第61話
信じられない麻貴の言動で驚くジョンに、札束を取り上げられて怒った男達が殴りかかった。
彼はArnys(アルニス)の上着を脱ぐ暇もなく、体のあちこちをしこたま殴られることとなった。ジョンは、殴られけ蹴られながら、赤子のように背を丸めて急所を庇った。すると、ジョンに群がる男達の背後から、麻貴が鉄パイプを持って彼の救出に乗り出す。
剣道の心得はなくとも、パイプを真剣のごとく扱う攻撃は、さすがに日本人の遺伝子がなせる業だ。麻貴の攻撃に、男たちは一瞬ひるむものの、今度はナイフを取り出し攻勢に出た。麻貴の鉄パイプを奪い、今度はジョンの代わりに麻貴を取り囲む。
しかしこの間が、ジョンを生き返らせた。彼は、足元に捨てられていた傘を右手に握ると、傘の柄を半身に構え「Prêts?(プレ/準備はいいか?)」と大声で叫んだ。
男たちが驚いて振り向くと、今度は「Oui.(ウィ/よし!)」と傘の柄を掲げてEn garde (オンガルド/フェンシングの基本姿勢)をとる。
男たちは一斉にジョンに襲い掛かる。ジョンは「Allez! (アレ/始め!)」の掛け声とともに、傘の柄を男達に突き立てた。
「Marchè!(マルシェ/1歩前進せよ!)」「Rompe!(ロンぺ/1歩後退せよ!)」「Riposte!(リポスト/カウンターの突きだ!)」「Flèche!(フレッシュ/捨て身の突きだ!)」と意味不明なフランス語を叫びながら、軽やかなステップで多彩な突きを繰り出す。
ナイフを弾き飛ばし、鋭い突きで男達の鎖骨を折っていく。やがて、麻貴も鉄パイプで参戦。男たちはたまらず三々五々に逃げ出し、そこには、袖口が破れ泥だらけのArnys(アルニス)を着たジョンと、鉄パイプを握りしめた麻貴だけが残った。
麻貴は、鉄パイプを地面に放り投げながら言った。
「あなた、いい仕事したわよ」
麻貴はジョンのスーツの泥を払い、先程奪った札束を、スーツの胸ポケットにねじ込む。
「とりあえずお礼は言っておくわ。ありがとう。それじゃ」
立ち去ろうとする麻貴に、ジョンは今度こそ逃がすまいと声をかける。
「もしよろしければ、ホテルまでお送りしますが…」
振り返った麻貴は、疑わしそうな目で彼を見た。
「まさか、あなたも白タクじゃないわよね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます