第ⅩⅤ話 Jack the Ripper at night.Ⅱ
初めはそれこそ、従順に調教して自分のものになってから殺していたはずだった。けれどそれが無駄に思えてきたのはいつのことか。
「目隠しをしてさ、裸にしてから何日だったと思う? もう、出せるものもないだろう?」
答えない人形は時々嬌声を叫びながら、びくびくと震えてはダラッと崩れ落ちる。
手つきも慣れたものでここを触ると反応するだとか、ここに触れると嬉しそうな声を出すだとか、経験のうちに分かっている。
けれど、それは目の前のモノを愛しているわけではなく。ただ食べるだけでも、ボクが殺すのに従順になってくれた方が殺しやすかっただけだった。
パブロフの犬の如く、ドアに鈴をくくりつけドアが開き鈴がなる音を聞くと発情するように仕向けたり、特定の匂いを充満させてその匂いを嗅ぐとよだれを垂れさせたりと色々実験をしてみた。
けれど、どれも退屈に永遠とは続かない。
虚しいもので、従順にさせるほどつまらなく感じるようになった。素直に従う子たちを、もっと酷く痛めつけてその顔を歪ませてみたい。
抵抗する顔が見たい。
「……ご、ご主人さま……?」
「あぁ、おはよう、今日はちょっと刺激的なことがしたくってね。どうだい、きっと楽しい時間を過ごせそうじゃないか」
もっと。もっと。もっと。
足りない。足りない。足りない。
「お腹の中をまず洗ってね。ざぶざぶよぉーく洗ってさ。内臓のゴミを全部洗い流してさ、そうしたらお尻から棒を差し込んでさ、大丈夫、先は丸くなってて内臓を傷つけないようにしてあるし中から体を突き破るなんてヘマはしない。ただ、真ん中の空洞に差し込んでいくだけ。いつも受け入れてるものよりも細いんだから入るさ。グリグリ差し込んで腸から胃へ、胃から食道まで通して、口から出せば、ほら。ふふん、串の完成さ。今日は串焼きが食べたい気分でね。もうすっかり慣れたでしょ? 棒の一本や二本、すっかり飲み込んでおくれよ? あぁ、良い子良い子。あはっ。卑しい。ほんと醜いよ。うんうん、ボクが君をこんな風にしたんだ。うん、君はとっても良い子だった。楽しかったよ。でもそろそろ、君を食べてみたい。美味しく焼けてくれるだろう? ……ほら、泣きなよ。生きたまま焼いてあげるんだからさ。君の淫らな悲鳴も、スパイスになってくれるさ」
リンリン、と鈴を鳴らす。そう教え込んだ。
何日も何日もかけて教え込んだ。脳の中枢を壊して、ボクだけの奴隷にして。
楽しかったさ。
けれど、もう君は用済みだ。
「苦しい? ……あぁ、いいよ、凄くいい。君は本当にいい子」
いつからかボクはもっと求めるようになった。
足らない。まだ足らない。
飢えを凌げる何かを。
足りない、もっと欲しい。欲しい。欲しい。
「かぼちゃちゃん」
そして、今、その何かをくれそうな女の子を捕まえた。逃げようとする手足は、杭で打たれた血で滲んでいる。声は弱々しく。おそらく、相当痛いのだろう。
足の筋は切った。確か人間はここの筋を切ると足が動かなくなるはずだ。
苦痛に歪む声は、はぁはぁと荒い。
ボクはその苦しみを理解できない。ボクは、同じ目に遭ったことがないからだ。共感なんて?
可哀想? 苦しい? 痛い?
分からない、けれど、その歪む顔は好きだ。
「逃して!」
「ダメだよ、かぼちゃちゃん。君は今からボクに殺される。けれど、条件をあげよう。苦しんで死ぬか、ボクに飼われるか。飼われるなら、殺さないでしばらくは生かしてあげよう。けれど苦しんで死ぬならじっくり苦しませて殺そう。君が抵抗すればするほどボクは楽しい。君は僕を説得したいんだろう?それは無理な話ささ。ここはねぇ、ボクのお屋敷。ボクが支配者だ。君はボクの屋敷に迷い込んだ哀れな子羊。そうだろう? 神に祈ってもここに神はいない。ほら、たんと祈ってごらんよ、神の言葉を並び立てても、ボクには届かないよ。……あぁ、いい。その顔が見たかったんだ」
ザワザワと胸の高鳴りを感じる。全身が心臓になったようにバクバクと自分が自分自身を苦しめる。
けれどこの苦しみは滾る。
興奮と、快楽と、嗜虐心が同時に脳を刺激する。
ああ、楽しい。愉しい、娯しい。
これ以上楽しい事があるだろうか。
「ねぇ、かぼちゃちゃん」
ボクの声にビクッと肩を震わせる少女にそっと触れて、その怯え切った顔を眺めるこの瞬間のために、ボクはこの屋敷で女の子を夜な夜な襲っている。
「いや、やめっ、やめて」
強気でボクを向かっていた子たちが、弱々しく怯え切って子猫のように震えボクに懇願する。
助けて、って。
助けなんてくるはずがない。
そんなこと知ってるだろう?
「ほら、選びなさい」
ほら、最後のチャンスさ。
「ここで苦しんで死ぬ? それとも、ボクに飼われてボクの実験台になってしばらく生きながらえさせられてそして死ぬ?」
後者を選んで欲しいな、とちょっとだけ考えて選択肢を与える。ボクは飼いたいのだ。すぐ殺すなんてもったいない。
存分に遊んでから殺してあげたい。
「さぁ、選んでよ」
ねぇ、早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。
早く。
「ほら、早く」
ボクは今すぐ、おもちゃで遊びたいのだ。
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