第4話 放課後


「はぁ……」


 授業終了とほぼ同時に俺は机に突っ伏していたが、コレは決して授業をまともにから……ではない。


「おい、またほぼ一日寝ていただろ」

「いやー、ハハハ」


「言っておくが褒めてねぇからな」

「ハハハ」


 腕を組み、呆れたようにため息をついている『相手』は部活の副部長だ。


「全く……。少しでも授業をまともに受ければ、それ相応にテストでも点数取れるだろ。お前なら」

「おっ? あの『怒れば怒るほど笑顔になる副部長様』からそんな事を言われるとは」


 部長が『坊ちゃん』だとすれば、副部長の彼は『優秀な補佐』の様な立ち位置だ。現に、部活での役割もそんな感じである。


「まぁいい。それより探し物は見つかったのか?」

「うっ……」


 どうやら部長から話を聞いたらしい。


「……その様子じゃ、見つかってねぇんだな」

「色々思い当たるところは見たんだけどな」


 家に教室、部室……最終的には下駄箱にまで探しに行ったが、見つかってはいない。


「はぁ……。まぁとりあえず、部室に行こう。話はその後だな」

「……」


 正直に言って「申し訳ない」と思った。自分自身の問題のはずが、まさかここまで大事になっているとは思ってもいなかったのだ。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「それで……何を失くしたんだ?」

「あ……えと」


 実は俺と副部長はクラスメイトである。


 つまり、俺が『体育』であれば当然彼も次の授業は『体育』だ。だから、俺が『何か』を失くした……と聞いてはいても、それが『何か』という詳しい話を聞く時間はなかった……という事だろう。


「家庭科の……テスト」

「……はっ?」


「え……」

「お前、家庭科って」


 この反応は驚きだ。普通であれば昼休みの部長の様な反応かもしくは「ふーん」と言ってたいては終わりだろう。


「…………」

「あっ、ちょうどよかった。実は言い損ねた事があってね」

「はい?」


「いや、実は」

「おい……」


 部長は申し訳なさそうな表情で……副部長はまた呆れた表情で……お互いほぼ同じタイミングで……。


「家庭科はテストミスで再試験になったはずだろ」

「家庭科はテストミスで再試験になったはずだ」


 そう言った。


「え……?」


「まぁ、お前はテストが返却されてものの五分も経たない内に寝ていたから、テストをもう一度集め直していた事なんて知らねぇだろうけどな」

「…………」

「すまない。もっと早く言うべきだ……とは思っていたのだが」


 部長はどうやら昼休みが終わった後、気が付いたらしく携帯電話もない上に、教室も遠く、仕方がなく「部活で会った時に言おう」と思ってくれていたらしい。


「えと、それってつまり……」

「うむ」

「そもそも家庭科のテストなんて手元になくて当然なんだよ」


 そこまで言われてようやく分かった……が、なかなか俺も間抜けだ。正直、笑うしかない。


「それはそうとして……」

「ん?」


「お前、どうするんだ?」

「え?」


「言っただろ? 再試験だって」

「うむ、実は再試験の詳細はそのテストを集め直した時に担当教師から説明されていたのだが……」

「……??」


 部長は申し訳なさそうに視線を泳がせている。


「お前、寝ていて範囲知らねぇだろ。しかも、テストは前回の授業の次……だから明日だぞ」

「えぇ!」

「むっ、無論。私で良ければ範囲や手伝いはするが……」


 こんな風に言ってくれるなんて……なんていい人だろうか。


「あんまり甘やかすな。今回は完全にこいつが悪い」

「ぐっ……」


 確かに、副部長の言う通りだ。今回の件は明らかに話を聞いていなかった『俺』が悪い。


「……とは言っても、同じ部活の仲間を留年されるのは俺としても避けたいところだし、俺の勉強にもなるしな」

「え……」


「はぁ、これに懲りてちゃんと授業中くらいは起きて人の話。聞けよ?」

「……ありがとう!」


 こうして、俺はなんとかその日のうちにテスト対策をし、翌日のテストで後日。無事に百点を出す事が出来、留年を免れることが出来たのだが……。


「ほんっとうに……これからはちゃんと人の話は聞こ」


 そう呟き、部長と副部長のスパルタ勉強会の凄まじさに思わず天をあおってしまうほどだ。


 おかげさまでそれ以降、俺の成績は伸び、赤点なんて見る影もなくなったのは……言うまでもない。

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