第9話 レイヴンとの邂逅(破)
自宅から馬車で2時間ほどの距離にレイヴン氏の鍛冶工房がある。
御者にその場所を伝えると少し苦い顔をしながら、彼は言った。
「本当にお嬢ちゃんがレイヴンのとこに会いにいくのかい?」
「お嬢ちゃんはどうかと思いますが?」
すこし、
これでも私は立派な17歳である。
「これは失礼、でもその若さでレイヴンに会おうとする人を初めて見たんでね。」
「あら、御者さんはレイヴンさんをご存知なんですか?」
「噂だよ。とにかく人嫌いで有名でな。工房に閉じこもってるかと思いきや、ふらりと山へ潜って。また、工房に閉じこもる。
山で何してるのか知らないが、みんな変人だって言ってるよ。」
山で何しているのか誰も知らない。それって、山に何かを隠している?
いやいや、発想が飛躍しすぎだ。そもそも私は、シンドラー先生の話を鵜呑みにしているわけでもない。ただ、そこに秘匿された誰も知らない魔法があるとしたら…、
「それじゃ、出発するよ。なあに、道中はモンスターも出ない野っ原だ。すこし退屈すぎるかも知れないがね。」
「かまいませんよ。お願いします。」
「ほいきた。」
そう言って御者は馬に鞭を鳴らす。ガラガラと車輪がゆっくり回りだし、長い旅が始まる。
街を出て1時間半。ずいぶんと遠くへ来たが、なるほど確かに何も無い野原が続いていた。道中では何台かの馬車ともすれ違い、御者からここは「マシロ街道」であるということを聞いた。
聖ヨシュア学園や自宅のある学術都市「グレゴリア」から、隣町の商売都市「アビスシティ」を結ぶ主要道路となり、馬車の行き来も頻繁であるということだ。
そういえば、グレゴリアの町から外へ出るということもこれまであまりなく、町の外に出たとしても学園の実技演習で近場の「ウィルの森」に行った程度だ。本格的な遠出はこれが初めてなんだなぁ、となぜか感慨に耽っていた。
「さて、こっからレイヴンとこに行くには街道を外れて、少し道の悪い小道を通るぜ。そら!」
御者がそういった瞬間、馬車はこれまでよりガタガタと大きく揺れ始め、あまり整備されていない道を走り出した。
「なあに、30分ほどの辛抱だ。ケツが痛いかもしれんが、ちっとばっかし我慢な!」
あと、30分でレイヴン氏の鍛冶工房に到着する。少し緊張してきたかもしれない。私は道の悪さなど気にしている場合ではなかった。
街道を外れ、大きく揺れる馬車に乗って20分ほど。レイヴン氏の工房まであと少しというところで、それは起きた。そう、奴が眠りから覚めたのだ。
「「ドゴォーン」」
不意に馬車の外から大きな地鳴りが聞こえた。なにか、地面の下から爆発したような音だった。私は一目散に御者に問う。
「何があったんですか!?」
「あれは、まずい…。ゴーレムだ!!鉢合わせするぞ!!」
「ゴーレムですって!?」
そうして振り向いた先には、体長3メートルほどの大きなゴーレムがそびえ立っていた。ゴーレムとは、金属や岩石などで体が構成されている人型のモンスターで、たびたび、冒険家を苦しめる存在だ。なにより、その硬い体には魔術が効きづらく、魔術師単体で相手をするには苦戦を強いられる。私たちの前に現れたのは、岩石タイプ:準大型ゴーレムだった。
「お嬢ちゃん魔術師だろ!?なんとかできねぇのか!?」
「む、無理です!私の魔法じゃ、あのゴーレムには弾かれてしまいます!」
「なんてこった。このままじゃ、ここで終わりだぞ!」
「そんなこと!」
言われても!と続けようとしたときには遅かった。言い争いをしている場合ではなかったのだ。馬車の上に大きな影が覆った。
頭上にはゴーレムの足…、踏み潰される!と思ったその時、間一髪御者が機転を利かし、進行方向を無理やり変えることで直撃は免れた。
しかし、不運は続く。無理な操縦とゴーレムの踏み潰しの衝撃で、私は馬車から投げ出されてしまったのだ。
「いったた。…えっ!?」
しかも、投げ出された場所が不運なことに、馬車と私はゴーレムによって分断されてしまった。
「お嬢ちゃん!」
「いいです!行ってください!私は逃げますので、誰かに助けを!」
もちろん、こんな状況から助けを求めたところで間に合うはずが無いのはお互い分かっていた。それよりも、ゴーレムの注意が私に向いている分、馬車には逃げてもらったほうが被害は少なくて済む…。なんとも合理的な私の考え方だった。
もちろん、私もタダでやられるつもりはない。一緒に投げ出された荷物の中から簡易の杖を出し、詠唱を始める。詠唱に時間はかけられず、簡易の杖なので高威力の魔法は発動できない。それなら、
「ファイアボール!」
最も詠唱が短く済む初等魔法をゴーレムの顔めがけて放つ。少しでも目くらましになれば、という私の思惑であったがそれはもろくも崩れ去る。
「ぜんぜん…、効いてない…。」
ゴーレムは私の
「…ごめん、お父さんお母さん。ごめん、サーシャ。」
私の最期はここなんだ。と、覚悟を決めた。そのときだった。
「阿呆が。ゴーレムに炎が効くわけあるまい。打つならせめて
いつの間にか、剣を担いだ男性が私の背後に立っていた。
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