第Ⅺ夜 Reden wir, das hört nie auf.

 グレーテルは魔女を騙した

 グレーテルは魔女を竃の中に押し込んだ

 グレーテルは魔女を閉じ込めて

 グレーテルは魔女を丸焼きにした


 最後はヘンゼルとお家に帰って、お父さんと幸せに暮らしましたとさ――。


 けれどそれは、ハッピーエンド?

 誰も彼も本当のことなんて知らないのに。

 グレーテルは本当に家に帰ったの?

 それは、結局フェアリーテール。


 誰かが作った作り噺。



 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●



 ボクは何のために人を食べる?

 ボクは何のために人を食べる?

 ボクは何のために人を食べる?

 きっと、その問いに答えは無いさ。

 目の前にいるから食べる。

 生きているから呼吸をするのと同じこと。

 ねぇ、君は、何のために食べるのか?

 どうしてボクは悪で、君は善なのか?

 同じことじゃないの?

 どうして?

 君だってお肉を食べるじゃないか。

 この、赤く滴る血肉をね。

 狂ってると誰かが言った。

 あぁ、君にとってはね。

 ボクは狂っちゃいないさ。

 きっと、ボクは普通。

 ボクは普通なんだ。

 ボクは壊れてないよ。

 あぁ、君には分からないさ。

 ねぇ。

 どうしてボクがおかしいと?

 君はどうしてそう思う?

 一から十まで説明してみせて。

 全て全てボクに話してごらんよ。

 ボクは君を審査しよう。

 ふうん、君が言うことはわかるよ。

 正しいのかもしれないね。

 けれどそれは、性善説さ。

 人間なんてみんなそう。

 正しいことを信じ込むのさ。

 それが本心から正しいと思ってないのに。

 世間一般論を信じてる。

 ボクにはわかるよ。

 本当は君自身も半信半疑だって。

 人は、与えられたものを信じる。

 それが正しいと信じている。

 けれど、本当にそうかい?

 だって、ボクを否定できないじゃない。

 どうして否定できる?

 人は何かを食べなければ生きられない。

 ベジタリアンも野菜を食べるのさ。

 人は食べなければ生きていけない。

 ボクも人を食べなければ生きていけない。

 同じことさ。

 ……同じさ。

 君がおかしくなってきたのなら。

 ボクの胎内に収まってはくれないか。

 もううんざりしてるだろ?

 お腹が空いたんだ。

 君も空いてきただろう。

 ミンチにしてハンバーグにしたい。

 塩と胡椒、どちらもかけよう。

 美味しくなければ料理ではない。

 肉だって、美味しく食べられたいさ。

 命を頂くんだからね。

 きっとそれは、人間らしい欲望さ。

 きっとボクはおかしくない。

 おかしくなんかないさ。

 おかしいのは君だろう?

 君がおかしいのさ。


 きっと……、ね。












 そうきっと、ボクが壊れてるのさ。

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