#4-1 仕組みを知った
ここは不思議な世界だ。地面に仰向けになり空を見ながらそう思った。
この世界での生活もそろそろ一ヶ月が経つ。その間にあったことと言えば、訓練、
訓練、訓練の三拍子で、毎日ベッドに入ると一瞬で眠れてしまう程充実していた。おかげで体中は筋肉痛を起こし、痣が所々あったりと以前ではあり得ないこととなっている。
しかし悪いことばかりではない。
この訓練のおかげで高校のころと同じぐらいの筋肉量に戻った。編集は一日中座りPCと睨めっこをするため、自然と筋肉が衰えてしまうのだ。発達するのはキーボードを叩く指先の強さだけである。おかげで幾つものキーボードを壊してしまっていた。
あとは姿勢が良くなり前よりも目線が高くなったように思える。猫背気味だったのが矯正されたおかげ肩こりも無くなり、怪我とかがなければ健康そのものである。
だからだろうか……地球と、日本とあまり変わらないと思う部分がある。なんせ日本語でアークさんと話しているし……あれ。そういえばどうして会話ができるのだろうか?
仕事でやった作品だと不思議な力を使ってもらい、言葉を交わせるようになったり、道具を身に付けることで可能になることが多かった。
では自分はどうだろうか。初めて会ったあの部屋ではアークさんが「失敗した」と言っていた。それが分かるということは、呼び出された瞬間に何かしらの力が備わったのかもしれない。
……もしかして翻訳がギフトだろうか。それはそれで良いとも思えるのだが、アークさんに聞いた救世主の力とは離れている気がする。これはまさに失敗なのではないだろうか?
「もう立てない……訳ではなさそうですね。どうしました?」
「えっと、ギフトについて考えてたんですが……僕のギフトって言語を翻訳することではないかと思いまして」
「それはありえません」
即答だった。何故だか希望が湧いてきて痛みもを忘れて立ち上がった。実はここ一ヶ月で変化したのは肉体のみだったのもあり、不安になっていたことは言えない。仕事で成果が出ないと焦るのは社会人なら分かるはずだ。
「そもそもギフトが分からないのは私の失敗です。ですが翻訳がレイの能力というのはあり得ない。何故ならそれは『契約』が成立したという意味だから」
「契約の成立? そんなことした覚えが無いんですけど……」
「それは当たり前です。呼び出しに少々失敗はしましたが、その辺りは私が全て力技……ではなく、綺麗に、淑やかに済ませました」
「ちょっと!? 契約の内容分からないんですが何やったんですか!?」
「……いろいろ」
アークさんが目をそらし、言葉を濁してきた。彼女にしては珍しい態度であり、それは本当に何かを隠しているということだ。
――これはチャンスだ。
頭の中でその言葉が過った。そうだ、今までずっとやられ続け、しかもやり返そうにも隙など何処にも無かった。しかし今まさにチャンスが巡ってきたのだ。僕だってやられ続け、言われ続けるのには慣れているが、決してやり返さない聖人という訳ではない。
「その契約の詳しいこと教えて下さい」
「大丈夫、何も問題ないわ。とりあえず訓練を進めていきましょう」
「問題ありです。一方的な契約は片方に不満などが起こり、いずれ反旗を翻すかもしれません」
「!? そ、それは私の元から離れて……虫側の味方をするということですか?」
「アークさんのやった契約次第です」
「……なるほど。それはいけない……とても、いけないですね」
顎に手を当て考えてますの体制に入ったことを確認できると、思わず「良し!!」と言いそうになった。昔漫画で見たことがあったのだ……フィジカルで勝てなければ技術で勝てばいいと。
今回それを当てはめると口で僕は勝ったのだ。これで何かしら知ることが……あれ?
「あれはダメね……これも少し危ないわ。どうしようかしら。縛っておいた方が良いの? それとも飾ったほうが、もしくは置物に……勿体無いわ。なら離れなければいい……そうですね、それがいい」
怖い。縛る? 飾る? え? 飾るって何ですか? 置物って? えっ、ちょっとこの人……じゃなくてこの種族やっぱり怖いんですけど。
「レイ」
「は、はははは、ハイッ!!」
「もう、ずっと一緒です」
「ちょ、動かないで下さい。本当に。まず、落ち着きましょう。その前に伸ばしてる手を下げて……あ、地形変えないで、氷出さないで、炎をまといながら近づかないで!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「そもそもレイが私から逃げられるはず無いんですけどね」
「もしかしてGPSとか埋め込んでるんですか?」
「また分からない単語を……全く、仕方ないので教えます」
物騒な雰囲気も不思議な力も抑えてくれたアークさんは、僕を地面に倒しお腹の上に乗りながら契約について説明を始めた。
「まず、レイの事をイレギュラーと言いました。それは七英傑の誰かに呼び出されそうになっていたところを私が強引に奪った……ところまで良かった」
「ですが本来呼び出され時は、呼び出した者の前に現れます。ここでまず契約をするのですが、あなたは違う場所にいた」
「そして私が私室に戻りレイを見た時、契約の内容を知りました。はっきりと言いますと、ほとんど了承されていました」
「レイの位置、命の状態、私への服従……これについては効き目が薄いですね。でもその他諸々あります」
「だからレイがどこに行こうと私にはすぐ分かりますし、私が本気で命令すればレイは人形に成り下がる」
数分前に恐ろしい目にあったが、もっと恐ろしいことだと感じた。契約の内容はつまり僕のプライベート丸わかり、面倒になったら人形にする。ここまで従順にしなくてはならない雇用は嫌だ……アーク株式会社は真っ黒だったのか。
「でもその契約のほとんどは使うつもりはありません」
「え?」
「私は……あなたと対等な立場でいたいんです。強制は一切しません……これは誓います」
真剣な表情でアークさんは僕に言った。体制が今の雰囲気に合っていないが、彼女はそういことを気にしない。人間と似ていて、だけど人間よりも遥かに力があると言われているオリジンが、ちっぽけで役に立てそうにない僕に誓った。
こういう不意打ちをされたら僕は……あっさり落ちる自身がある。
「ですが逃げられないというのはそれだけの理由ではありません」
「身体的能力でも劣ってますからね」
「違います。ここ、孤島ですから」
「えっ」
「言ってませんでしたね。私たちは七英傑や他のオリジンがいる大陸ではないんです。ここは『エヴァーガーデン』と言われている孤島……サピエンスが新世界と語りついている場所です」
曰くここには全てを手に入れることができる宝がある。
曰く辿り着いた者は神から力を授けられる。
アークさんがこの孤島について説明して始めて知ったことが多すぎる。確かにいつも訓練はこの城だと思われる中庭でやっていた。そのためまだ散策をしてなく、地理も確かめられずにいた。
だがアークさんは言う。
「この孤島にいる生き物は厄介……今のレイはあれらから見たらただのおやつです。だから敷地から絶対に出てはいけません。まあ、食べられてしまうぐらいなら私が食べます」
この瞬間さっきのときめきが消えた。
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