第46話《コクーン・3》
ここは世田谷豪徳寺・46(さつき編)
《コクーン・3》
隣の席から声がかかった。なんと陸自のレオタード君がシート脇の通路に立ってニコニコしている!
「え、どうしてレオタード君が?」
「仕事だよ。幹部の通訳で付いていくんだ。一佐、お席はこちらです」
CAのオネエサンと話していた制服のエライサンがこちらにやってきた。
「おや、このお嬢さんは、君の知り合いの方かい?」
一佐の階級章を付けたエライサンがにこやかに聞いた。
「自分が渋谷で事故を起こしたときの相手の方です」
「ああ、あのときの……その折りは、ご迷惑をかけました。また、しっかりした対応をしていただきましたので、部隊としても大変助かりました。申し遅れました、連隊長の小林です」
「小林イッサ……ですか」
世界の常識で言えば小林大佐なんだけど、自衛隊独特の呼称がユーモアを呼ぶ。
シートベルトを外すころには、三人の会話はいっそうフレンドリーになっていた。
「ほう、お兄さんは『あかぎ』に乗っておられるのですか」
「はい、砲雷科で班長やってます。こないだはレオタード……レオタールさんに来ていただいて兄も喜んでいました」
「あれが、新聞と動画サイトに出たことが、今回のことを円満に解決してくれました。お兄さんにお礼を言っておいてください」
「言い出したのは父なんです。昔は兄が防衛大学に入るのにも反対してた人なんですけど」
「自分も一度お目に掛かりましたが、とてもご理解のあるお父さんでした」
「わたしのフランス留学には反対なんですけど。なんてのか、心で反対、頭では賛成なんです」
「それが、親心というもんでしょう。わたしにも娘がいますが、素直には賛成しないでしょうね」
「けっきょく、コクーンなんです」
このコクーンという言葉に小林一佐も、レオタード君も積極的に反応してくれた。
「家庭がコクーンだという発想は正しいと思うな。コクーンに居る限り身の安全は保証されるけど、コクーンの中に居る限り成虫にはなれないもんね」
「だからレオタールは、コクーンを飛び出すために、アメリカの大学に行ったり、北海道で牛の世話とかしていたんだな」
「サンダースは、そこまでご存じだったんですか?」
「ああ、新入隊員の人事標は全部目を通すからね。君のは特に面白くて印象に残っているんだ」
「あの、サンダースってのは……懐かしの『コンバット』なら、軍曹だと思うんですが?」
「ああ、ケンタッキーの方ですよ」
「え、カーネルサンダース……ですか?」
「あれ、サンダース大佐って意味。なんか、一定の雰囲気になると、うちではサンダースって言うんだ」
「私服のときなど、業界用語ははばかられる場合もありますからね」
「他の部隊じゃ、オヤジとか言うんだけどね。なんか普通で面白くないじゃない」
「あ、これ、レオタード君が考えたんでしょ!?」
「あ、その、変なことは、みんなボクみたいな言い方は止してくれる」
「ハハ、うちの娘ですよ。二佐の時に『今度進級したら小林イッサになっちゃう。イメージ壊れるから、他のにする』で、サンダース。これをある幹部に話したら機密保持ができんやつで、いつのまにか部隊中に広まりましてね」
「ハハ、面白い娘さんですね」
「いや、あなたもなかなかのものだ。フランスにいったらがんばってください」
「はい」
「で、気が変わったら、いつでも自衛隊に。ま、自衛隊も有る意味コクーンかもしれませんがね」
「サンダース。それは本人の心の持ちようだと思いますが」
「ハハ、そういうとこで突然真っ直ぐになるのも、レオタールのいいとこだ」
「え、ええ、そうですか?」
レオタード君は、わたしでも分かるコクーンとしての自衛隊の意味が分かっていない。こういうボケたところが、なんとも若者としてはおもしろい。自衛隊員としては……小林一佐の前なので、あたしは言うのを控えた。
それは、シャルルドゴール空港に着く一時間ほど前のことだった。
「どなたか、ジェット旅客機の操縦が出来る方はおられませんか!?」
機内放送が、日本語、英語、フランス語で、喋り始めた……。
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