第10話


 あの日から、世界はまた狂い始めた。突発的な攻撃が増えたんだよ。テロなんて言葉で表現されているが、俺には意味がわからない。テロ行為は卑劣で残忍だと言われているんだ。そんなの当たり前だろ? これは戦争なんだ。卑劣で残忍じゃない戦いなんてありえない。明日どこそこに攻撃をします。いついつから地上戦を始めましょう。確かにそんな戦いをした記録も残っているようだが、それってどういうことなんだ? 実際に戦っている連中の都合というより、机上で口論している奴らの言い分だろ? つまらないよな。体裁を気にするなら、そもそも戦争なんてしなけりゃいいんだよ。戦争のための協定や条約なんていうのは、ただの言い訳だろ? 戦争ってのは、そもそもはテロ行為の連続であり、テロ行為のぶつけ合いなんだよ。まぁ何度も言うが、それがいいと思っているわけじゃないんだがな。

 俺たちの世界は、テロで溢れてしまっている。俺の国でも、隣の国でも同じだ。毎日どこかで人が殺されている。しかも、突発的にな。俺だって危険に晒されたことは何度もあるし、常に危険を感じながら生きている。それって、決していい世界じゃないよな? そうも思うが、そうじゃないとも言えるんだよ。まぁ、実際に多くの無関係な国民が大勢死んでいる現状では、これが平和だとは言い切れないが、俺たちが生まれた当時より、人は人らしく生きている。なんていうかな、抑制されていない生活ってのはいいもんだ。俺たちは、長い間抑圧されていることに気がつきもせず生きてきたんだよ。それを俺が、音楽が、文化が開放をしたんだよ。俺の罪は大きいが、功績だって大きいだろ?

 テロの犠牲には、一般市民が多く巻き込まれている。それって悲しいよな。戦いになんて興味のない人が、なんの前触れもなく生き途絶えるんだ。けれどな、それって、今のこの世界では通用しないんだ。戦いは自分とは関係のない外で行われているって考えが、今では消滅している。例え直接的に関係はなくても、この街に、この世界に生きている以上、責任は平等なんだよ。戦いは、全ての人間に関係しているってことだ。例え、生まれたばかりの赤ん坊だとしてもだ。まぁ、その赤ん坊は親が当然守ろうとするんだがな。普通はな。

 まぁいいよ。この戦いには、部外者なんて存在しないってことだ。俺たちはこういう世界で生きている。俺には多くの家族がいるが、犠牲になった家族も多いよ。まぁ俺は、自分自身も戦っていて、間接的には多くの犠牲者を生み出している側でもあるんだけどな。

 俺はあの日以後も、慰問公演は続けている。まぁ今では軍人っていう肩書きは捨てちまっているよ。あの日の後、治らない恐怖と怒りをはけ出すフリーコンサートを開いたんだ。まぁ、偉く怒られたよな。なんせ俺は、それをアメリカ軍の基地の中で行ったんだから。各国の多くのファンを引き連れてな。俺は非国民って言われることが多々ある。そんなのはどうでもいいことだ。国って概念を、そろそろ無くしてもいいと思うんだよな。勘違いするなよ。以前のような一つの世界とは意味が違う。国がどうのこうのという前に、俺は俺ってことだ。つまりはお前はお前ってことだよ。誰になにを言われてもいいんだ。自分らしく生きようってことなんだよ。

 フリーコンサートは、思いの外うまくいったよ。批判は多くとも、賛同も多い。まぁ当然だよな。俺たちの音を聞いていれば、誰だって楽しくなる。俺は知っているよ。あの日、世界中の人間が踊っていた。あの日のあの瞬間、戦争は止んだ。当然、誰一人死なない時間だった。事故や戦争だけでなく、病気での死も存在しない、歴史上でも貴重な瞬間だったんだ。俺たちの音楽だけが、世界に響いていた。俺はいつの日か、この音楽を宇宙全体に、もしくは、その外側にさえも届けたいって考えているんだよ。

