短編、ボツ小説など

神無月燿

『Corolla』

第1話 勝利を望まれてない騎士

人歴856年──人が神と人とを繋ぎ止める鎖を切った年。


 「騎士アヴェイン。汝に、魔王討伐の任を任せる」


 第58代目ギルガルズ王は、一人の騎士に魔王討伐の任を課した。


 「はっ……魔王討伐の任承りました。必ずや魔王討伐を致します」

 「うむ……しかし、大変心苦しいが、いつ魔王が攻めてくるかわからぬ。故に、アヴェイン卿よ一人で行ってはくれぬか?」


 嘘っぱちだ。神が存在した時ですら魔王などの存在はなかった。

 第一本当に魔王がいるならば一人で行かせるはずがない。だからこれは自分への死刑宣告だ。


 「勿論、此方も全力で支援しよう。何か、必要な物があるなら遠慮なく申すがよい」

 「いえ、何もありません。そのお心だけで十分でございます」


 どうせ言ったって大した支援はしないだろう。

どこまでも自分を侮辱するこの王に対しての怒りで拳に力が入る。


 「うむ、そうか。では、すぐにでも向かってくれ」


 俺は、返事をして出口へと向かって歩いていく。出口に出る直後嘲笑が聞こえてきたような気がして握りしめた拳からは血が滴り落ちていった。



▷▷▷



 城を出てから何ヵ月たっただろうか。鬱蒼とした森の中を抜けて魔王城がある場所へ向かう。

 魔王城がある場所は、王から貰った地図に記されていた。その地図を頼りに魔王城に向かってひたすらに歩き続けていた。

 疲れたら休んでまた歩き出す。たまに、見かける兎を捕まえ皮を剥ぎ肉を干して干肉にしていく。

 そうしていくうちに気付けば魔王城に着いていた。見た目は、筒上で上まで高く続いていた。


 「ここが、魔王……城?」


 城というより監獄のように感じた。

 まさか本当にあるとは思っておらず驚いたのとちょっと王に申し訳なくなった。

 鉄の柵で入り口は封鎖しており、中から出られないようにしてあるみたいだった。

 俺は、その柵を手で力一杯に引っ張る。すると、難なく外れた。錆びていたのか鉄は脆くなっていたようだ。

 石造りで出来た入り口を潜った先には、階段が螺旋状に続いていた。少し疲れはあるが俺は登っていく。

 この先に、魔王がいる。

 王が恐れる魔王がいる。勿論、そんなもの信じてなどいない。

 ただ、どうして魔王討伐をたった一人でやれと命じたのかが分からなかった。本当に存在しているというなら軍隊を連れて討伐に向かうべきだ。それなのにたった1人でなんて無茶なことをいうのは気がかりだった。仮に自分への死刑宣告だとしてもいずれ来る魔王という厄災を放置するのはあまりにも傲慢である。だからこそ、この場所に訪れそれを確かめたかった。

 数時間たった頃、階段は終わり一つの扉を見つける。その扉も鎖や鉄の柵で封じられており何かを閉じ込めているようだった。


 「ふっ──!」


 腰に着けた剣で鎖と鉄の柵を切る。思っていた通り鎖と柵はスパッと切れた。

 扉に手をかけると中から声が聞こえた。


 「───誰?」


 綺麗な女性の声だった。

 扉を開けるのを躊躇していると中から再び女性の声が聞こえた。


 「入っては来ないのですか?」

 「───いや、入らせてもらう」


 扉を押すが扉が重くなかなか開かない。次は、体の体重を目一杯かけて扉を押し開ける。

 中にいたのはまるで絵画のように美しい女性だった。

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