第40話
「塒に厄介な3種類がいなくて行幸だった。
もし混じっていたら、早く終わらせる事も出来なかったぜ」
戦闘処理を行っている召喚人達を眺めていたゴンザレスに近づきながら、
ナナシがそう 言った。
そのゴンザレスは若干具合が悪そうな表情を浮かべながら、右手を
自身の腹部に当てていた
向けていた視線の先では、『現世界』では一流ハリウッド俳優と称される
『貌』をした召喚人達が、むせ返るような血と硝煙の臭いが充満している中
転がっているゴブリンに対して、錆び付いた武器類を使って絶命している事の
確認をしていた
召喚人達が使っている錆び付いた武器類は、ゴブリンが所持していた モノだ
ある召喚人は頭部を何度も踏み潰し、ある召喚人はゴブリンの心臓に
剣を突き立て、ある召喚人は 頭部に銃床を振り落としていた
ゴブリンの死骸は、頭蓋が割れ脳漿が飛び散り、首や胴体が千切れて
内臓を撒き散らしているモノもいれば 原型を留めていないモノもいる。
そんな凄惨な状況下にもかかわらず、召喚人達は何食わぬ顔で淡々と
作業を行っていた
「―――討伐の証明部位の耳削ぎは?」
ゴンザレスはそう尋ねながら、ナナシの方へ視線を
向けた
「生存者を連れて帰るのが優先事項だ
面倒な削ぎ取りは50~60匹ほど」
ナナシはそう応えつつ、ゴンザレスの腹部へ視線を向けた
だが、 一瞥しただけでそれ以上は何も言わなかった。
「気にするな」
ゴンザレスは特に責めるような口調ではなく、淡々とした
口調でそう
そんなゴンザレスの態度にナナシは軽く肩を竦めてみせた
「確か削ぎ落したゴブリンの耳は、細かく潰して畑の
肥料にするんだったか」
ナナシは思い出したように真剣な表情を浮かべつつ、懐から小さな
革袋を取り出した
中に手を入れると、そこから小石大の黒い塊を指先で摘み
口の中へと放り込む。
それは『現世界』で流通しているのど飴だった
舐めるのではなく、舌の上で転がしている
「あと釣りの餌代わり及び重罪人の食事として提供しているらしいぞ」
ゴンザレスがそう説明すると、ナナシは一瞬目を剥く
「あのとても喰えたものじゃない、ゴブリンの肉を罪人に?」
ナナシは唖然とした表情を浮かべると、大袈裟なくらい目を丸くした。
「 『ゴブリンの狂軍』の後方から食糧が届かなった時、疲労と飢えを
凌ぐため緊急避難的に喰ったな」
少し顔を歪めながら、ゴンザレスがそう説明した。
その表情は、思い出したくない記憶でも思い出しているかのようだった
「 思い出したくもない!!
非常時ならばともかく、平時ならばあんなの誰も食わねえよ!?
泥水を啜ったり木の根っこを齧っている方がマシだ! 」
怒りを露わにしながらナナシは拳を握りしめつつ、吐き捨てる
「牢獄に繋がれている重罪人には、三食共にゴブリンの
糞不味い肉を食べさせているとか」
ゴンザレスは、どこか事務的な口調でそう応じる。
「あんなのNavy SEALsやSASの猛者や口の堅いテロリストでも、あの
糞不味さを味わったら絶対に 吐くぞ 」
嫌な事を思い出して、ナナシは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる
『ゴブリンの狂軍』時、ナナシ達がいたある防衛線で兵糧貯蔵庫群が
ゴブリン達の襲撃で焼き払わられた時の事だった
備蓄されていた糧食の大半が焼失するという大損害を受け、運の悪いことに
丁度ゴブリンの攻勢が激しくなり始めた頃と重なったため
ゴブリンの攻勢は勢いを増して行った。
結果、その後待っていたのは避難民と特別討伐軍合わせて約7万人近い
人々が、救援物資が届くまでの3週間、
ゴブリンの攻勢に怯えながら熾烈な飢餓に苦しむことになった
野山で自生している食べられる草木を探し、あるいは木の実を集め
食べられる野草など採取し、何とか飢餓状態だけでも凌ごうとしたが、 そんなモノだけで 3週間以上も持つわけがなかった。
避難民の中には幼児や乳児、そして体力が低下して乳幼児を
抱えられなくなっ た母親が、幼い子供と共に飢えに苦しみながら
日々の食料確保のため奔走していた。
路傍草や鼠や虫など動物はすでに捕食され食い尽くされ、人々は
極度の栄養失調状態に陥 っていた。
そしてついに飢餓と脱水により次々と出始めるともはや腹を満たす
食い物といえば、味はとても食べられたものじゃないくらいに酷い
ゴブリンの死骸から取れる肉くらいしかなかった
極度の栄養失調状態の人々は、腐乱して悪臭を放つ場所で配給される
ゴブリンの肉が混ざった言語に絶するゴブリンの肉が混ざったスープを必死で
啜った
のたうち廻るほどの激烈な不味さで、嘔吐するのを堪えつつ
黙々と啜るしかなかった
飢餓と脱水により次々に出始めるともはや腹を満たす食い物といえば、
味はとても 食べられたもんじゃないくらいに、酷いその肉くらいしかなかった
もし激烈な不味さなゴブリンの肉がなければ、人肉を食らう
凄惨な状況になっていただろう
ナナシ達も例外なく、ゴブリンの肉が混ざった配給スープを食したが
その味は、食べ物と称するにはあまりにも酷すぎた。
吐き気を催す様な不快感、生ごみよりも酷い味と臭いがした。
あまりの不味さに 思わず吐き出しそうになった
だがそれを何とか堪えられたのも、肉体や精神の根源たる エネルギーを
補給すべく酷い味だとしても、必死に啜っていた
避難民と特別討伐軍の存在があったからだ。
誰もが脂汗を流しながら、形容しがたい不味い配給スープを黙々と
咀嚼し飲み下す光景は、見るに堪えないほど酷かった。
幸いと言うべきが、ゴブリンの死骸は避難民と特別討伐軍の
胃袋を支えきれるほどの量 が存在していた
討伐軍の救援部隊や物資が届く三週間、延々とゴブリンの死骸を
食べ続ける 羽目になり、そのおかげで何とか飢餓状態と
脱水症状は乗り切ることができた。
しかし、その後の生活に深刻な影響が出てるほど精神にダメージを受けた
避難民は多く、中には精神に異常をきたし て しまう者もいた。
身体に何らかの影響が出る事はなかったが、ナナシ達ですらも少なくとも
平時では決して口にするのは憚られる
それほどの不味さのゴブリンの肉を三食提供される重罪人は、死刑宣告を
受けた事と等しい状態だ
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