方嫌いも相当なものだ。
その時、ロンゲルが、
「さて、隊長がお越しになられたので、我々は此より、目的地に向かう!全員整列!!」
ウォオオオオオオオオオ!!!
と掛け声が上がり全員が整列した。
しかし、整列って、本当に『
全員が隊列を組み、行進して店に着くと、ロンゲルが中を除いて、
「おっ、此処だ、此処だ、広い、広い、此処なら、全員が入れますよ、殿下!」
と嬉しそうに私に報告し、リナが、
「あんまり、はしゃぐなよ、ロンゲル!」
とロンゲルに注意をする。
リナ副将が先に入り、私が後に続いて店に入ると、店の中には、既に一名の民間人が先に来て奥の席に座っていた。
彼は、身長は百八十は越えていて、決して低くは無い、清潔な
部隊の娘達が騒ぎだし、彼の席の隣が話題になって、揉めそうだったので、私が行こうとした時、ロンゲルが、
「殿下とリナ副将は
と怒鳴った。
えっ!上座って、
そうなのか、
なんだ、此の、ガッカリ感は、
ロンゲル中将達も、民間人が座っている席に向かい其処で、彼を全員に紹介した、
「其と、今日は、民間人が是非、俺達と一緒に
ワァアアアアアアアアアア!!!
と喝采が上がり、特に、部隊の女の子達が喜んでいる。
彼は、椅子より立ち上がって、私に腰を斜めに傾けた、
異国の挨拶なのか?
私も真似して、上半身を斜めに傾けてみた。
彼は嬉しそうに微笑んだ。
リナはさっさと指定の席に座った後、
「大将、座らないのか?」
と私に着座を薦める。
「えっ、ああ。」
彼は、名前は何と
私は、座りながら、彼を観察していた。
ホールに歓声が上がり、
私は、立場上、あまり飲むことは出来ないから、コップ型の『バカン』にして貰った。
ウェイターやウェイトレスが
私は、あの民間人の事が気になっていた。
確かに彼は異国人だ、何処から来たんだ?
後から、ロンゲルに、あの、民間人の事を聞こうと考えていたら、付近の女の子達からも、
「ねぇ、ねぇ、民間人の彼、素敵じゃない、」
「名前、何て言うのかしら?」
「後でさぁ、行かない、あの席、」
「無理、無理、中将達がガードしてるって、」
「あたし、中将に名前聞いてって頼んだ、後、住んでる所も!」
「やーるぅ、あたしにも、後で教えてねぇ。」
彼の話題で盛り上がっている。
リナ副将は呆れて、
「何だ、何だ、皆、奴の事、ばっかし?」
同じ席のオフィリア軍医も、顔を赤らめながら、
「無理ないは、彼は此の国には、入ないタイプだし、何かエキゾチックな魅了が有るのよねぇ。」
えっ、オフィリア、貴方もか!
リナが憤慨して、
「先生迄、おかしくねぇか?奴、魔導術で何かしてんじゃねぇの!」
とオフィリアに食って掛かり、
オフィリアは、笑いながら、
「魔導術で、こんな繊細な気持ちの操作は不可能よ、此は、適齢期の女性なら誰もが抱く、素敵な殿方に対する憧れとその人に抱く恋心、普通の感情。」
・・・
えっ!!!
・・・
皆、こんな気持ちになるのか?
・・・
知らなかった!
・・・
・・・
此が、恋心!!!
・・・
でも、可笑しい?
此の気持ちは、あの変態にも起きた!!!
私が、あの浮浪者の変態に恋心を抱いたのか?
其は、あり得ない。
・・・
・・・・
私は、今まで、異性に興味が無かった、別に同性に興味が有る分けでも無い。
立場上、興味が持てなかっただけだ。
公王の娘は、大体、叔母のように一生、独身を貫くか、家の関係で同列の家系に嫁ぐかの二択しかない。
其処に、自由な恋愛等無いし、夢も無い、近寄って来る男性も全て打算と考えてしまうから、興味を失ってしまう。
そんな事を、つらつらと考えていると、全員に
「まず、乾杯の前に、リナ副将より一言!」
と言い、リナ副将が立ち上がった。
ロンゲルの気配りで、最初にリナ副将が乾杯をして、最後に私が皆に
リナは開口一番、
「諸君!我等は無敗だぁ!!!」
と大声で、全員を鼓舞し、皆は嬉しそうに歓声を上げた、
ワァアアアアアアアアアア!!!
