まとめ31 冒険者・6
そこには、竜がいました。
「あ、あれは……竜!? ですが、何か違う……?」
ビクリと体を振るわせながらすぐに違和感を感じ、首を傾げました。
そこでようやくわたしは竜の体が光沢を放っていることに気づきます。
あれ? それに……色も、なんだか変じゃないですか?
そう思った瞬間――。
「おやっさーん!」
「おじさーん!」
と誰かを呼ぶ声がするのに気づきました。
この声、何処から? キョロキョロと周囲を見渡しますが、誰かが居るようには見えません。
いったい何処に居るのでしょうか?
「この声、クラフとスミスなのです!」
「え、まじで!? 予想以上に早くないっ!?」
悩んでいると声の主に聞き覚えがあったようでセイン様が声を上げます。
その声に反応するようにサンズが驚きますが、ご主人様は一向に彼女を下ろそうとはしていません。
クラフとスミス、っていうと……勇者パーティの細工師と鍛冶師の人、ですよね?
でも、いったい何処から声を?
首を傾げつつ、周囲を見ますがやはり見当たりません。
そう思っていると、ミルクとココアが首を傾げました。
「あれから、金属のにおい?」
「なんだかキリキリいってる?」
「え?」
2人が見ているものを見ると、先ほどから上空に居る竜でした。
もしかして、そう思い始めた瞬間、竜が吼えました。
『GUUuuooOOOOOOOOONN!!』
――キュゥン、ブォン!!
咆哮が周囲に響いた瞬間、竜の口は開かれてそこから光の線が地上へと放たれました。
いったい何が起きたのか、それがわからずポカンとしていると……地面が吹き飛びました。
直後、モンスターの悲鳴が響き渡ります。
「え、えぇ!? な、なんですかあれっ!?」
「す、すっごいおと……」
「こ、こえー……」
地面が赤々と燃え滾っている状態に驚きながら叫びながらわたしは上空の竜を見ます。
一方でミルクとココアは驚いているようで、尻尾を膨れ上がらせているのが見えました。
一旦落ち着くべきですが無理です。
そう思いながら上の竜を見ていると、そこから声がしました。
「おーい、バカサンズー。まだ撃ち漏らしがいるから、処理よろしくねー」
「バカやってないでさっさと行動しなさーい!」
「だそうだから、放してよおっさん!」
聞こえた声に、サンズは嬉しそうに言います。
それを聞きながら、ご主人様はやれやれと言う風に呆れながら彼女を下ろして頭の手を放しました。
ご主人様の手から開放されたサンズは頭をわざとらしく揉みつつ、ご主人様を見ます。
「あーもー、痛かったなー。ボクの頭が壊れるかと思ったんだけどー? おっさんどーしてくれんのさー?」
「小父さまに馬鹿なこと言ってないで速く自分の不始末を済ましてくるのですサンズ!」
「ちぇー、セインのケチー。ま、それじゃ行ってくるよ」
そう言うとサンズは駆け出して行きました。
わたしたちはそれを呆然と見送りましたが、ご主人様にこの世界で最強の力だから見ておくように言われました。
その言葉に、またも忘れそうになっていたけれどサンズが勇者だということを思い出します。
なのでサンズの戦いを見ることにしましょう。
赤々と燃える地面へと向かうサンズを見ていると、彼女は竜が放った咆哮に怯えたモンスターを追いかけていました。
「あははははははははははっ!!」
戦うことが本当に楽しい、そう感じさせる笑いを放ちながら逃げ惑うモンスターを蹂躙して行きます。
しかもゴブリンやコボルトは敵ではないとでも言うかのごとく、素手で相手取っています。
「……って、あの、サンズの武器は?」
「サンズの武器ならここに……って何で持ってって無いのです!?」
わたしたちが居る場所の近くに置かれた剣を見ながら、セイン様が叫びます。
まあ、わたしでも叫びたくなりますね。自身の武器を持たずに逃げ惑うモンスターの大軍に向かっていくなんて、正気を疑いますよ。
そう思いながらサンズを見ると、巨大なモンスターと対峙しているのが見えました。
あれは、なんてモンスターでしょうか?
