第21話
こうして五月が過ぎ去ろうとしていたある日。隼人は意気揚々と集まった全員を前に“吉報”を持ってきた。
「いいかみんな!今日はみんなにいい知らせを持ってきたぞ!」
『いい知らせ?!』
ざわつく一同。隼人がこう言って持ってきた知らせは、今のところハズレがなかったので、ほぼ全員が期待の色をありありと見せる。
「何とぉ!練習試合取り付けてきました!」
『おお~~!!』
隼人が満面の笑顔で報告したのは練習試合。そして驚きと共に色めき立つ一同。今まで内々での練習ばかりで自分たちの力がどのくらいなのか試して見たくなっていた頃だった。
「それで隼人、相手はどこなの?」
純の半ば斜め構えたような問いに、隼人は笑って答えた。
「相手は鹿児島のユーライアス学園だ!」
『鹿児島!!』
「やった!鹿児島まで遠征だお!」
「でも飛行機ならあっという間だけどね」
その地名に反応して喜んだのは正規部員以外のほぼ全員。皆、今度は鹿児島に行けることを純粋に喜んでいたのだが……。
ユーライアス学園という校名に反応して顔を険しくしたのは純。鉄也はポーカーフェイスを崩さず、尚江は、まあそうなるかぁとこくこくと頷き、紗菜は右手の人差し指を頬に当てて何かを思い出そうとしていた。
「まぁ、できたてのうちにわざわざ練習試合組んでくれるのってあそこぐらいだったのは理解できるけど……」
溜息交じりの純の様子を見て、非正規の部員たちも若干名が何かを察したようだった。
「笹井委員長、その学校のこと知ってるんですか?」
「そうね。知り合いがいるし、大会で戦った事はあるんだけど」
幕末の薩英戦争を切欠にイギリスに急接近した薩摩藩。西南戦争後に設立されたのが、今回練習試合を組ませてもらったユーライアス学園である。
設立時は男子校だったが今から約三十年前に共学化しており、近年ようやく男女比率も均等化しているという。
「お兄ちゃん、あそこってたしか使ってる機体もイギリス系で統一されてるんだね」
「ああ。あそこは伝統的にイギリスとの交流が深かったから、英国系の航空機で統一されているんだ」
航空戦競技は使用する機体の製造国を統一している事が多い。その方が誤認を避けやすく、また訓練やメンテナンスが容易になるからだ。雁の巣のように雑多な機体を配備している学校はあまり多くない。
「というわけでみんな!学校から許可は出てるから、前日に現地に乗り込むぞ!」
『おお~~!!』
今回の移動は試合に使う機体で直接乗り付ける。福岡から鹿児島までのフライトだ。
「紗菜、今回の移動だけど」
「はい」
「このルートを予定しているけど大丈夫か?」
紗菜の実家は熊本の阿蘇近郊なので上空を飛ぶことも有り得た。
「気にしないで下さい。家は見えてもお互い顔までは見えませんから」
こうして試合前日から、練習試合が行われる鹿児島まで飛行機で移動となった。
「わかってると思うけど、移動も練習のうちだからな!」
今回は陸伝いコースなので迷う危険は少ないので先導を園芸部と紗菜の九九式双軽爆に任せた。
(私の家、見えちゃうのかな……)
「宗家、どうなされました?」
「いえ、何でも」
熊本市内。紗菜の母、亜紗美は偶然見上げた空に小型機の編隊を見つけていたのだ。
移動は順調であった。まだ完全にV字編隊を組めているわけではないが、特にトラブルもなく雁たちは目的地の鹿児島ユーライアスの飛行場に到着した。
「色々あるからオレが最初に降りる」
隼人は車輪を展開して悠々と着陸。誘導員の指示に従って飛行機を誘導させると、他の部員たちも後に続いた。
「ほう。本当に予定通りに来たか」
その様子を悠然と見つめている体の幹ががっしりした長髪の人物。やがて隼人の姿を認めると、重々しいオーラを放ちながら木刀を持ってにじりよっていく。
「チェストォォォ!!」
「!!」
一定の距離に届いた瞬間、木刀を大きく振りかぶって影が飛んだ。隼人は敏感にそれを察し、腰に差していた脇差ほどの短い木刀を抜き放って、その一撃を受け流した。
「フン!」
「姐さん、相変わらずだな。伊達に暴風の二つ名は通ってないわけだ」
「うぜらし!!」
突然の襲撃に騒然となる雁の巣の面々。しかし当事者同士は不敵に笑い合っていた。
「このチーム、半年足らずでお前が一から作ったのか」
「ああ。身内以外はみんな初心者揃いだよ」
「なるほど。来れただけでも褒めてやろう」
見るからに豪胆。正に虎のような肉食獣の如き威容の女傑が、現在のユーライアス学園の航空戦競技部の部長を務める野分風華である。
(何か凄いね……)
(とても同じ年代には見えないよ……)
ユーライアスが英国系と聞いて上品なお嬢様系を想像していた面々は思い切り面食らっていたが、以前から知っていた者たちは想定内だという顔をしていた。
ユーライアスは設立時から鹿児島伝統の郷中教育と英国のパブリックスクールを融合させている事で関係者に知られている。
全寮制で学課はもちろん男女問わず早朝から薩摩示現流の稽古が行われるなど、他県ではまず見られない独特の教育方針で貫かれており、一部からは薩摩と英国の悪魔合体とさえ評されていた。
このような環境で教育を受けた生徒たち、特に運動系はかなりの数のスポーツで全国大会上位に食い込む常連だが、その荒々しさから“鬼薩摩”はまだしも“薩摩の狂犬”とまで評されるほど。
そんな獰猛な猛者揃いのユーライアスだが、野分は他の生徒とは全く異なる次元の圧倒的な威圧感を放っていた。
校内では誰も口にしないが、その気性と空戦での戦法、さらに指揮官として採用する戦術の荒々しさから彼女は全国的に“暴風華”や彼女の愛機に掛けて“嵐(テンペスト)”と呼ばれていたのだ。
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