第76話『S駐屯地の非常事態』

ここは世田谷豪徳寺 76(さつき編)


『S駐屯地の非常事態』





「申し訳ありませんが、今日は駐屯地から出ないでください」


 いつも冷静な柿崎一曹が慌てて言うと、すぐ部屋を出ていった。


 理由は分かっている。C国が日本に宣戦布告してきたのだ。佐世保沖に現れたC国の艦隊と自衛艦が戦闘、日本側の一方的な勝利に終わったからだ。


 戦闘の理由は、C国艦隊が日本の再三の警告にもかかわらず領海侵犯しかけた。それもS諸島のような最果ての島ではなく、自衛隊やアメリカ海軍の基地がある佐世保にである。C国は射撃管制レーダーを照射するだけでなく、自衛艦艦隊に主砲の砲口を向けた。

 これは、人間に例えると、拳を上げた状態ではなく、顔面目がけて振り下ろした状態と言っていい。二か国を除いて世界中が、日本の個別的自衛権の行使の正当性を認めた。なんせ戦闘そのものが日本の領海内で行われている。C国は、これも自衛隊によって領海内に誘われて戦闘になったと強弁しているが、これを鵜呑みにするのは世界中に二か国だけでしかない。


 C国政府も、宣戦布告はしてみたものの、こんな無茶な状況で、自分の海軍が戦闘を起こしたとは思っていなかったようである。要は軍の独走による日本への挑発が度を越したのである。

 抑留されたC国の司令も「威嚇しつつ領海に入る寸前で引き返すつもりだった」と供述している。衛星写真の解析を見るまでもなく、佐世保沖十数キロで行われた海戦は、米軍、自衛隊にとどまらず、何万という単位のスマホやマスコミのビデオに撮られている。子供が見てもC国が言い訳できる状況ではなかった。


 しかし、宣戦布告されたのであるから戦争状態であることには変わりはない。あたしが居るS駐屯地も、マニュアル通りの警戒態勢をとっている。



「しかし、なんかチグハグですね」


 やっと昼前に部屋から解放されて、食堂でお昼を食べながら柿崎さんに聞いた。


「え、なにが?」


「C国からは宣戦布告されたのに日本はしないんですね」


「やったら、本物の戦争になっちゃう」


「え、戦争しないんですか?」


 あたしは、お味噌汁が横っちょに入ってむせかえりそうになった。


「C国には何千という日本の企業と何万という日本人がいるのよ。その人たちの身を守るためにも戦争はできない。それに憲法が宣戦布告を認めていないわ」


 食堂のテレビでは、C国に在留邦人の保護を求めていること、在日C国人の保護、C国への渡航禁止を政府が発表していた。


「あたしたちも、在阪のC国人の保護準備の命令が出てるの」


「そこまでやるんですか!?」


「ああ、日本は平和憲法の国だからね」


 そう言いながらかつ丼を乗せたトレーをテーブルに置いて前に座った人がいた。


「タ、タクミ君……!」


 目の前に座ったのは、東京にいるはずのタクミ・レオタール三曹だった……どうして!?

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