第21話 ヤブ蚊

  たらふくの飛び立てずいる 黒い粒

      一気に殺りたい 蚊の憎らしき


「お前の名前は変な名前。男の名前」

下校途中、後から男子の声がする。歌っている。

私に向けた歌だ。

私の名前は昭和の女の子に多い字ちゃんと〘美〗がついている。

にもかかわらず、同じクラスに同じ名前の男子がいた。からかわれた。

 

名前コンプレックス。

「こんな名前嫌だ。普通の女の子の名前をどうしてつけてくれなかったの?」

親に文句を言うと、父に悲しい顔をされた。

お父さんの名前に美を付け足したからだ。

 

名前コンプレックスだけではない。

私は父にそっくりの一重コンプレックス。

ぱっちり二重の母は、私の苦しみを理解するどころか、

お父さんににて不憫だと軽く笑っていた。


瞼を蚊に刺された。薬を塗れない。痒くてたまらない。

目をこする。 母はお岩さんのようだと笑う。

鏡を見て私も笑う。ブスすぎる。

 

しかし、その日は違った。笑えなかった。

また同じ男子が私の名前の歌を歌っている。

そして運の悪いことに、いつ刺されたのか瞼を腫らして止めてと叫ぶ。

一瞬、間が空き、「ブスっ」その子が指を指して笑う。

 

私は廊下に走り、清掃道具入れからほうきを持ってきて、その男子の頭を叩く。自分でも驚くほど早く、強く叩く。

クラスの女子から悲鳴が上がる。

 

我に返った。私をからかった男子がうずくまり、頭をかかえていた。

ざまあみろ。吐き捨てた。初めての反撃に、教室中がざわつく。

十二才になろうとしていた。今まで地味なブスの反撃。

次の日からも、からかう男子を蹴ったり殴る。

親に逆らえない鬱憤が暴力という形で表れた。

ヒステリックな暴力は先生にも止められない。

同級生の男子に暴力を振るう事が快感になる。

母は、父のDNAだと嘆いた。

 

たぬきやウサギは人間から虐待されると気性が荒くなるらしい。

私の粗暴さは動物以下になり、空手という武道に出会って矯正された。


 

暴力は悪だと教えられた。

 

しかし、残念な事にヤブ蚊を見ると殺さずにはいられない。

しかも最期の晩餐だと呪いをかけて、たらふく血を吸わせてから、殺す。


サイコパスなのかもしれない。

  

   

 


   

  

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