「オーガ相手に殴り合うつもりなのです!? ちょっと無謀じゃないのですかサンズ!!」
「オーガ……って、人食い鬼で有名な怪力モンスターじゃないですか!!」
「はいなのです。きっと、森の奥にいた所をゴブリンやコボルトに釣られて出てきたのです」
セイン様がそう言うところを見ると、この付近では生息していないモンスターなのでしょう。
そう思いつつサンズを見ていると嬉々としながらオーガへと殴りつけていました。
殴られたオーガは上半身を揺らし、お返しとばかりにサンズへと巨大な拳を打ちつけます。
彼女は拳を受け止め、地面を滑りました。
けれど少しだけ地面を滑ってから、オーガの拳を止めると同時にオーガを引っ張ったのかグラリとしました。
「あはははっ! パワー一辺倒でなんとか出来ると思ってた!? そんなわけないだろー!!」
「グロロロロロロロロロッ!! グゴロッ!?」
笑いながらサンズがグラリとしたオーガを蹴ります。
蹴り飛ばされたオーガはグルリとその巨体を回転させながら、地面を転がっていくのが見えます。
それをわたしたちは唖然としながら見ていましたが、セイン様が隣でモンスターたちに冥福を祈るかのように手を組んでいました。
「サンズ……、かなりストレス溜まってたのですね。発散して欲しいのです」
その言葉を聞き、わたしはサンズが冷静そうに見えてまだまだ苛立っていたのだということに気づきました。
モンスターには悪いですが、彼女のストレスが完全に無くなるまで相手をして貰うことにしましょう……。
そう思っていると、ミルクとココアに袖を引かれました。
どうしたのかと2人を見ます。
「フィンねぇ、降りてきてる」
「フィンねーフィンねー、上のが降りてきてるぞ!」
「え? あ、ほ……本当ですね」
驚きながらそれを見ていると、ゆっくりとこちらに向かって降りてくるのが見えました。
邪魔にならないようにご主人様たちとその場から少し距離を取ると、それは地上に降りました。
間近でようやく、2人が金属のにおいがするという理由がわかりました。
「これは……金属で出来た竜の彫像、ですか?」
降りてきたそれは金属で造られた巨大な竜の像でした。
それがどうやって空を飛んでるのかはわかりませんが、一種の芸術品のように見事な出来栄えです。
そう思っていると……。
「彫像? 違うね、こいつは魔力を動力にして動くメタルドラゴンさ!」
「本当大変だったし、ぶっつけ本番だったけどいい感じに空を飛んだし、熱線を放つことも出来たから大成功だったね!」
という声が響き、竜の彫像ことメタルドラゴンと呼ばれたそれの背から誰かが下りてきました。
誰か、ではなくこの方たちがサンズたちの仲間の細工師クラフ様と鍛冶師スミス様ですね。
そう思いながらわたしは、お二人の姿を……。
まじまじと見つめてしまいました。
少しだけ見ていました。
→その姿を見て驚きました。
わたしはメタルドラゴンと呼ばれた金属で造られた竜から下りてきたクラフ様とスミス様を見て驚きました。
何故なら、お二人の姿は真っ黒だったからです。
真っ黒な種族、なのでしょうかこの方々は?
そんな疑問を抱くわたしでしたが、セイン様の言葉で違うことがわかりました。
「クラフ、スミス、何でそんなに真っ黒なのです?!」
「え? あ、ほんとだ!」
「あはは、クラフ。真っ黒だね!」
「そういうスミスこそ真っ黒さ! あっはっはっは!」
どうやら自分たちが真っ黒になっていることに気づいていなかったようで、お二人は楽しそうに笑い合います。
それを見ながらわたしは唖然としていましたが、お二人の行動はしっかりと見ていました。
するとご主人様に視線を移し、どちらともなく手をシュッと上げました。
「おやっさん、ご無沙汰ー!」
「おじさん、ひさしぶりさー!」
それに対しご主人様も同じように手を上げて、久しぶりと声を掛けています。
ご主人様に声を掛けられたからでしょうか、お二人とも凄く嬉しそうに感じられます。
そう思っていると、セイン様が声を掛けました。
「ふたりとも! 小父さまに声を掛けられて嬉しいのはわかるのです。ですが、その前に汚れを取るのです!!」
「わかってるってばー、セインってば相変わらずだなー」
「でも久しぶりだよねー! ついでに人とまともに話すのも久しぶりー!」
ケラケラと笑い合っていますが、色々と悲しくなりますね……人と話すのが久しぶりだなんて。
どれだけ酷い環境で作業させられていたのでしょうか……。
頭の中でひどい現場というものをわたしは想像します。
そんな中、お二人の片方が動き出し地面になにかを描き始めました。
多分ですが、こちらが細工師クラフ様でしょうね。
そう思っていると描いていたものは描き上がったようでした。
「うん、これで大丈夫なはずさ!」
「よーし、それじゃあ入るねー!」
「ドンと来いさー!」
まるで良い仕事したぜ。とでもいう風に、クラフ様が額の汗を拭う仕草をすると流れるようにクラフ様が描いた図形の中へとスミス様が入って行きます。
すると、先ほどまで真っ黒だったスミス様の体から一気に汚れが取れ始めたではありませんか。
綺麗になっていく様を見ながらわたしはポカンとします。
「よーし、安全性はいつもの如くバッチリ! ってことで、わっちも汚れを落とすさー!」
「あ! クラフ、あちきで安全性確認したなー! 覚えてろよー!」
「あはは、いつものことさー!」
ぷんすかと怒るスミス様、ケラケラ笑うクラフ様。そのお二人を見ていると徐々に汚れが取れて行きます。
そして、完全に汚れが取り除かれてお二人の姿が確認できました。
聞いていた通り、お二人とも女性ですが……幼く見えますね。
それにお二人とも帽子が似合っています。
そう思いながら見ていると、視線に気づいたのかお二人がわたしたちを見ました。
「やあやあ、改めて初めましてだね。わっちはクラフさー」
「エルフに獣人2人。おじさんも良い趣味してるねー」
「あ、その、初めまして……ご主人様の奴隷のフィンです」
「あたし、ミルク」
「オ、オレはココアだ。その、よ……ろしく?」
頭を下げたわたしに続いて、ミルクとココアも挨拶をしますが微妙に警戒しています。
2人とも、少し失礼ですよ?
そう思いながら2人を見ていると、スミス様が声をかけて来ました。
「初対面の相手に警戒するのは当たり前だよー。うんうん、ちゃんとしてるねー。っと、あちきはスミスだよ」
自己紹介をしていないのを思い出したのか、スミス様も名前を言います。
それが終わるとお二人へとセイン様が声を掛けます。
「それで突然現れましたけど、2人とも受けていた作業はどうしたのです?」
「ああ、作業。作業ね?」
「だ、大丈夫さー。ちゃんと終わってるさー!」
「…………予想通り逃げてきたのです?」
セイン様の言葉に挙動不審とするお二人は、彼女の言葉にぎくりと固まりました。
そして、2人は……ぶうと頬を膨らませると、文句を言い出し始めました。
「だって仕方ないよ! やれ、名剣を創ってくれ魔剣を創ってくれって煩いのに、創ったら創ったで遅いとか言われてるんだよ。やってられないねー!」
「わっちも毎日毎日細工するのもちょっと飽き飽きしちゃってたさー」
要するに自由が与えられなかった上に、正統な感謝をされていなかったようです。
良くわかりませんが、きっと文句を言いたくなりますね。
「それでこっそりと創ってたメタルドラゴンの試乗を兼ねて……」
「おやっさんの所まで一直線に逃げてきたさー!」
そう言って、お二人は鎮座するそれを指します。
釣られるようにわたしもマジマジと見ますが、本当に金属で創られてる彫像のように見えます。
ですが同時に生きているような印象も感じられるように良く出来ています。
「これは……ゴーレムですか?」
「ゴーレム? 違う違う。良く似ているけれどこれには命があるんだよ」
「命、ですか?」
わたしの言葉に反応したのか、お二人は嬉しそうに声をかけてきます。
なので話しをちゃんと聞くことにしましょう。
「そう。命、っていっても記号で創り出した擬似的な命だけど。ちゃんと考えるし、言った通りに行動してくれるさー!」
「は、はあ……」
良く理解できないまま返事を返しつつ、メタルドラゴンを見るとわたしの向けた視線に答えるかのようにわたしをジッと見てきました。
その反応に驚きつつ、わたしはジッとメタルドラゴンを見ます。
すると、視線が恥かしいとでもいうように、体を揺すり始めました。
『GuRoRo……』
「!?」
は、反応しました!? 反応しましたよねこれ!!
驚きながらお二人を見ると、自分たちの成果を自慢したいのかその平たい胸を張っていました。
そんな彼女たちを見ていると、何かに気づいたのかわたしたちをジッと見てきました。
「あ、あの、なにか……?」
「うーん、残念だなーって思ったさー」
残念、ですか? その意味がわからず、わたしは首を傾げます。
それにわたしだけではなく、ココアとミルクにも言ってるみたいですから、本当に意味が分かりません。
そう思っていると、スミス様が近付いてきました。
そして、ジロジロとわたしたちを見るとクラフ様と同じように……。
「残念だなー」
と言いました。
わたしたちは本当に分からずに首を傾げます。
「あの、何が残念なのでしょうか?」
「ちょっとね。武器が泣いているんだよねー」
「武器が、泣いている?」
「そうそうー。例えばそこのエルフの弓は調整されていないから、上手く力が出せないって泣いてるしー」
次にミルクを見ると、
「そっちの猫の子は小太刀の手入れが雑で、泣いている」
「そうなの?」
「そうなのさー。で、そっちの犬の子は……」
「オレの盾ぇ……」
スミス様がココアを見ると、彼女は持ち手だけを悲しげに見ています。
それを見たスミス様は何とも言えない表情をしました。
「この子、まだ使われたがってるね」
「オレも使いたい。けど、本体が何処かに行っちゃって……」
「あー……そうなんだ。多分森の中にあるのかねー?」
そう言いながらスミス様は森のほうを見ます。
すると粗方モンスターを片付けたらしいサンズの姿が見えました。
「おーい、終わったよー★」
ブンブンとわたしたちへと手を振ります。
スッキリしたとでもいうかのようににこやかに笑うサンズの背後には、メタルドラゴンの炎を免れたモンスターたちの死体が転がっています。
そして、そんな彼女の手にはある物が握られていました。
それは……、
禍々しく歪で巨大な大剣でした。
→大岩と見間違える程の巨大な鉱石でした。
見るも恐怖なモンスターの首でした。
大きく歪んでボロボロの盾でした。
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