第126話≪尾てい骨骨折・6≫

新・ここは世田谷豪徳寺・29(さくら編)

≪尾てい骨骨折・6≫





「放送局が取材の申し込みに来てるんだけど、どうする?」


 朝礼のあとに担任の水野亜紀先生に、小さなな声で聞かれた。


「え、うそ!?」


 デカイ返事というかリアクションになってしまった。


 一時間目の準備をしていたクラスのみんなが聞き耳頭巾になってしまった。


 ただの放送局なら、たとえテレビ東京でもフジテレビでも断った。


「……分かりました」


 そう答えたのは、うちの理事長が会長を務めている帝都テレビだからだ。先生の顔にも――断らないで――と書いてあった。


「すごいよ、さくら。アクセス2万超えてるよ!」


 先生が機嫌よく教室を出て行ったあと、恵里奈がスマホを見せた。


「え、夕べは1000だったんだよ」

「いつの夕べよ。わたしが寝る前は1万近くにいってたわよ!」


 宵っ張りのマクサが言うと、みんながスマホでYouTubeを検索し始めた……。


 取材は四時間目の数学から始まった。数学の沢野先生とは尾てい骨の一件から微妙な関係なので、渡りに船ではある。


「今日は、昨日からYouTubeで怒涛の3万件(朝から1万件増えてる)のアクセスを取っている『ゴンドラの唄 桜』を歌っている佐倉さくらさんがいる帝都女学院の2年A組からお送りしております。A組の皆さんでーす!」


 ウワーーー!!


 カメラがパンして教室をナメる。普段お嬢様学校で通っている帝都も、こういう状況では、ただのミーハーだ。双子の兄を亡くしたばかりの由美が元気そうなのは嬉しいけど、あたしは尾てい骨を庇いながら小さくなっていた。


 どうしよう、今日は勝負パンツじゃないのにい!


 MCは、局アナではあるけど、人気があって最近独立の噂がある二階堂健太だ。当然クラスのみんなもファンが多いし、また女子高生の興味をひくツボをよく心得ている。


「いやあ、昨日ってか、ほんの12時間前にはただの女子高生だった佐倉さくらさんが、たった一晩でYouTubeのスターになっちゃった。ほんの半日でアクセス3万……え、今3・5万。すごいね、これプロでCDの売り上げだったら、レコード大賞間違いなしだね。いったい、どういうつっかけ、いや、きっかけで……?」


 上手い誘導にひっかかって、いきさつのほとんどを喋らされた。


「そうなんだ。不思議な縁だよねお彼岸にひいお祖母さんの夢を見て、音楽のテストで無意識に歌ってたなんてね。そいで校長先生のお母さんがお知りになって、動画でアップされて……なんか因縁めいたものを感じるんだけど、佐倉さん、今までは普通に歌えるだけって言っちゃ失礼なんだけど、それが突然でしょ。映画やテレビとかだったら、例えばひいお祖母ちゃんが憑依するっていっても、なんかきっかけあるよね。なんか特別なものを食べたり、衝撃的な出来事にあったり……」


 そのとき席を変わって、あたしの後ろに来ていた恵里奈が、あたしの尾てい骨をシャーペンでつついた。


「ウグ……ッ!!」

「あ、どうしたさくらちゃん?」


 親しみのこもった二階堂アナの声に、みんながクスクス笑う。


「さくらは、尾てい骨骨折してますねん!」


 恵里奈がただでさえ目立つ大阪弁の大声で、公共の電波でバラシてしまった。


「ひいお祖母ちゃんと尾てい骨骨折。これは決まりだ。今年の都市伝説大賞! あったらあげたいね」


 アハハハハハハ


 またクラスが大爆笑になった。


 そのあとの終礼は、あたしだけ免除されて音楽室へ。もうそこは音声さんや照明さんがスタンバイ。美音先生がピアノで前奏を弾き始めだした。


 あたしは、てっきり収録かと思っていたら、土曜の昼バラの生中継だった。帰り道、そんなに多くはいなかったけど、あたしのことを見てヒソヒソ言ってるオバサンたちがいた。まあ、YouTubeでは顔が出てるんだから、こんなもんかと思ったが、豪徳寺の駅前で出会った四ノ宮クンの一言が決定打だった。


「よう、昼の中継とってもよかった。商店街のスターだぜ!」


 大きな声に、アーケードの前後五十メートルくらいにいる人たちが注目する!


 あたしは、裏路地をひろうようにして家に帰った。

 

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