第49話
大島の口から出るとは思わなかった謝罪の言葉に、教室内は静まり返る。
満も、西之原も松村も矢上も、大島の背後に控えていた市原達も、教室内にいた生徒達が皆驚きの表情を浮かべて大島を見た。ただ、楠原だけは皆と違い無表情であったが。
大島は頭を上げると言った。
「楠原さんの言う通り、私達はみんなが嫌がる事をしてた。今朝は好きで先生に従ってた訳じゃないって言ったけど、正直個人的な感情が入ってた部分もある。だから謝る。ごめん」
そして教室内の皆に数回頭を下げ、更に言葉を続ける。
「私はこれ以上、先生に肩入れしない。だから安心して。このクラスがこれからどうなるかは……西之原君達に任せる」
それは大島が満達に向けた言葉であった。
「清美達も、それで良いんだよね?」
大島が原達を振り返ると、犬のメンバーは戸惑いつつも頷く。どうやら昼休みの説得の後、話し合いをして身の振り方を決めたようだ。
何はともあれ、これで五年一組はようやく纏まり、里中に対する本格的な反抗の用意が整ったかと思われた。しかし。
「で?」
低い声で冷たい疑問符を投げたのは楠原である。
「だからさぁ、何もわかってないよね。あんた優等生ぶってるけど頭悪いわ。あのさ、西之原達の作戦がどうとか、クラスがこれからどうなるとか私達には関係ないわけ。あんたがさっき言ったみたいに私達は迷惑被ったわけだからさ、本当に謝る気があるなら頭ペコリじゃなくて土下座しろって言ってんの。えーと、なんて言うんだっけ? アレ、オトシマエつけろって話。一方的に謝ってスッキリされても困るんだよね」
どうやら楠原の意地の悪さは筋金入りらしい。
西之原が楠原を宥めようと口を開く前に、矢上が楠原の前に進み出る。
「もういいでしょう! 落とし前だなんてヤクザじゃあるまいし。大島さん謝ってるじゃん」
すると、楠原は頷きながら矢上を数秒見つめた後、おもむろに矢上の頬を張った。
パァン
乾いた音が教室内に響き、矢上の眼鏡が床に落ちる。満は一瞬何が起きたのか理解できなかった。
「はい「ゴメンナサイ」これでいいわけ? 何してもこれで許されるの? そんなのおかしいでしょ?」
矢上は楠原を睨みつけ、カッとなった西之原が楠原に掴みかかりそうになる。それを松村が慌てて抑えた。
「ごめんで済めば警察いらないよね。ねぇ、みんな」
楠原の唐突な行動に呆気にとられていたクラスメイト達も、楠原に問いかけられて「そうだ」と答えた。
「だからって本当に叩く必要ないでしょう!」
突っかかった矢上を楠原は軽く突き飛ばす。よろけて転びそうになった矢上を満が支えた。
「あんたらが私達の問題に首突っ込んでくるからでしょ? そういうのマジでウザいんだって。私達が大島達に何を思おうが何をしようが私達の勝手。あんたらがそれに口出しする権利ないでしょ? あんまウザいとあんたらから潰すよ?」
満はもうどうするのが正解であるのかわからなかった。
このまま大島達を庇い、楠原達と敵対するのが正解なのか。それとも楠原達の大島達への嫌がらせを見過ごすのか。そもそも里中への反抗が正しかったのか。様々な思考が満の脳内を巡る。しかし正解を導き出す事はできない。
ただただ今のこの状況が「イヤ」だった。
この数週間、色々思考し、勇気を振り絞り里中に反抗してきた結果が今の状況であるならば、最初から何もしなければ良かったのではないかとすら思った。
この状況で、満はあまりにも無力であった。
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