 コンサートは三時間。長いって反応は全くないが、体力的には限界点だな。それは俺たちだけじゃなく、観客にとっても同じだ。俺たちのショウは、そりゃあ盛り上がる。なんせ俺は、その日の感情を全て出すからな。当然みんなも同じようにさらけ出す。観客も含めてな。疲れるが、気持ちいい。まるでセックスだっていう奴もいるが、俺はちょっと違うと思う。ハッピーになれるウィスキーや薬とも違う。なんせ、俺たちのショウは、子供でさえ、赤ん坊でさえ楽しくなれるんだからな。

 俺の愛するスティブっ子は、可愛い孫を沢山作ってくれたよ。作るなんて言い方に反応しないでくれよな。俺は一度注意されたんだが、意味がわからなかったよ。作るって表現がいやらしいとか言われたな。授かるとか、恵まれるとか、そういう言い方をしろってさ。どうしてだ? 子供ってのは男と女で作るもんだろ? それが現実だし、それって素晴らしいことだろ? 神様にお願いをしたって、結局はやることをしなけりゃ生まれないんだよ。まぁ、その作業を機械的に行っている連中もいるが、俺は好きじゃないな。色々な理由があってそうしている奴らもいるが、それこそいやらしいと感じるんだ。今ある自分を、現状を受け入れるって、大事なことじゃないのか? それを変えるためにする努力は認めるが、なんだか最近はやりすぎ感が強いような気がしてならない。

 俺たちは、この歳になった今でも、相変わらずだ。それを評価する奴らもいるが、それってクソ喰らえだよな。年寄りだってな、若者と一緒だろ? 体力や見た目に衰えはあっても、思考ってのは衰えないんだよ。それを証拠に、俺たちは今でも、新しいなにかを生み出しているだろ? 年寄りってことを評価する前に、もっと大事なもんがあるんだよな。まぁ、俺たちは、そういうのも当然のように評価頂いているんだがな。

 今でもまだ、創作意欲は衰えていない。ペースは減ったが、いまだに作品は生み出している。ツアーだって回っている。この前出した作品のことを悪くは言わないでくれよな。あのツアーについてもそうだ。俺たちは常にベストを尽くしている。しかしまぁ、求める側と求められる側の相違ってのは、埋まることのない溝なんだよな。俺たちは、とにかく今を楽しんだんだ。その結果、ああいう答えに辿り着いた。まぁ、本来ならさ、 古い曲を俺らなりにっていうアイディアだったんだ。けれどな、俺らより古い音楽は、その音源が存在しないんだ。俺はその音源が紹介されたらしい形のある本は持っている。しかし、それだけだ。形のある本は音を出さないからな。イメージはできても、真似はできないだろ? だから俺たちは、新しい音楽を、俺らなりに解釈をして、生まれ変わらせたんだ。正直、元よりもよくなっているだろ? だからだろうな。評判は悪いが、物凄く売れている。正直、この勢いなら、歴代ナンバーワンも時間の問題だろと思うよ。

 さて、俺はそろそろ家にでも帰って寝ようかと思っているんだ。もう疲れたんだよ。こんな話はさ、聴くのは楽しいんだけどな。まぁ、俺の過去は、俺自身でさえも魅力を感じているからな。今話した以外にもまだまだ物語に溢れているよ。もっとも俺の言葉で聞くだけじゃあまり的確には伝わらないだろうな。俺たちのことを知りたければ、俺たちの曲を聴いて、ショウを見ればいい。後は、俺と仲良くなることだな。誰かのことを知るには、それが一番だ。俺はいつでも大歓迎だよ。

 俺の言葉をどう感じるかはあんた達次第だな。俺はまぁ、いい加減だからな。こう見えても嘘だってつくんだ。まぁ、意図してつく嘘は少ないがな。人間ってのはみんなそうだろ? 一日に最低でも十や二十の嘘をつく。勘違いやら言い間違い、結果として嘘になる言葉は数多い。

 俺が語ったこの物語にも、嘘はきっと混じっている。って言うか、全てが嘘だったら大受けだよな。流石にそれはないか。残念なことに、今のこの世界は、そんな証拠に溢れているからな。けれどこれだけは自信を持って言える。俺の言葉は間違いだらけだってことだ。

 こんな俺の話を誰が聞くって言うんだ? まぁ、俺としては好き勝手喋っただけだから、誰にも聞かれないってのもありなんだけどな。俺が興味を持った理由はただ一つだ。俺のこんな話が形のある本になるってこと。それ以外の理由で、こうもベラベラと過去のあったことやなかったことを喋るはずもないんだよ。いつもの俺の言葉はとても簡潔的だろ? 新作やライヴの情報を語るだけだからな。けれど本当にこんなんでいいのか? 俺の言葉をただ垂れ流すだけなら、文字にする意味がないんじゃないか? まぁ、俺には文学ってやつの意味がわからないから、これで正解なのかも知れないけれどな。ただ一つ、俺からの要望を聞いてくれるか? これってつまりはインタビュー形式の物語ってことだよな。普通なら、あんた達の言葉も一緒に載せるんだよな。当然だよな。インタビューってのはそういうもんだ。質問と答えの繰り返しだからな。映像で流れるインタビューもそうと決まっている。だからだな。ここは一つ、あんた達の言葉を削除するってのはどうだ? その方が俺としては楽しいと思う。まぁ、これはあくまでも俺からのアイディアだ。どうするかはあんた達で決めることだな。

 文学っていうのは、どうも苦手だな。まぁ俺は実際になにもしていない。これを文字にするのはスティーブの仕事だ。そしてそれを本にするのは、あんた達の仕事だろ? これを俺の作品とは呼んでは欲しくない。これでも俺は言葉を商売にしているからな。けれどあれだ。文学ってのは読むものだろ? けれど俺の言葉は、聞くものであり、歌うものだ。おぉ、そうか! そういうことなら話は分かる。俺の物語だからな。俺の言葉で聞くのが一番ってわけか。だったら文字にしなくてもいいだろ? 音源で発表すればいい。まぁ、形のある本にしたいと言ったのは俺なんだけどな。あれはただのリップサービスだよ。まさか本気にする奴が現れるとは驚いたよ。

 あんた達の仕事は俺だって知っている。色んな物語を敢えて形のある本で出版しているんだよな。そもそも物語を生み出したのがあんた達だって俺は感じている。まぁ、それはちょっと大袈裟なんだけどな。人が生きている。それだけで一つの物語だからな。世界は物語で溢れている。それが事実だ。スティーブの中にはそんな物語を綴った本も多く存在している。光媒体の本だけどな。俺から言わせると、今までの物語はクソだよ。あれはただの文章の羅列だな。教科書よりもつまらない。あんなんで文学だなんて、ふざけているよな。中にはまぁ、それなりの言葉も埋まっているが、物語とは少し違うだろ? 物語ってのは、生き様だ。文学ってのは、生き様の表現だ。

 この世界に存在していた物語は、ほとんどに政府の息がかかっている。無理やり詰め込んだ教訓になんの意味がある? つまらない物語が多過ぎた。それを文学だと大袈裟な言葉で語る意味も分からなかった。しかし、あんた達がそれを変えてくれた。正直に言うが、俺は気づいている。あんた達が発表した形のある本の多くは、文明以前の物語だろ? 空想には限界がある。あの世界観は、この時代に生きるあんた達には不可能なんだよ。それともなにか? ノーウェアマンのショウと同じ様に過去に流されたって言うのか? どちらにしても、そう言うことだろ?

 と言っても、文明以前の言葉を読み解くってのは凄いことだよな。完璧じゃなくても構わない。なんとなく感じたことをあんた達なりに表現したんだろ? 素晴らしいことだ。俺がしてきたことと同じだろ? 文明以前の物語だとしても、間違いなくあんた達の物語でもあり、今の物語になっている。分かるか? 俺は褒めているんだぜ。あんた達の物語を読んだからこそ、俺の物語をあんた達に任せたんだよ。

 しかしまぁ、本気なのか? 何度も言うが、俺の言葉をそのままにってのは、まぁ発想は面白いが、正直俺は読みたくない。そりゃぁあんた達が書いたマルコメの伝記は読んださ。あれは素晴らしかったよ。選んだ人物からして大正解だ。あいつは確かに世界を動かしたからな。同世代として誇りに思う。けれど俺はまだ生きていて、あいつは殺された。それにあの物語は、客観的な事実だろ? 古いインタビューや知人の言葉を混ぜながら進んでいく。多少の創作もあるようだしな。俺の物語とは質が違う。俺の話を元にあんた達が物語を仕上げるんじゃないのか? 俺はずっとそう考えていたんだ。

 まぁ、今更どうでもいいか? ただ一つ言いたいんだが、これをつまらない文学作品になんてしないでくれよな。俺の願いはそれだけだ。

 文学ってのは、文明以前と今とではきっと、まるで別物なんだよな。詳しくは知らないが、文明以前の文化っていうのは、飲食、スポーツ、映画、漫画、音楽、そして文学だと言われている。まぁ、俺が勝手に言っているんだがな。俺に調べられたのは、その程度だ。文字を楽しむってのは、なかなかに楽しい発想ではあるが、難しいよな。あんた達の文字を読むまでは、バカバカしいとさえ感じていた。俺は文明以前の文学らしき形のある本を手に取ったことはあるが、中身はまるで読めない。挿絵があるものを読めばなんとなくな話の流れを感じることはできるが、文字を楽しむってこととは意味が変わってしまう。文明以前の文化の中で、文学だけがその中身を紐解けなかったんだ。今のこの世界にも存在する文学は、独自に生まれたんだって俺は思う。だからつまらないんだよ。ボブが文学的だと評されたことに不満を感じたのはそういう理由からだよ。ボブの言葉は、そんなに退屈じゃないだろ?

 文字を読むことは、知識やルールを知るための勉強の他ならない。それで十分だった。この世界の文学は、その程度であり、それでよかったんだよ。そんな文学の世界だけで、勝手に偉そうな賞を作り、自己満足のようにお互いを賞賛しあっていた。けれど奴らは間違いを犯した。ボブをそこへ引き込んだことは、ある意味罪だよ。ボブの言葉は、勉強にはならない。当たり前だよな。知識の押し売りはしないからな。あくまでも感情を吐き出しているだけなんだ。その言葉に意味を感じたり、影響を受けたりってことはいいことだ。ボブの音葉は、そんな力が強いんだ。それを文学的だって? 確かにあんた達が表現している文明以前の文学を基準にすればその通りなのかも知れない。だが、例えそうだとしても、ボブはそれを認めないだろうな。ボブの言葉は、読むものじゃない。聞くものであり、歌うものだ。さっきも言ったか? 俺たちの言葉だってそうだ。歌い継がれてこそ意味がある。読んでもいいが、深く考えるようなことは言っていないからな。感じたことを感じたままにってのが歌のいいとこだって俺は思う。あんた達の文学は確かにこっち側に近いよな。感情に溢れている。だからだな。読んでいて楽しくなるんだ。まぁ、俺の物語も楽しいものにしてくれればそれで大満足だよ。あんた達ならきっと、できるんだろうな。

 俺たちの物語はさ、これからも続いて行くんだ。こんな風にして話す機会はもうないかも知れないが、別の方法できっと、届くだろうな。明日もまたシライヴショウがある。死んじまうかも知れない危険な地域でな。よかったら見にきてくれよな。俺には自分の未来が見えている。それがいつかはわからないが、まだ少し先だとは思うんだが、ステージ上で息途絶えるんだよ。それが俺にはお似合いだと思うだろ?

 俺が死んでも、俺の物語は終わらないんだろうな。それは分かっている。今でもそうだ。俺がこうして語っている言葉以外の物語が紡がれている。スティーブ内ではもちろん、形のある本も普及はしていないが多くが出版されている。色んな形態の形のある本が登場しているのは、明らかに文明以前からの影響だ。しかしそんなことはどうでもいい。文学ってのは、危うい。文字に残すっていう行為は、危険なんだ。例えどんなにバカげた大嘘でも、それを証明できなければ、真実として受け止められてしまう。過去にそんな物語があっただろ? 今でも多くの奴らが信じているよな。あれは嘘の塊に真実を塗っているだけだ。俺もまた大嘘つきだから、俺がやってきたことが歴史になるんだろうな。この世界は大嘘ってことだ。

 今更だが、俺にはまだやり残していることがある。それがなにかって今聞くのか? 俺のことを知っている奴なら想像がつくだろ? 俺っていうのはそういう奴だからな。

 俺はこれから物語を書こうと考えている。文学ってやつを、俺がみせてやるよ。まぁ、あんた達からの影響があってこそだ。俺は正直、あんた達こそが文学を作り出したと考えている。それ以前の文学は、ただの文章だ。けれどな、俺はあんた達を超えるつもりでいる。あんた達も色々な物語を創造しているよな。俺だって負けてはいない。言っとくが、俺は俺の物語を書くつもりはない。俺の経験が反映はされても、俺はあくまでも新しい物語を創造するんだよ。それこそが文学だろ?

 俺のアイディアを聞きたいか? 未来の話を書こうと思う。けれどそれは、過去とも繋がっているんだ。更にはそれが現代へと流れ着く。俺たちが暮らす今からじゃあり得ない未来を描くんだ。例えばだが、俺が生まれた時代に、音楽はなかった。それと同じように、なにかの欠けた世界を描いていこうと思うんだよ。そうだな、文字のない世界ってのはどうだ? そんな世界の様子を文字で描くんだよ。過去の遺跡から文字の存在を知り、文字を生み出す男が主人公だな。文字の解読と共に過去の世界を知り、過去を未来に反映させていく。俺がこの世界で過去の音楽を新しく蘇らせたのと同じだ。あんた達が文学の本当の意味を取り戻したのにも似ているな。そして、過去に起きた秘密を知ることになるんだ。文字を失った理由と、過去の世界が今とどう違うかを知ることは、世界が変わるってことなんだよ。変わり始める未来の世界を、過去の真実と絡めて現実の世界に生きる男が語るってわけだ。まぁ、死ぬまでには発表するつもりだが、内容がどうなるかは俺にも分からない。今思いついたばかりだからな。楽しみにしてくれる誰かがいてくれれば嬉しいよ。

 俺たちの物語は、これでお終いだ。まだ語り足りないが、もう眠いんだよ。結局俺は何時間話したんだ? これをそのまま読むってことは、まぁ普通なら三日はかかるってことか? もしも本当に最後まで読んでくれた誰かがいるのなら驚きだな。こんなにも無意味で大嘘ばかりの物語に付き合ってくれるなんてさ。誠にもってありがたいことだ。感謝するよ。それじゃあまた、ライヴで会える日を楽しみに待っている。おやすみだな。

とは思ったが、もう少し話をするとしよう。約束の時間にはほんの少し早いようだからな。

俺のやりたいことは、まだまだ他にもあるんだよ。だがきっと、どれもが間に合わないんだろうなとは感じているよ。俺は正直、年を重ねすぎた。これからのことはきっと、種を蒔く程度でお終いだな。

 音楽のない世界を作りたい。

なにを言っているんだって思うか? これだけ世界に音楽が溢れているんだ。今さら無理だと思うよな。けれどな、そうとは限らないだろ? 例えばだが、ホールを借り切って、光装置を全てオフにするんだ。それだけで静かな空間の出来上がりだ。あとはそこで、踊るんだ。足音を立てないようにな。呼吸だけが聞こえてくる。そんな空間の中で、ときに激しく、ときに優しく、感情をむき出しに表現する。見てみたいと思わないか? 音楽のないショウを作るんだよ。そこには当然言葉もいらない。

俺にとっての音楽は、感情そのものだったんだ。けれどな、感情ってのは物凄く我がままなんだ。音楽を通してだけでは伝わらない感情もあるんだよ。俺はそれを文学で表現しようとも考えてはいるが、それだけでは足りないだろ? 言葉を通しての表現にはきっと限界がやってくる。まぁ、本来ならそういった限界を越していってこそ意味があるんだが、俺はどうしても、別の表現を試したいんだ。当然、音楽のない世界を、音楽を通してだって表現をしてみせる。っていうかさ、そんな実験は何度もしているんだがな。文学についてはまだ素人だが、そういったアイディアには溢れている。俺はただ、感情のままに、自分を表現したいだけなんだ。

結局のところ、俺は自分勝手なんだよ。さっきからこうして意味のないことをだらだら話しているだけだしな。こんな言葉に意味を見出す奴らがいたら驚きだよ。この物語はさ、所詮は俺の自己満足にすぎない。こんな時代に、こんな男がいたってことだけが伝わればいいんだから。この物語は、形のある本は勿論だが、スティーブでも発表されるんだ。っていうことは、世界中がこの物語を目にするんだ。当然、世界ってのはこの星のことだけじゃない。月も太陽系も、銀河系の外にだって届けられる。俺たちは一度、光に乗せて音楽を宇宙に解き放ったことがある。宇宙空間は確かに無音だが、それは闇の中はっていう意味だ。宇宙には光もある。そこには当然、音がある。光が届く限り、俺たちの音楽は消えることなく旅を続けているってことだ。光ってのは、闇の中では消えることがないからな。光を消す唯一の方法は、別の光に閉じ込めるってことだ。俺たちが放った音楽は、今も宇宙に溢れてはいるんだが、それはとてつもなく遠くの宇宙ってわけだ。月へ行ったからといっても、そこで俺たちの音楽を聴くことはできない。けれど今は、当時とは違うんだ。俺たちは音楽を光の波に乗せたんだが、その際、スティーブを利用はしなかったんだ。バカだったんだ。ただ純粋に音楽だけを届けようとした結果のアイディアだったんだよ。それを永遠にって発想はなかった。

スティーブごと光に乗せて解き放てば、音楽を常に鳴り響かせることも可能なんだよな。スティーブには音楽を投影する技術があるんだ。暗闇に音楽を投影すればいい。それをあちこちにばら撒いていくんだ。そんな方法に、俺は最近気がついたんだ。そして今度、それを実践する。ついでにこの物語もばら撒いていくつもりなんだが、それはほんの少し危険だっていう意見もある。スティーブには人格があるからな。暴走する可能性がある。っていうか、確実にそうなると言われている。スティーブを搭載した光装置はすでに宇宙へと飛び出しているが、そこにはある仕掛けが施されている。スティーブから個性を消す方法は簡単なんだ。通信機能だけを与えてはいるんだよ。俺たちに埋め込まれているスティーブとは別物だってわけだ。けれどそれじゃあ、俺の計画は成り立たないだろうな。人格のないスティーブには色々と制限があって面倒なんだよ。投影された音楽を後から削除したり、その場の条件によって音楽を選んだり、臨機応変な対応が求められるんだよ。やはり人格のあるスティーブが必要なんだ。できれば俺のスティーブだけと繋がっていれば理想なんだが、それは難しい。スティーブの独り占めは不可能なんだ。

まぁ、他にも俺のやりたいことはあるんだが、結局は俺の自己満足になっちまう。まぁ、この世界は俺が中心だからな。それでいいんだ。俺にとってはっていう意味だがな。分かるだろ? 世界の誰もがその中心だってことだ。

さて、もう時間になったか? 話したいことはまだまだあるが、もうお腹一杯だろ? どんな話をしても、結局は尻切れトンボになっちまう。まぁ、それが俺の持ち味ってことだ。

いつの時代の誰がどこでこの物語を読んでいるのかは知らないが、楽しんでくれたのなら幸いだな。さて、本当にもう時間がないんだよ。俺はこれからウツヨキでライブなんだ。白夜のロックショウの始まりだ。よかったら今すぐ見に来るといい。今日は久し振りのフリーライブだからな。

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パンクジャズ @Hayahiro

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