第4回 不動産会社社員
土地があって、ヒトが住むところには、当然ながら家ができる。大手不動産会社に勤務しているスズキさんは、その家を紹介することを生業にして生きている。
「僕達にとって家というのは、優しさや温かさを提供してくれる、安心できる素敵な場所であるべきだと思うんです。環境の違いはあれど、フレンズにとってもそれは同じことだと思いました」彼もまた、かつてパークを内側から支えていたヒトの一人だ。
・「巣/縄張り」と「家」
動物は食料確保や子育てなどのために巣を作ったり、縄張りを持ったりする。勿論すべての動物が縄張りや巣を持つわけではないが、多くの種に見られる習性であるため、フレンズ化した際にも巣/縄張りの概念は一般的に理解されていた。しかし、ヒトの住む家は風雨をしのぐ、身の安全を確保するといった生存のためだけのものではない。家族の団欒の場でもあれば、生活を充実させるための場でもある。動物がヒトの形をとることによって、「住む」という行為に新たな意味が生まれたのだ。
パーク運営当時も、ヒトの文化の影響を受けて家を持つフレンズも多く存在していた。
・ヒトの、フレンズの住居事情
離島とは言え一大都市として栄えていた旧・新西之島市(現・小笠原村新西之島)では、ジャパリパークの運営に関わっていた職員が非常に沢山いたため、ヒトの住居の出入りも激しかった、とスズキさんは語る。「特に春先の年度が替わる時は、パーク内の支店から本州に異動する方、逆に向こうからやってくる方が多くて、忙しかったですね。本土の年度末と何も変わりません」
一方、フレンズの転居は特定の時期に集中することはなく、ヒトほど激しい出入りもなかった。フレンズが独立して生活するためにはスクールを卒業して得られる「一般アニマルガール許可証」が必要で、それを持たないフレンズは飼育員との同居が原則とされていたことや、あるいは許可証を持っていても家を持たずに動物の頃と同じ縄張りで暮らすフレンズも一定数いたことが主な要因である。
フレンズ向けの住居の種類は、最低限の設備のついた無料アパートから自然環境を再現した高級住宅まで多岐に渡っており、フレンズがそれぞれ自分に合わせて選べるようになっていた。
・家を紹介する仕事
かつてパーク内の支店に勤務していたころのスズキさんの仕事は、多様なフレンズに家を紹介することであった。フレンズによって適した環境は異なる。それに合った住まいを見繕うことが大事だ。
「日光が当たりにくい、防音設備がある、爪研ぎOK、海が近い。習性とか特徴とか、そういったものを考慮してこちらから候補を提案していました。どういう条件だと過ごしやすいのか僕だけでは分からないことも沢山あって、担当の飼育員さんや、ガイドさんによく相談していました」そう言って彼が見せてくれた古い名刺入れには、フレンズのために働く人々の名刺が沢山詰まっていた。
「フレンズさんに直接色々教えてもらったこともありました。アリツカゲラさん、というフレンズが同じ職場で働いていて、昼休みになると動物の住処についてよく解説してくれました。僕は逆に事務作業をお手伝いしたりして、一種の協力関係でしたね」
・昔取った杵柄
専門家の意見を取り入れ、自分の仕事と組み合わせる。スズキさんがパークで学んだことは現在の仕事にも受け継がれており、彼は現在、介護士やケアマネージャー、医師と連携した高齢者向けアパートの企画を進めている。
「働くヒト、庭に穴を掘りたいフレンズ、全然違う種同士のルームシェア、本当に色々なお客様がいました。場所の違いはあれど、ヒトの社会にとってもそれは同じことだと思っています。多様な背景を持つお客様に素敵な家を提供できるように、これからも頑張っていきたいです」
パンパンに膨れた名刺入れを握りしめた彼の誇らしげな目は、これからも良い家を見繕ってくれるだろう。
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