四
先生はわざわざ、あたしに難しい漢字を教えながら名前をつけてくれた。今日だって、カルテには丁寧な文字で「檸檬」が書かれている。カルテは、あたしの体のことが書かれているけれど、あたしについての先生の日記にもなっている。ときどきあたしはそれをこっそり読む。先生がどう感じたのか、とか、何を見てたのか、何を感じたのかがわかってくる。夕方、先生が煙草を吸いに外に行く間、ひとりぽっちの時間のひそかな楽しみだ。
中庭はあたしの知っている唯一の外。サナトリウムの建物に囲まれているけれどレモンの木が生えているところまでは、お昼ごはんまでの時間だったら日向に入らずにたどり着ける。あたしは日向には出られないけれど、水やりは朝にやったほうがいいと先生が言っていたから、朝の時間にレモンの様子を見られるのはいいことだ。
レモンの木には綺麗な蔓が絡まっている。レモンの茎よりも明るい緑のそれは、器用に棘をよけながら日に日に伸びていく。
去年までは花を咲かせるだけで実がならなかったけれど、今年はどうだろう。なったら、食べてみたい。ここで育ったレモンは、どんな味がするんだろう。
夕焼けの赤い光に照らされた中庭は広いのに、その中に蔓の絡まった小さなレモンの木が、ぽつんとある。明日は晴れるだろうか。
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