こう言う処は、リナは旨い。
次に、リナは私を指しながら、
「船は、ルーナ殿下の力で落下しなかった!!!」
ええええええええええ!!!
皆は、そんな事を思っていたのか!!
違う!違う!違う!あれは、私の力じゃない!!!
あれは、たぶん、星の神々の力だ!!!
今は、殆どの人が星を信じていないから、こんな事を言っても信じてはくれないかも、知れないけど、あれは、絶対に星の力だ!
私は、必死に両手を振って、リナに違うアピールをしたが、リナは無視して、
「我等は、『魔人』にも負けてねぇ、たまたま、『スグル』って言う、変態野郎に手柄をかっ
えっ、?
リナが、あの変態の名前を言ったら、彼が
何か、異国人に受ける、内容があったのだろうか?
女性が変態と言う言葉を使ったから?
・・・言葉には気をつけよう。
負けず嫌いのリナが最後に、
「だから、次は、俺達が『魔人』を
と言うと、また皆が、大喝采して、
ワァアアアアアアアアアア!!!
大喝采の後、
グビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビグビ
全員が酒を飲み始め、
私も、一口、飲んだ、うん、良く冷えた
そう言えば、彼の飲んでるのは
彼は立ち上がって、ロンゲルと握手している、
何を話しているんだろう?
「殿下、彼の事が気になるんですか?」
「えっ?」
オフィリアが、私に話し掛けてきた。
「まぁ、珍しい異国人だなぁ、と思って。」
リナが、
「プウッワァ!、うめえぇ、うん?なんだアイツ、
リナも彼の事が気になり始めたようだ。
ロンゲルも、気が付いて、彼の前に
彼は一口飲んで驚いた表情の後、その
何故だ、
何故、そんなに、切なく、悲しい表情をするんだ、
私の胸が、締め付けられる。
「何だか暗くない、彼、酒が嫌いなのかしら?」
オフィリアも、気が付いたようだ。
ロンゲルが彼に、
彼は、明るくなった。
彼は、美味しそうに
うん、良かった。
ワァアアアアアアアアアア!!!
また、歓声が上がり、シェフとウェイターが
・・・
そうだ、彼に、此の
きっと、彼は喜ぶに違いない、
私は、近くのウェイターに、彼にも、その
オフィリアが、笑みを浮かべて、
「へぇ、殿下も、あの殿方には興味が有るんだ。」
と私をからかい始めた、
何故か、私の心臓は高鳴り、顔が赤くなる、
「いや、そう言う分けじゃないんだが、折角の客人で、私達だけが、
私は、何を慌てているんだ?
リナも、
「いいんじゃね、あんなに有るんだし。」
と私を
彼は、何かロンゲルと会話した後、此方を見た、
目が、目が合ってしまった!
変だ、私は変だ、胸の高鳴りが押さえきれない、
彼は、また、腰を屈めた、
私も、彼の真似をしてみた。
彼が、彼が微笑んでいる。
此れで合ってるようだ。
リナが不思議そうに、私に聞いてきた、
「何してんだ、殿下?」
私はリナに説明した、
「何か異国の挨拶のようで、あの異国人が此の挨拶をするから、私も、挨拶を返してみたんだ。」
リナも彼を見ながら、
「へぇ、其が異国の挨拶かぁ、変わってんなぁ。」
そうだ、確かに変わっている、此処等の近隣諸国には無い挨拶だ。
彼は、何処の国の人なんだろう?
テーブルには、
幾ら、公族でも毎日、
私達でも特別な時しか、此の貴重な肉は食べない。
此の
ウゥオオオオオオオオオオオ!!!
あの彼の、
「うっーめえええええええ!!!」
と言う声が私達のテーブル迄届き、
私は、嬉しくなって、彼の方を見たら、また彼と目が合い、思わず笑ってしまった。
オフィリアが、私に、
「殿下、良かったじゃない、彼、喜んでるようだし、」
リナが、
「異国人でも此の
と変な事に関心していた。
此の宴会の企画も、最初は心配だったのだが、こうなると、
私は、
此の会を企画した、ロンゲルに感謝し、
そして、美味しそうに
胸のトキメキが止まらない、
私は、
彼を、ずうっと、見続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます